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事業再生ADRとは? メリットやデメリット、手続きの流れを解説

監修者:弁護士法人山本特許法律事務所 弁護士  上米良 大輔

事業再生ADRとは? メリットやデメリット、手続きの流れを解説

事業再生の債務整理においては、裁判所を介する法的整理か、当事者同士が話合いを行う私的整理のどちらかを選ぶのが一般的ですが、事業再生ADRはこの両者の中間に位置する選択肢です。

本記事では、事業再生ADRの概要や、メリット・デメリット、実際の事例などを紹介していきます。


事業再生ADRとは?

事業再生ADRとは、ADRを用いた事業再生のことです。ここでは、事業再生とは何か、ADRとは何かを解説したうえで、事業再生におけるADRの位置づけを解説していきます。

事業再生の意味

事業再生とは、経営難に陥った会社の倒産を避けるため、債務整理を行いながら事業の改善をおこない、収益の出せる状態に立て直すことです。

債務整理とは、借金を減らしたり、返済に猶予をもたせたりする手続きのことです。

ADRの意味

ADRは「Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続)」の略で、その名が示す通り、裁判をせずに法的トラブルを解決する方法の総称です。

ADRの主なものには「あっせん」「調停」「仲介」の3種類があります。ADRは、裁判よりも短期間、低コストかつ、非公表で実施できる点がメリットです。

あっせん・調停

当事者同士のあいだに「あっせん人」「調停人」が入って話し合いを進めます。原則として当事者同士の話し合いによる解決を目指します。話し合いの中で、あっせん人や調停人が解決策を示すことはありますが、当事者同士はこれを拒否することもできます。

仲裁

当事者同士のあいだに「仲裁人」が入り、仲裁判断を行います。仲裁判断には法的拘束力があり、当事者は拒否することができません。仲裁を行うためには、当事者同士が事前に、仲裁を受けることに合意しなければなりません。


事業再生上の分類

事業再生における債務整理は、裁判所が関与する「法的整理」と、裁判所を介さずに債権者と債務者が直接やり取りする「私的整理」の2つに大別することができます。

事業再生ADRは、裁判所を介さないという点で分類上は私的整理の一つと位置づけられます。

しかし、裁判所ではないあっせん人、調停人、仲裁人を介しておこなうという点から見ますと、法的整理と私的整理の中間に位置する手段といえます


事業再生ADRのメリット

事業再生ADRのメリットは以下のとおりです。

  • 手続きの事実が公表されない
  • 取引先の信用を保つことができる
  • 税制上の優遇措置がある

それぞれ見ていきましょう。

手続きの事実が公表されない

裁判所を介する法的整理は、事業再生の手続きを行ったことが一般向けに公表されてしまいます。

しかし事業継続ADRは債務者と債権者のあいだで実施されるため、関係者以外に知られることはありません

取引先の信用を保つことができる

法的整理をおこない、事業再生の手続きに入ったことを取引先に知られてしまった場合、「倒産するのでは」と疑われるため、取引の継続が困難になり、さらに状況が悪化するおそれがあります。

事業再生ADRであれば、取引先に危機的状況を知られる可能性が低くなるので、信頼を失うリスクを最小化することができます

税制上の優遇措置がある

事業再生ADRを用いれば、税制上の優遇を受けることができます

事業再生ADRを用いて事業再生する計画が成立した場合、その計画の前提とされた会社資産の評価が出たときには、法人税計算の元となる益金または損金に算入することができます。

特にマイナス評価の場合は、法人税額の算定を低くする要素になるため、企業にメリットがあります。

また、事業再生ADRでは債権者から一定の債務の免除を受けられますが、この免除は法人税法上の益金となり、課税対象になります。

ここから赤字(繰越欠損金)や損金を引いて余りがあった場合も、期限切れ欠損金、という項目でその余り分(免除益としてプラスで残っている分)を損金として算入し、最終的な所得を0円(法人税課税なし)とすることができます。

