サラリーマンが知る税制シリーズ 第2回 所得税② 所得税のしくみ~総合課税・分離課税、損益通算~
前回は利子所得・配当所得・不動産所得など、所得の種類と所得税のしくみについて説明しました。
今回は、所得税の課税のしくみである総合課税と分離課税、さらには損益通算について説明します。
1.はじめに
前回の「所得税のしくみ」の記事では、所得の種類が10種類(利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・譲渡所得・一時所得・雑所得・山林所得・退職所得)あることを紹介しました。
今回は、所得税の課税のしくみである総合課税と分離課税について解説します。また、ある所得で黒字が出ても、ある所得で損失が出てしまったとき、その損失額を黒字から差し引く、損益通算というしくみについても解説します。
なお、前回同様、分かりやすくすることを最優先としていますので、表現に厳密性が欠ける部分があることは何卒ご容赦ください。
2.総合課税と分離課税
所得税は、すべての所得を合算して課税するのが原則になっています。これが総合課税という考え方です。
ところが、以下の所得については例外として総合課税に含まず、分離して所得税を算出することになっています。これを分離課税といいます。
【分離課税の対象】
- 土地建物等の譲渡所得(註:土地や建物を売ったときの利益に対する課税です)
- 株式等の譲渡所得(註:株式などを売ったときの利益に対する課税です)
- 先物取引の雑所得
- 山林所得
- 退職所得
- 上場株式等の配当所得(註:後述しますが、総合課税にすることもできます)
分離課税の対象は、いずれも一過性の所得という性格が強いものが並んでいます。
これらを総合課税としてしまうと、累進課税制度などにより該当年度は過大な所得税になってしまうため、分離して課税関係を完了したほうが納税者には有利とも言えます。
3.源泉徴収された所得税
所得によっては、対象者に支払う前に差し引かれて支払われる場合があります。これが源泉徴収で、国が所得税を先取りしてしまうものです。
対象年の所得がすべて確定し、所得税を算出した結果、当該年分として源泉徴収された分が算出した所得税よりも多ければ差額を還付、少なければ追加徴収を受ける、というしくみになっています。
給与所得は代表的な源泉徴収所得ですが、不動産所得や事業所得があると、仮にそれらが赤字の場合、所得は給与所得よりも少なくなりますので(後述する損益通算です)源泉徴収されている所得税は多く払い過ぎていることになります。
多く払い過ぎている部分は、確定申告により還付されます。
4.源泉分離課税と申告分離課税
分離課税には「源泉分離課税」と「申告分離課税」があります。
源泉分離課税は、支払いを受ける際に所得税を源泉して徴収されています。
源泉分離課税となるのは(タックスアンサーNo.2230に詳細の記述あり)銀行預貯金の利子などがあります。この場合は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)を差し引かれて支払われることで課税関係が終了(支払うべき税金を支払ったと扱うこと)します。
同じ利子でも、国債などの特定公社債等(国債、地方債、外国国債、公募公社債、上場公社債など)利子の場合は、申告分離課税とすることもできます。納税者の立場で有利なもの(支払う税金がもっとも少ない方法)を選択すればよいことになっています。
5.上場株式等の配当所得は総合課税、分離課税の選択が可能
一般的なサラリーマンが株式投資をする場合は、上場株式の場合がほとんどだと思われますので、その前提で解説します。
上場株式の場合は、その配当を受け取るときに、20.315%の所得税が控除されて支払われています(NISA口座の場合は非課税)。
これは、支払機関(証券会社)が代理徴収して国庫に納め、その分を顧客に支払うときに徴収していることになります。このまま何もしなければ、この配当に対する課税関係は終了します。
ところが、配当所得については、納税者は申告分離課税や総合課税を選択することもできます。その場合は確定申告をする必要があります。
選択できるということは、総合課税、源泉分離課税、申告分離課税のなかでもっとも納税者によって有利なケースを選択すればよいということになります。以下に概略を解説します。
(総合課税の選択)
上場株式の配当所得の場合、その源泉税は前述通り20.315%です。したがって、給与所得その他の所得と合算した総所得に賦課される所得税率がその割合以下であれば、総合課税を選択するメリットとなる可能性があります。
所得税テーブル(前回の記事「サラリーマンが知る税制シリーズ 第1回 所得税➀ 所得税のしくみ」を参照)によれば、課税所得が6,949,000円以下の人は所得税率が20%以下になりますので、配当所得を総合課税とするメリットが出てくる可能性があります。所得税を再計算した結果、源泉徴収された税金のほうが大きければ、その差額分は還付されます。
配当所得で総合課税を選択する場合、配当控除というしくみも使えます。これは、配当所得の一定割合を控除するもので、税額を軽減できる可能性があります。このしくみは少し複雑なので別の機会に解説します。
(申告分離課税の選択)
この場合では、配当所得と他の申告分離課税の所得を合算して所得税を計算します。税率は、所得税と地方税をあわせて20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。配当所得を含めた総合課税対象の所得を合算した所得が、この割合を超える場合(目安としては6,950,000円以上)は申告分離課税を選択したほうが有利になる可能性があります。
さらには、申告分離課税にすると、上場株式の譲渡所得との損益通算ができます。たとえば上場株式の売買で損失が出た場合、配当所得との損益通算で所得額が減り、納税額を適正額にすることができます。
6.損益通算
10種類の所得には、所得として手元に残るものもあれば(給与所得など)、費用などを加味すると赤字になってしまうものもあります(事業所得や不動産所得など)。
たとえば、あるサラリーマンが、勤務先の給与所得のほかにマンションの一室をもっていて、そこからの賃貸収入(不動産所得)があったとします。給与所得は通常はプラスです。不動産所得については、いろんな費用がかさんで赤字だったとします。
給与所得が500万円、不動産所得は△50万円だったとすると、その個人の所得は「500万円-50万円=450万円」となります。
サラリーマンの場合は、源泉徴収という形で所得500万円の前提で所得税を先払いしていますが、この計算により所得が下がりますので、払うべき税金は450万円の所得に対する所得税でよいことになります。
源泉徴収で多く払い過ぎていますので、払い過ぎた分は還付されることになります。
なお、以下の通り、損益通算は対象にできるものとできないものがあります。
【損益通算の対象となるもの】
- 不動産所得
- 事業所得
- 山林所得
- 譲渡所得
これらの頭文字を取って
「富士山上(不動産・事業・山林・譲渡)」
と覚えます。
譲渡所得については、長期に保有している居住用財産を譲渡したときの損失などが対象で、居住用でない土地や建物を譲渡した場合や、株式を譲渡した場合、生活に通常必要でない趣味・娯楽・保養目的の資産の売却や、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨董の売却で生じた損失などは対象外とされています。
7.復興所得税
これまでに出てきた税率で、20.315%という半端な数字が気になった人がいるかもしれません。これは、所得税(国税)15.315%と住民税5%を合算したものです。
0.315%は復興所得税と言い、東日本大震災からの復興のために活用される税です。所得税に2.1%を上乗せして算出され、2013年~2037年分までの25年間課税されます。この場合は15%の2.1%で0.315%と算出されます。
8.おわりに
複雑に見える所得税、実際にも複雑ではありますが、一つひとつを紐解いていくと少し理解が進むと思います。自らの生活に直結している税金ですので、ぜひ関心を高めていってほしいと思います。
次回は所得控除について解説します。
(参考資料)国税庁 タックスアンサー