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就業規則の作り方 通常の労働時間制と変形労働時間制を理解しよう

著者:社労士事務所ライフアンドワークス 代表  角村 俊一

就業規則の作り方 通常の労働時間制と変形労働時間制を理解しよう

社会・経済のサービス化が進み、多様な働き方が模索される中、1日8時間、週40時間という法定労働時間に縛られない働き方がいくつか認められています。

厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、労働時間の弾力的な取り扱いの1つである、変形労働時間制を採用している企業割合は59.6%となりました。

労働時間は賃金や休日と並び、労働者の関心が高い事柄です。定められたルールに従い、通常の労働時間制との違いを理解して、適切に変形労働時間制を運用する必要があります。

今回は、通常の労働時間制と変形労働時間制について解説します。


現行の労働時間制

現行の労働時間制は、通常の労働時間制と弾力的な労働時間制の2つに分けられます。

通常の

労働時間制

1日8時間、週40時間(法定労働時間)の一般的な働き方

弾力的な

労働時間制

変形労働時間制

一定期間を平均して法定労働時間の範囲内であれば、1日8時間、週40時間を超えて労働させることができる

フレックスタイム制

一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができる

事業場外みなし制

所定労働時間または労使協定で定めた時間を労働したものとみなす

専門業務型裁量労働制

労使協定で定めた時間を労働したものとみなす

企画業務型裁量労働制

労使委員会で決議した時間を労働したものとみなす

高度プロフェッショナル制度

一定の要件のもと、労働基準法に定められた労働時間等に関する規定が適用されない



通常の労働時間制とは、例えば、勤務時間が平日9時から18時(休憩1時間)というものです。1日8時間労働ですから平日5日間勤務すると週40時間となり、土日が休みとなります(週休2日制)。

【就業規則の規定例】

第〇条(労働時間及び休憩時間)

1 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分


労働時間は1日8時間、週40時間以内であればよく、1日7時間45分とか、1日7時間30分と決めても構いません。会社が設定した労働時間が所定労働時間といわれます。「令和2年就労条件総合調査」によると、1日の所定労働時間は1企業平均7時間47分、週の所定労働時間は1企業平均39時間24分となっています。

※特例措置として、商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の事業であって、労働者数10人未満の事業場は、週44時間まで働かせることが認められています。


3つの変形労働時間制

変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労働時間を効率的に設定することができる制度です。例えば、年末や年度末など繁忙期の労働時間を長くして、それ以外の閑散期は短くする、繁忙期である月末の労働時間を長くして、比較的暇な月の前半を短くすることなどが可能です。


【3つの変形労働時間制】

制度

1か月単位の

変形労働時間制

1年単位の

変形労働時間制

1週単位の非定型的

変形労働時間制

概要

1か月以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間以内であれば、特定の日・週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度

1か月を超え、1年以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間以内であれば、特定の日・週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度

1週40時間以内の範囲で、1日10時間を上限として、その枠内で労働させることができる制度

手続き

対象期間における各日・週の労働時間等を定めた労使協定または就業規則による

対象期間における労働日、労働日ごとの労働時間数等を定めた労使協定による

労使協定による

※労使協定は労基署へ届出が必要です


「令和2年就労条件総合調査」によると、変形労働時間制を採用している企業の大部分が「1か月単位の変形労働時間制」や「1年単位の変形労働時間制」を採用していますので、両者を中心にみていきます。


1か月単位の変形労働時間制

1か月単位の変形労働時間制は、シフト勤務や月の中で繁閑がある企業などで採用されます。


【1か月単位の変形労働時間制】

労使協定または就業規則等により、1か月以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをした場合には、特定された日または特定された週に法定労働時間を超えて労働させることができる

【労使協定または就業規則などに定める事項】

① 対象労働者の範囲
② 対象期間および起算日
③ 労働日および労働日ごとの労働時間
④ 労使協定の有効期間


1か月単位の変形労働時間制では、1か月の暦日数に応じて労働時間の総枠が決まります。例えば、4月や6月などの労働時間の総枠は171.4時間、5月や8月などの労働時間の総枠は177.1時間です。事業主はこの労働時間の枠内で、就業規則等に各日、各週の労働時間を具体的に定めなければなりません。あらかじめ勤務シフト表などで各労働日の労働時間を定めなければならないことに注意してください。

1か月の暦日数

労働時間の総枠(法定労働時間が40時間の場合)

