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第1回 テレワークの環境を加速させる必要性について

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

第1回 テレワークの環境を加速させる必要性について

テレワークの環境を加速させる必要性について

最初の緊急事態宣言(2020/4/7)から1年以上が経ちました。コロナの影響を受け、働き方、過ごし方、生き方に大きな変化を感じている方も多くいらっしゃると思います。テレワークの実施により、生活環境が180度変わったと思っていらっしゃる方もいるでしょう。

しかし、「テレワーク環境を整えること」は、コロナの影響を受ける以前から国、企業の喫緊の課題でした。まず、1990年代からのICT技術の革新を礎に、2005年に日本の人口が減少局面に入ったことを機に、労働力不足、少子高齢化が加速度的に進んでいる環境の打開策として。他にも、地震や台風、豪雨等の自然災害が毎年のように起こり、対策として「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」が叫ばれるようになったこと。また、第二次安倍内閣が発信した「一億総活躍社会」の実現のためにも、障がい者雇用や育児・介護等によるキャリアの中断を阻止すること等々も求められました。さまざまな状況の打開策として、テレワーク環境の整備は、以前から望まれ続けてきたことでした。

そんな中、2013年に東京でのオリンピック・パラリンピックの開催が決定され、特に関東圏の企業はその環境を整える必要性に迫られました。2017年からは政府や東京都などが連携し、年に1回「テレワーク・デイ」を実施してきました。2020年大会期間中の交通混雑の緩和を目的として、テレワークの一斉実施を呼びかけ、毎年参加団体、人数ともに数を増やしてきていましたが、今考えると鬼気迫ったものとしてはなかなか捉えきれていない状況だったように思います。

この1年の間に国や地方自治体も助成金や奨励金を準備し、たくさんの企業や個人においてもハードの環境はかなり整ってきています。ただ、急激にテレワーク環境になったことも関係し、ソフト面においてはさまざまな課題もあることから、コロナが落ち着いた後には元の仕事環境に戻ることも話題にのぼりますが、上記の理由からも以前と同じ状態に戻ることはないだろうと考えています。

生産性とは

テレワークを推進していくための議題のひとつに、「生産性は担保されているか」があります。現状を把握し、どのような状態を理想とするかを構想し、そこに向かっていくための施策を明確化していく必要がありますが、そもそも「生産性」の指標は具体的に何を示すものか、社内で共有されていますでしょうか。

「生産性」とは、 労働・設備・原材料などの投入量(インプット)と、それによって生み出される生産物の産出量(アウトプット)の比率のこと。生産のために投入される労働・資本などの生産要素が生産に貢献する程度のことで、生産量を生産要素の投入量で割った値で表します。簡単にいうと、モノをつくるに当たって投入したお金がどれだけ効果的に使われたかを測る数字です。少ない投資でより多く成果を挙げれば生産性は高くなるわけですが、この計算を行うためには測定するための単位を可視化し、明確にすることが不可欠です。この見える化によって、普段の仕事で指摘する「生産性」の内容がどのようなもので、どこまで適切なものなのかを改めて確認できます。生産性を向上させるためには、生産性の良し悪しを正しく測ることが重要です。

テレワークの環境において「生産性」がテーマになる場合は、特に「労働生産性」に関して注目する必要があります。これは労働者1人当たり、または労働時間1時間当たりの生産性のことをいいます。

日本のように人口減少や高齢化が進み、就業者数の増加や就業率の改善がさほど期待できなくなったとしても、それ以上に労働生産性が向上すれば、国民1人当たりのGDPは上昇します。賃金を増やす上でも、その原資となる付加価値をより多く生み出すために労働生産性向上が欠かせません。

日本生産性本部が、毎年「労働生産性の国際比較(※1)」を発表しています。コロナ前の2018年の結果は1人当たり、1時間当たりとも、36か国中21位。1位アイルランド、2位ルクセンブルク(※2)といった国と比較した場合、1人当たり、1時間当たりとも2倍もの開きがある状態でした。それらの国は法人税優遇措置ができていたり、産業構造の違いがあったりするとはいえ、人口が比較的多く、製造業が盛んで産業構造が日本に近いドイツでも、1人当たりの労働生産性は日本より36%ほど高い水準であり、時間当たりでみると56%も高くなっています。日本を主要7か国(※3)の中でみると、データ取得可能な1970年以降50年近く、最下位がずっと続いている状態です。テレワーク下においてどのような変化があったか、2020年の発表が待たれるところではありますが、他国と比較する中で日本の状況が一気に改善しているとはなかなか思えないことも事実です。

そのような日本においても、私共の協会には「テレワーク下、生産性が上がった」と答える企業の情報が数多くあります。それらの企業がそこに至るまでにどんなことをしたか、どのような苦労があったか等、次回から具体的なお話をお伝えしていきたいと思います。

脚注

※1:国際的に比較する上では、付加価値(国レベルではGDP相当)をベースとする方式が一般的。
労働生産性 = GDP(付加価値) / 就業者数(または就業者数 × 労働時間)
(GDPは購買力平価(PPP)によりドル換算)

※2:2019年の労働生産性が最も高かったアイルランド。アイルランドの労働生産性水準は1990年くらいまで日本とそれほど変わらなかったが、1990年代後半あたりから法人税率などを低く抑え、GoogleやAppleといった米国の多国籍企業などを呼び込むことに成功し、高水準の経済成長と労働生産性の上昇を実現した。2位のルクセンブルクも同様、税率を低くして企業を呼び込んでいる。法人税率などを優遇することで米Amazonなど多くのグローバル企業が欧州拠点を構えている。また、生産性が高くなりやすい金融業や不動産業、鉄鋼業がGDPの半分近くを占める産業構造が高水準の労働生産性に結びついている。

※3:フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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