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〈はじめての経理財務〉 出資 小さなお仕事をするに当たって

著者: 税理士  髙橋 昌也

〈はじめての経理財務〉 出資 小さなお仕事をするに当たって

前々回の記事で資金調達の概要を、そして前回は法人と個人事業の概要を確認しました。

今回は資金調達における2つの方法、出資と融資のうち、出資について確認していきます。

法人を設立するに当たり大切な出資という考え方。ここをきちんと押さえておかないと、あとで手痛い目に遭ってしまうかもしれません。


出資と経営の分離

これまで会社勤務を続けていたけれど、ここらで独立開業でもしてみようか。そんなことを考えたとき、大概の方は「開業に必要なお金は、自分で用意するもの」と考えるのではないかと思います。
しかし、法人を設立しようとする場合、その考え方は原則的ではありません。法人という仕組みは、本来は「出資と経営の分離」が原則になっています。

  • 出資 = 事業に賛同し、お金を出す人
  • 経営 = 出資者から出してもらったお金を実際に運用する人

経営者は事業をはじめようと思った場合、自分の事業について出資を検討している人々にプレゼンテーションを行います。「自分はこんな仕事をしようと思っている。この仕事はこんな感じで儲かるので、ぜひお金を出して欲しい!」

そのプレゼンテーションを受けて、信用できると思った出資者はお金を出します。経営者が実際に事業を行い、儲けを出せた場合には、出資者は配当やその出資分を誰かに売却するなどして儲けを出すことができます。経営者は事業から得られた儲けの中から、自分の取り分をもらいます。

これが本来の「出資」という行為です。出資者は、仮に事業が失敗して、出資(お金や何かしらの資産)が失われたとしても、文句は言えません。なぜなら、経営者のプレゼンテーションを信頼して出資をしたのは、自分自身だからです。これがいわゆる「投資は自己責任」といわれるものです。

返済不要なお金が確保できる

経営者の立場からすると、出資者から受けたお金は、返済する必要がありません。これが融資、つまり借金をしたときと大きく異なります。出資を受けることができた時点で、返済不要な資金を確保することができるのが、最大のメリットです。
その上で経営者の責務は、事業でしっかりと儲けを生み、出資者に報いることです。もし業務にきちんと取り組まないと、経営者としてふさわしくないとしてクビを切られたり、訴えられてしまうこともあります。

ここまでが出資と経営の原初的な形です。現代社会では、出資者は株主と呼ばれ、事業体は株式会社となり、経営者は取締役、あとは俗称で社長なんて呼ばれていたりします。

法人(大概の場合は株式会社)という制度を活用しようとするなら、この原則論をしっかりと把握しておく必要があります。法律的には、株式会社は株主(出資者)のものです。つまり他人からの出資を受け入れた時点で、会社の持ち主としての地位を明け渡しています。いわゆる「雇われ社長」という状態です。

この点をよく理解しないまま、何となく「パトロンさんからお金を出してもらって会社をはじめた」という状態でスタートして、あとでトラブルになってしまう事例が散見されます。社長=会社で一番えらい人、くらいのイメージしかない人は、案外と多いのかな・・・と。

実際には出資と経営が一致していることがとても多い

ここまでのことが理解できると、実務でどんなことが起こっているのかがわかります。ごく小規模な法人では、出資と経営は一致していることがとても多いです。つまり株主=経営者(社長)ということです。

そもそも、出資を受けることのメリットは「返済する必要がない資金を調達できること」でした。しかし、自分で出資をするということは、自分でお金を用意するのですから、そのメリットを放棄していることになります。にも関わらず、社長自身が出資者となり法人を設立するのはなぜなのか?これは前回の記事で確認した、以下のようなメリットがあるためです。

  • 法人の方が個人事業主より信用度が高い
  • 儲けが大きい場合には、法人にした方が税金を安くできることが多い

この2点だけでも、法人にする意義は大きいです。そして、自らが出資者であれば、次のような利点も見込めます。

・大企業にはない小回りが発揮できる

一般的に、中小零細法人の強みは小回りであると言われます。出資者と経営者が同一であれば、いちいち出資者の顔色を伺うことなく、顧客からの様々な要望にササッと対応することが可能です。

・中長期的に事業を進めることができる

人にもよりますが、出資者というのは割と短期的に成果を求めることが多いです。「儲けがあるなら配当をして欲しい」「もっと早く成果を出して欲しい」と、そんなことを口々に言ってきます。
出資と経営が一致していれば、そういう短期的な意見に左右されることもありません。自分のペースで、10年、20年と事業を続けることができます(もちろん、短期的に成果を出し続けることも大切なのは当たり前ですが)。

これらの理由により、日本に数多ある法人の多くは、出資と経営が一致しています。

ただ、特に過去10年ほどで考えると、出資と経営が一致していることの弊害も出ているように思われます。出資者による厳しいチェックがないことにより、経営の改善がいつまでも進まないことなどです。
例えばIT化やDXと呼ばれる分野で中小零細企業はその取り組みが大幅に遅れています。この原因のひとつとして、出資者による経営者へのダメ出しが働いていないこともあるかと思います。

人間、どうしても変化からは逃げたくなるのが心情です。自分で出資をして法人を設立するなら、この点には注意が必要です。

共同経営、共同出資にはご注意

今回の記事の締めとして。よく「仲がよい友人と一緒に会社をやろうと思う!」みたいな話があります。そのとき、ふたりで同時に経営者(役員)に就任したり、共同で出資をすることも。

・・・個人的な意見ですが、これ、あまりオススメしません。人間関係というのは、状況によってたやすく変化します。事業をはじめたときは良好でも、何かのきっかけでお互いの信頼関係がなくなったとき、共同経営や共同出資は、ものすごくメンドクサイ状況を生み出します。

一緒に仕事をしていくのは難しい。でもどっちも役員だったり、どっちも株主だったりするということは、どちらが主導権を握るのやら・・・。リスク管理の観点からすると、出資や経営については楽観的に考えず、状況が変化したとしても対処しやすいようにしておく方が無難です。特に共同出資は本当にドロ沼になりがちです。

そもそも、独立開業をしようという方々の多くは、少々個性的な性格だったりすることが珍しくありません。「誰かと一緒に仕事をするのが面倒だから独立した」という場合が多いかと。
そのあたり、よ~~~~~~っく考えてから、共同経営や共同出資を検討した方が無難です。それこそ、一緒に仕事をしたいだけなら、それぞれ別々に独立開業しても構わないわけです。はじめるのは簡単、終わるときは地獄。くれぐれも慎重にご検討をば。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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