31日の場合

30日の場合

28日の場合

177.1時間

171.4時間

160.0時間

就業規則の規定例は次のとおりです。

【就業規則の規定例1】

第〇条(1か月単位の変形労働時間制)

1 前条にかかわらず、〇〇課に所属する社員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月を平均して、1週間当たり40時間以内とする。
2 各月における勤務日の始業・終業時刻、休憩時間は次のとおりとする。

    ・各月〇日~〇日まで(繁忙期以外)

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

・各月〇日~末日まで(繁忙期)

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

3 休日については4週8日制とする。

【就業規則の規定例2】

第〇条(1か月単位の変形労働時間制)

1 前条にかかわらず、〇〇課に所属する社員の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月を平均して、1週間当たり40時間以内とする。
2 各日、各週の労働時間は、前月〇日までに勤務シフト表を作成して周知する。
3 勤務シフトは、下記のパターンの組み合わせにより行うものとする。

・A勤務

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

・B勤務

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

・C勤務

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

4 休日については4週8日制とする。
5 業務の都合その他やむを得ない事情により、労働時間を繰り上げ、又は繰り下げることがある。


1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1年のうち忙しい期間を事前に予測できる企業などで採用されます。


【1年単位の変形労働時間制】

労使協定を締結することにより、1か月を超え、1年以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをした場合には、特定された日または特定された週に法定労働時間を超えて労働させることができる

【労使協定に定める事項】

① 対象労働者の範囲
② 対象期間および起算日
③ 特定期間(対象期間中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができます)
④ 労働日および労働日ごとの労働時間
⑤ 労使協定の有効期間

特定期間は連続して労働させる日数の制限が緩和されますが、対象期間の相当部分を特定期間として定めることは、法の趣旨に反します

1年単位の変形労働時間制の対象期間は1年に限られず、6か月や3か月という期間でも構いません。対象期間に応じて労働時間の総枠が決まります。

対象期間

労働時間の総枠

1年の場合

6か月の場合

4か月の場合

3か月の場合

2085.7時間

1045.7時間

697.1時間

525.7時間



注意点は次のとおりです。

1.対象期間における労働日数の限度は、1年当たり280日です。
2.1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間です。 ただし、対象期間が3か月を超える場合は、次のいずれにも適合しなければなりません。
 ① 労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週以下であること
 ② 対象期間を3か月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回以下であること
3.対象期間における連続して労働させる日数の限度は6日です。
4.特定期間における連続して労働させる日数の限度は、1週間に1日の休日が確保できる日数です(特定期間には最大12日間の連続勤務が可能ということ)。



就業規則の規定例は次のとおりです。

【就業規則の規定例】第〇条(1年単位の変形労働時間制)

1 労働者代表と1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合、当該協定の適用を受ける労働者について、1週間の所定労働時間は、対象期間を平均して1週間当たり40時間以内とする。
2 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者について、1週間の所定労働時間は40時間、1日の所定労働時間は8時間とする。
3 1日の始業・終業の時刻、休憩時間は次のとおりとする。なお、年間における休日は、別途定める年間休日カレンダーによる。

【○月、〇月、〇月…】(繁忙月)

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分



【○月、〇月、〇月…】(繁忙月以外)

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

4 第1項の対象期間は1年間とし、その起算点は毎年4月1日とする。
5 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者の始業・終業の時刻、休憩時間は次のとおりとする。

始業・終業時刻

休憩時間

始業  〇〇時〇〇分

〇〇時〇〇分から〇〇時〇〇分まで

終業  〇〇時〇〇分

通常の労働時間制を採用するにせよ、変形労働時間制を採用するにせよ、事業主には適切な労働時間管理が求められます。特に変形労働時間制を採用した場合、時間外手当の計算が複雑になりますから、知らない間に未払い残業代が発生しないよう注意してください。

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著者プロフィール

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角村 俊一

社労士事務所ライフアンドワークス 代表

明治大学法学部卒業。地方公務員(杉並区役所)を経て独立開業。
「埼玉働き方改革推進支援センター」アドバイザー(2018年度)、「介護労働者雇用管理責任者講習」講師(2018年度/17年度)、「介護分野における人材確保のための雇用管理改善推進事業」サポーター(2017年度)。
社会保険労務士、行政書士、1級FP技能士、CFP、介護福祉経営士、介護職員初任者研修(ヘルパー2級)、福祉用具専門相談員、健康管理士、終活カウンセラー、海洋散骨アドバイザーなど20個以上の資格を持ち、誰もが安心して暮らせる超高齢社会の実現に向け活動している。

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