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ファクタリングに利息制限法は適用されるのか

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

ファクタリングに利息制限法は適用されるのか

1 ファクタリングとは?

今回は、中小企業でよく用いられる資金調達手段であるファクタリングを取り上げます。

ファクタリングとは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買契約あるいは債権譲渡契約であるとされています。

つまり、ファクタリングは、売掛債権を早期に現金化するための手段です。

(なお、ファクタリングには、上記のような売掛債権を売買(譲渡)する買取型と、売掛債権の貸し倒れリスクを回避するため保証会社に保証料を支払う保証型が存在します。企業の資金調達について解説するという趣旨に鑑みて、以下では買取型のみを取り上げ説明します。)

ファクタリングには2社間で行われるものと、3社間で行われるものが存在します。

2社間のファクタリングでは、まず会社が有する売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらい(売買契約:民法555条)、手数料分を差し引いた金額がファクタリング会社から会社に支払われます。その後、売掛先から会社が回収した売掛金をファクタリング会社に支払うことになります。

2社間ファクタリングでは、売掛先の合意は不要であるため、迅速に売掛債権を現金化することができますが、手数料は高めに設定されています。

3社間のファクタリングでは、まず会社は売掛債権のファクタリングを行うことにつき売掛先から合意を得る必要があります(債権譲渡契約:民法466条、467条)。かかる合意に基づき、会社は売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた代金をファクタリング会社から得ることができます。なお、売掛債権はファクタリング会社に譲渡されているため、売掛先はファクタリング会社に売掛金を支払うことになります。

3社間ファクタリングでは2社間ファクタリングと異なり、取引先の合意が必要となります。そのため、売掛債権の現金化にあたっては、2社間ファクタリングよりも時間がかかりますが、手数料は低めに設定されています。

いずれの方法にせよ、企業はファクタリングを活用することによって、早期に売掛債権を現金化し、会社の資金繰りに寄与させることができます。

2 ファクタリングのメリット・デメリット

ファクタリングを利用することで得られる大まかなメリットとデメリットを表に整理したうえで、それぞれ解説します。

メリット デメリット
支払期日前の売掛債権を現金化できる 手数料を割り引いた金額となる
融資と比べて一般的に審査は通りやすい (割高な)手数料がかかる
売掛先が倒産しても回収義務はない 売掛先の信用力によってファクタリングの可否が決まる

【メリット】

ファクタリングを行う最大のメリットは、売掛債権が発生した後、最速で当日中に現金化することも可能であることです。資金繰りに窮している中小企業にとっては、有効な資金調達手法となります。

ファクタリングを活用するそのほかのメリットとして、ファクタリングにあたっては売掛先の信用力が審査対象となっていることがあげられます。つまり、自社の信用力とは関係なくファクタリングを利用することができます。

また、売掛先に一定の信用力があればよいため、一般的に、銀行融資の審査よりもファクタリングの審査は通りやすいとされています。

さらに、仮に売掛先が倒産したとしても貸し倒れリスクはファクタリング会社に移っているため、売掛金が回収できないリスクを回避することができるといった点もファクタリングのメリットとしてあげることができます。

【デメリット】

ファクタリングを行う最大のデメリットは、(割高な)手数料がかかることです。ファクタリング会社によって差異はあるものの、一般的には、売掛債権の5~30%程度が必要となります。企業が本来得られる利益(売掛金)の一部を手数料として払ってでも、とにかく早期に手元資金を調達したい場合に有効な方法ともいえるでしょう。

また、ファクタリングの審査にあたっては売掛先の信用力が重要となるため、自社の信用力に問題がなかったとしても審査が通らない可能性があります。

なお、3社間ファクタリングの場合は、前述したとおり、ファクタリングにあたって売掛先の合意を得る必要があるため、売掛先との関係が悪化する(自社の信用が低下する)可能性があります。

3 ファクタリングに対する利息制限法適用の有無

2ではファクタリングのメリット・デメリットの説明にあたって、ファクタリングの手数料に触れました。

ファクタリングは売掛債権の一部を手数料として支払って現金化するわけですから、手形割引と同様に、手数料分が実質的に利息であると評価され、利息制限法が適用されうるようにも思えます。それでは次に、ファクタリングの法的性質と利息制限法適用の有無について説明したいと思います。

