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[株主総会] 第2回:ハイブリッド出席型バーチャル株主総会①

中小企業におけるバーチャル株主総会の開催

著者: 日本大学商学部准教授、弁護士  金澤 大祐

[株主総会] 第2回:ハイブリッド出席型バーチャル株主総会①

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは

(1)定義

「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」(以下「出席型総会」といいます)とは、リアル総会の開催に加え、リアル総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会のことをいいます(実施ガイド3頁)。

(2)意義

出席型総会の意義としては、遠方株主の出席機会が拡大すること、複数の株主総会に出席することが容易になること、質問の形態が広がることにより、株主総会における議論(対話)が深まること、株主総会の透明性の向上、情報開示の充実等が指摘されています(実施ガイド7頁)。

(3)2020年度の実施状況

2020年度において、出席型総会を開催した上場会社は9社でした[1]

(4)リアル総会との違い

出席型総会とリアル総会との違いは、出席型総会では、株主総会の会場にいなくても、「出席」となること、動議権は原則として行使できないことです。

(5)実施の根拠と基本的な考え方

出席型総会の実施は、会社法施行規則72条3項1号を根拠に、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを条件に、出席型総会も可能であるとの解釈により認められています(実施ガイド11頁)。そのため、出席型総会におけるバーチャル出席株主の議決権行使は、会社法312条1項の電磁的方法による議決権行使ではなく、招集通知に記載された場所で開催されている株主総会の場で議決権を行使したものとして取り扱われることになります(実施ガイド11頁)。

また、出席型総会は、リアル総会に加えて、インターネット等の手段を用いての出席という選択肢を追加的に提供するものであると位置づけられることになります(実施ガイド12頁)。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、リアル総会への出席の自粛を要請する場合には、バーチャル出席を追加的な手段と位置付けることは困難であるとの指摘もなされています[2]

なお、役員が開催場所以外の場所からインターネット等に遠隔参加することも許容されており(会社法施行規則72条3項1号)、2020年度においては、議長を含む、取締役や監査役等についても、株主に対する説明義務を果たすための環境を確保しながら、インターネット等の手段により出席する事例もありました(実施事例集10頁)。

(6)配信方法

バーチャル株主総会の配信方法については、物理的に株主総会の開催場所に臨席した者以外の者に当該株主総会の状況を伝えるために用いられるもので、電話や、e-mail・チャット・動画配信等のIT等を活用した情報伝達手段とされています(実施ガイド2頁)。

そのため、動画配信システムに限らず、電話会議やインターネットを通じた音声のみの配信も可能となっています(実施事例集9頁)。

また、2020年度においては、通信の安定性等を確保するためにも、バーチャル出席を希望する株主に対し、事前登録を求める会社もありました(実施事例集12頁)。

さらに、2020年度においては、動画配信システム等を用いた配信では、数秒から十数秒程度の軽微な配信遅延(タイムラグ)が生じることが想定され、議事進行を円滑に行うために、①議決権行使の締切り時間をあらかじめ告知すること、②議決権行使から賛否結果表明までの間に一定の時間的余裕を持たせることといった運用が行われました(実施事例集18頁)。

(7)環境整備

リアル総会においては、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されています。これに対して、出席型総会においては、サイバー攻撃や大規模障害等による通信障害が発生し、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されなくなる事態が十分に想定され、情報伝達の双方向性と即時性が確保されないと、現行法の下では、出席型総会を許容できなくなります。

そのため、出席型総会においては、①会社が経済合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策をとること、②招集通知やログイン画面において、バーチャル出席を選択した場合に通信障害が起こりうることを告知すること、③株主が株主総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度、OSやアプリケーション等)やアクセスするための手順について通知をすることが必要となります(実施ガイド13頁)。

2020年度においては、Zoomなどの一般に利用可能なウェブ会議ツールを利用した会社、第三者が提供する株主総会専門システムのサービスを利用した会社、事前登録制を採用し、当該登録者数をもとに必要なサーバーを構築した会社がありました(実施事例集19頁)[3]

また、リアル総会においては、会社側の事情により、株主が審議又は決議に参加できない場合など、瑕疵が客観的に存在すれば会社法831条1項の要件は満たされ、会社が瑕疵の防止のため注意を払っていたといった事情は、裁量棄却の判断において考慮されるにすぎないとするのが従来の法解釈です。もっとも、出席型総会において、会社側の通信障害が発生し、バーチャル出席株主が審議又は決議に参加できない事態が生じた場合、株主にはリアル出席をするという選択肢があったため、リアル総会に全く出席の機会がなかった場合とは異なっています。

そこで、出席型総会においては、④会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知し、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていれば、会社側の通信障害は、決議取消事由には該当しない、又は該当したとしても裁量棄却されるとされています(実施ガイド13‐14頁)。

2020年度においては、通信障害発生時の対処シナリオの準備等をした会社もありました(実施事例集23頁)。

以上

脚注

1.尾崎安央=三菱UFJ信託銀行法人コンサルティング部編『バーチャル株主総会の実施事例』(商事法務、2021年)14頁

2.商事法務ウェブサイト「塚本英巨 事実上の『バーチャルオンリー型株主総会』を志向した『ハイブリッド出席型バーチャル株主総会』の開催のポイント」(最終閲覧2021年5月7日)、澤口実=近澤諒編著『バーチャル株主総会の実務〔第2版〕』(商事法務、2021年)105頁

3.澤口ほか・前掲(注2)113頁

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著者プロフィール

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金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

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