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中小企業・ベンチャー企業のための事業承継における信託の活用③~事例で学ぶ事業承継信託~

著者:ルーチェ法律事務所 弁護士  帷子 翔太

中小企業・ベンチャー企業のための事業承継における信託の活用③~事例で学ぶ事業承継信託~

1.設例の確認

前回の記事(中小企業・ベンチャー企業のための事業承継における信託の活用②~事例で学ぶ事業承継信託~)では、次のような設例における遺言代用信託の概要や骨子についてご説明させていただきました。

今回の記事では、同じ内容の設例を前提に、遺言代用信託を用いる場合の信託契約の例をご紹介したいと思います。

【設例】

創業者であるXは、75歳になったことを機に、事業を長男Yに譲りたいと考えています。Yは、A社に入って10年経ち、取締役であるものの、Xからみるとまだまだ経験不足のため、まだ様子をみたいです。そのため、生前は自分が100%株主として権利を行使して会社の重要事項を決定したいです。また、代表者として経営も行い、Yに経験を積ませたうえで、数年くらいしてから代表権も譲りたい気持ちです。

しかし、Xは、自分の年齢のこともあって、いつまで元気でいられるのか不安が拭えません。また、Xのこれまでの努力の甲斐あって、事業は好調のため、株価は高額となっており、Yにすべて譲るとなった場合、生前贈与を利用すれば税金の問題が、買取となれば資金の問題が出てしまいます。それだけでなく、Yに株式をすべて譲れば、Zの遺留分の問題も生じ、これまで特段仲が悪いわけでなかった兄妹間で紛争を起こしてしまうかもしれないということも危惧しています。さらに、代表を退いたあとのX自身の収入面での不満もあります。

このような状況で、Xは信託を用いて事業承継を行いたいと考えています。

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2.遺言代用信託について

遺言代用信託は、本人が自身の財産を信託して、生存中は自身を受益者とし、お亡くなりになった後などは、お子様などを受益者と定めることによって、本⼈がお亡くなりになった後における財産の分配まで決めてしまうことを、信託によって実現しようとするものです。「遺言代用」と呼ばれるとおり、通常は、遺言の内容になるような亡くなったあとのことも、生前に定めてしまうものです。

遺言代用信託、信託によって事業承継を実現する場合には、代表的な方法の1つです。

複雑なようにも思えますが、ポイントとなるのは、株主としての「地位」を、相続とは無関係な法人または個人とすることで、相続手続きから切り離しつつも、株主としての地位に基づく「権利」については、創業者や承継者等に帰属できるように整えて、事業承継をスムーズに行うという点にあります。

3.信託の骨子

創業者である父Xが遺言代用信託で実現しようとする内容の骨子は、以下の内容です。

【骨子図①】X存命中

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【骨子図②】X死亡後

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【骨子】

1 信託の目的 A社株式の100%を保有する創業者Xが高齢となった状況下で、
  • A社を長男Yに円滑に承継
  • Zの利益を確保し遺留分に配慮
  • X自身も安定収入を得て議決権行使を行う
  • X自ら受託者法人を設立
2 委託者 A社創業者(100%株主)、代表取締役X
3 受託者 Xが信託のために設立した一般社団法人B
4 信託財産 A社株式
5 第一次受益者 X
6 第二次受益者 長男Y、長女Z
7 受益権 収益から配当を受ける
8 指図権利者 X死亡または成年後見等開始まではX、以後はY
9 指図権の内容 議決権行使
10 X死亡 第二次受益権発生
11 終了事由 A社の消滅、長男Y死亡
12 残余財産帰属 受益者

4.信託契約の内容について

上記骨子の信託の信託契約書の例を次でご紹介いたします。以下からダウンロードしてお使いください。なお、各条項に関する説明は、紙面の都合上、次回に譲りたいと思います。

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有価証券管理等信託契約書

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著者プロフィール

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帷子 翔太

ルーチェ法律事務所 弁護士

2015年弁護士登録(東京弁護士会)
日本大学法学部助教(2016年4月~現在)
二松學舍大学国際政治経済学部非常勤講師(2017年4月~現在)
一般民事事件、一般家事事件(離婚・親権)、相続問題(相続・遺言等)、企業法務、交通事故、債務整理、刑事事件、その他訴訟案件を取り扱っている。

民法(債権法)改正の概要と要件事実』(共著、三協法規出版、2017)、『相続法改正のポイントと実務への影響』(共著、日本加除出版、2018)、『Q&A改正相続法の実務』(共著、ぎょうせい、2018)、『Q&A改正民事執行法の実務』(共著、ぎょうせい、2020)等

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