不成立だったとしてもメリットがある

仮に事業再生ADRが成立せずに法的整理に移行しても、以下の3点については効力が維持されるケースが大半です。

  1. 商取引に関し生じた少額の債務に対する支払い
  2. 社債の元本の減免
  3. 繋ぎ融資への優先的な支払い

法的整理の際、特定の債権者のみに支払いを行うと債権者間の不公平を生むため、その支払いの効力が裁判所に否定されることがあります。

仮に成立しなかったとしても、事業再生ADRを試みておくことで、そういった事態の予防につながります。


事業再生ADRのデメリット

続いて、事業再生ADRのデメリットを見ていきましょう。事業再生ADRのデメリットとしては以下のようなものがあります。

  • 債権者全員の同意を得る必要がある
  • 費用が高額

債権者全員の同意を得る必要がある

事業債権ADRは、あくまでも債権者と債務者のあいだで合意を形成するための手段です。成立させるためには、債権者全員の同意が必要です。

成立しなかった場合は、裁判所を介する法的整理に移らなければなりません。

費用が高額

事業再生ADRは、私的整理と比較するとコストがかかります。手数料は1000万~1億円ほどとなり、経営難の状態にある中小企業にとっては大きな負担となるでしょう。

そのため、現状における事業再生ADRは、大企業でなければ利用の難しい制度です。


事業再生ADRの流れ

事業再生ADRをおこなう際の手順は以下のとおりです。

  • 事業再生実務家協会への申請
  • 事業再生計画の作成
  • 債権者会議
  • 事業再生計画の実行

順に見ていきましょう。

事業再生実務家協会への申請

まずはじめに、事業再生実務家協会への申請を行います。事業再生ADRは、国が認証した特定認証紛争解決事業者でなければ取り扱うことができません。

事業再生実務家協会は、国から認証を受けた、唯一の特定認証紛争解決事業者です。

事業再生計画の作成

次に、事業再生計画をまとめます。ここでポイントとなるのが、事業再生することで、倒産するよりも債権者に返済できる額を増やせるような計画が求められているということです。

債権者会議

債権者を集めて会議を行います。会議は3度行い、1度目で概要の説明、2度目で協議、そして3度目で決議となります。決議の場で債権者全員から合意を得られれば、事業再生ADRの成立となります。

事業再生計画の実行

事業再生ADRが成立したら、事業再生計画に基づいて事業を再生しつつ、債務の返済を行っていきます。


事業再生ADRの成功例・失敗例

ここからは、事業再生ADRを実際に申請し、成功した例と失敗した例をそれぞれ見ていきましょう。

【成功例】エドウイン

ファッションブランドのエドウインは、リーマンショックに端を発する資産運用の失敗で約200億円の損失を出し、2013年11月に事業再生ADRを申請しました。

伊藤忠商事がスポンサーとなり財政支援をすることを背景にADRを成立させ、2014年に債務の返済も終えました。

【成功例】文久堂

書店チェーンを展開する文教堂は、2019年6月に事業再生ADRを申請。

同年9月にADRが成立し、債務超過による上場廃止の猶予を1年得て、その後廃止の危機を免れました。

不採算店の閉店を中心に経営改善を行い、2020年8月には黒字化しています。もっとも、市場の縮減等もあり、なおも経営改善は続いている模様です。

【失敗例】大和システム

不動産開発などを手掛ける大和システムは、2010年6月に事業再生ADRを申請。

スポンサーからの支援を受けながら事業を立て直す計画を立てていましたが、同年9月にスポンサーからの支援が中止となったため、ADRを断念し、法的整理(民事再生)に移行しました。

その後、主要事業の他社への譲渡等を経て、会社自体は2012年に清算されています。

【失敗例】マレリホールディングス

自動車部品大手のマレリホールディングスは、2022年3月に事業再生ADRを申請しましたが、同年6月に行われた3度目の債権者会議で債権者全員の同意を得られませんでした。

結果、ADRは成立せず、法的整理の「簡易再生手続」に移行しました。その後同年8月に再生計画が認可されています。


事業再生ADRのまとめ

事業再生ADRは、事業再生における債務整理を裁判を用いずに行うことをいいます。

当事者どうしの話合いを基軸とするものの、あっせん人、調停人、仲裁人などが間に入るため、法的整理と私的整理の中間に位置する手段とみることができます。

経営難の中小企業にとっては費用が高額なため、現状では大企業に限られる選択肢ではあるものの、経営上の危機を取引先に知られることなく事業再生を実施できるため、事業再生の際には選択肢のひとつとして検討してみるのも良いでしょう。


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監修者プロフィール

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上米良 大輔

弁護士法人山本特許法律事務所 弁護士

2009年弁護士登録。大阪市内の法律事務所を経て、2012年にオムロン株式会社に社内弁護士第1号として入社、以降約7年にわたり企業内弁護士として、国内外の案件を広く担当した。特にうち5年は健康医療機器事業を行うオムロンヘルスケア株式会社に出向し、薬事・ヘルスケア規制分野の業務も多数経験した。

2019年、海外の知的財産権対応を強みとする山本特許法律事務所入所、2021年、弁護士法人化と共にパートナー就任。知的財産権案件、薬事規制案件を中心に、国内外の案件を広く取り扱う。

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