まず、そもそもファクタリングは、自社が有する売掛債権をファクタリング会社に売却あるいは譲渡して現金化する方法です。そのため、あくまでファクタリングの際にファクタリング会社に支払う費用は利息ではなく手数料となります。つまり、原則的には、ファクタリングに対して利息制限法は適用されません。

しかし、行われたファクタリングが実態として金銭消費貸借に準じるものであったような場合には、例外的に利息制限法が適用されることとなります。

では、ファクタリングに利息制限法を適用して過払金の返還を認めた裁判例(大阪地判平成29年3月3日判タ1439号179頁)を見てみましょう。

本件では、運送会社である原告(X)が、(貸金業の登録を受けていない)ファクタリング会社である被告(Y)に対し、Xの行った債権譲渡が実質は譲渡担保であり、XY間で行われた取引は、金銭消費貸借契約にもとづくものであったところ、XY間の取引により過払金が生じているとして、不当利得の返還を請求しました。

本件では、集合債権譲渡契約が締結されて譲渡人たるXに代理受領権限が授与されていました。しかし、最初のうちは債権の売買代金は決められるものの、YがXに実際に支払う売買代金額はその一部だけで、残額はYが債権全額の弁済を受けることを条件として支払われることになっており、後になると弁済期で特定した債権の一部だけが譲渡の対象であるとされていました。

これはつまり、最初のうちは債権の売買代金を100万円と決めつつ、YはXに内金60万円だけを支払います。次にYが債権全額の弁済をXから受けたら残りの40万円を支払うが、Yがそのような弁済を受ける事態は、Xが約定の金額をYに支払えなくなった後、Yが譲渡債権の満額を回収した場合に限り生じることとされていました。Yが譲渡債権の満額を回収できなかった場合は払わなくてよいため、債権100万円のうち60万円分しかYは買わないので、債権の残り40万円分が焦げ付いても、Yにとって実害はないという契約内容になります。

大阪地裁は、「金銭消費貸借契約であれば、貸主は、利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができず、債権の売買契約ということでこれを上回る利益を上げることが正当化されるとすれば、買主が、売買対象の債権につきある程度回収のリスクを負うなど、相応の理由があってしかるべきであるが、上記認定事実によれば、Yは、債権回収のリスクをほとんど負っていない。また、Yが上げた利益は、専らXとの間で繰り返し授受された金員の差額によるものであり、債権を売買の対象としたとはいえ、その代金を一部しか支払わないで済むとか、債権のうち一定の金額分のみをあえて売買の対象とするなど、債権の額面とは無関係に金員の授受がなされていた。

……Yは、本件取引は、Xの信用力でなく、あくまで債権の属性に着眼して代金額を設定しているから、金銭消費貸借契約でなく、債権の売買契約としての実質を有していたと主張する。しかし、Xに当該債権の代理受領権限があった本件取引においては、……取引の実態も踏まえると、債権の回収リスクは、Xの信用リスクと同じことであるから、Yの上記主張は、これまでの裁判所の判断を左右しない。

以上によれば、本件取引は、金銭消費貸借契約に準じるものというべきであるから、利息制限法1条の類推適用を受けるものと解するのが相当である。」と判示しました。

このように、大阪地裁は、ファクタリング会社が債権回収リスクをほぼ負っていないことを理由にファクタリングの実態が債権譲渡担保付きの貸付けであると判断しました。

そのほか、債権の額面とは関係なく、金銭の授受が行われていたことや、Xが買戻しを行わなかった場合にはXが不利になる条件をつきつけ、買戻しを行わざるを得なかったことなども判決を左右した要素の一つと考えられます。

4 おわりに

企業がファクタリングを活用する際には、企業の窮状に付け込んで高額な手数料を要求してくる業者(ヤミ金業者)に気を付ける必要があります。

上記事案のように、債権譲渡という形式を採りつつ、その実態は金銭消費貸借(貸付け)であると認められるような場合には利息制限法が適用され、上限金利を超えた分の過払い金を返還請求することが可能となります。

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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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