何が変わる?令和3年(2021年)税制改正 デジタル化関連の税制改正(押印義務や電子帳簿等保存制度等の見直し)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、テレワークの推進が急務となりました。その際に課題となったのが、企業や行政のデジタル化です。
そこで、デジタル化推進のための税制改正が令和3年度に行われました。
本記事では、デジタル化関連の税制改正である、①押印義務の見直しと②電子帳簿等保存制度の見直しについてお伝えします。
押印義務の見直し
これまで税務署長や地方公共団体の長に提出される申告書等の税務書類には、法律上、基本的には提出者に押印の義務がありました。
新型コロナウイルス感染症感染拡大を防止するためには、行政に提出する紙の書類に押印する必要があったり、行政窓口に行く必要があったりして、テレワークができないという事態を避ける必要があります。
こうした背景から、「規制改革推進に関する答申」(令和2年7月2日規制改革推進会議決定)や「規制改革実施計画」(令和2年7月17日閣議決定)において、行政手続の書面・押印・対面を求めるすべての法令や慣行について、全面的に見直しを行うべきであるとの方向性が示されていました。
出典:内閣府2020年度税制調査会第4回会議資料(2020年11月13日)P.32
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai1.pdf
改正後は、税務署長等に提出する税務関係書類や地方公共団体の長に提出する地方税関係書類について、実印や印鑑証明書を求めているものを除いて、押印義務が廃止されることになりました。
税務関係書類の種類 |
押印要否 |
|
原則 |
全般 |
不要 |
例外 |
(1)担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、 実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類 https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/pdf/02.pdf (2)相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち 財産の分割の協議に関する書類 https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/pdf/03.pdf |
要 |
※国税の犯罪調査手続における質問長所等への押印義務については存置されます。
出典:財務省令和3年度税制改正P13
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei21_pdf/zeisei21_05.pdf
及び 国税庁「税務署窓口における押印の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/index.htm
をもとに筆者が作成
こちらの改正は、令和3年4月1日以後に提出される税務関係書類や地方税関係書類について適用されます。
電子帳簿等保存制度と現状
電子帳簿等保存制度とは、電子帳簿保存法(以下、「電帳法」といいます。)に基づいて、納税者の文書保存に係る負担軽減を図る観点から、帳簿や国税関係書類の電磁的記録等による保存を可能とする制度です。制度自体は、平成10年度の税制改正で創設されており、比較的歴史のある制度です。その後平成17年、平成27年、平成28年の主な改正を経て、今の形の制度になっています。改正前の制度は、以下の3類型により成り立っています。
1.電子帳簿等保存(自社内の書類)
2.スキャナ保存(取引先等から受領する書類)
3.電子取引に係るデータ保存(取引先等から受領する書類)
1.電子帳簿等保存
国税関係帳簿書類の保存義務者は、国税関係帳簿の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合に、所轄税務署長等の承認を受けたときは、所定の要件のもとでその電磁的記録の備付けと保存をもって、帳簿の備付けと保存に代えることができます。税務署長への承認申請書は、備付けを開始する日の3か月前の日までに提出する必要がありました。
電磁的記録とは、具体的には、ハードディスク、コンパクトディスク、DVD、磁気テープ等の記録媒体上に、情報として使用し得るものとして、情報が記録・保存された状態にあるものをいうとされています。
また、所定の要件とは、以下の要件をいいます。
・訂正又は削除等の履歴の保存
・帳簿間での記録事項の相互関連性の確認ができること
・電子計算機処理システムの開発関係書類、説明書
・閲覧用モニターの備付け
・検索機能の確保
2.スキャナ保存
保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除きます)の全部又は一部について、スキャナ保存によって電磁的記録に記録する場合に、所轄税務署長の承認を受けたときは、その電磁的記録の保存をもって国税関係書類の保存に代えることができます。税務署長への承認申請書は、備付けを開始する日の3か月前の日までに提出する必要がありました。
国税関係書類のうち、財務省令で除かれるものとしては、棚卸表、貸借対照表、損益計算書等の決算関係書類です。
また、スキャナ保存については、改ざん等防止の観点から、内部統制要件が定められていました。内容については、次の税制調査会の資料をご参照ください。
出典:内閣府2020年度税制調査会第4回会議資料(2020年11月13日)P.17
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai1.pdf
3.電子取引に係るデータ保存
保存義務者は、電子取引を行った場合には、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされています。この場合は税務署長の承認は必要ありません。
これら3類型を税制調査会の資料で図示したものが次のものになります。
出典:内閣府2020年度税制調査会第4回会議資料(2020年11月13日)P.16
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai1.pdf
電子帳簿等保存制度の利用件数は、次のグラフのとおり推移しています。最も多く利用されている税目は、法人税・消費税であることがわかります。利用件数は16年間で増加傾向にあるものの、日本の全企業数を考えると、利用が1%にも満たない状況となっており、「伸びしろは依然大きい」と評価されています。
出典:内閣府2020年度税制調査会第4回会議資料(2020年11月13日)P.18
https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai1.pdf
電子帳簿等保存制度の見直し
これまで見てきたとおり、電子帳簿等保存制度は、創設されてから約20年が経過しています。税制は常に時代に合わせて改正をする必要がありますが、コロナ禍においては、経理電子化による生産性の向上や、テレワークの推進が求められることになり、経済社会のデジタル化に対応するための改正の機運が高まりました。
まず、改正後は、電子帳簿等保存とスキャナ保存の場合に求められていた、税務署長の事前承認が廃止されることになりました。
そして、電子帳簿等保存について、これまでは訂正又は削除等の履歴の保存や検索機能の要件を満たさないクラウド会計ソフト等の利用者は基本的に紙での帳簿保存が求められていましたが、最低限の要件を満たす電子帳簿も電子データのまま保存することが可能となりました。
スキャナ保存については、制度導入のボトルネックになっていた内部統制要件が見直しとなりました。
出典:経済産業省「令和3年度税制改正」P.45
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2021/zeisei_k/pdf/zeiseikaisei.pdf
これらの改正点をわかりやすくまとめると、次の図のとおりとなります。
出典:財務省「「令和3年度税制改正」(令和3年3月発行)」P13
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei21_pdf/zeisei21_02.pdf
こちらの改正は、令和4年1月1日以後にそれぞれ適用されます。
ウィズコロナ、ポストコロナの時代に合わせて、デジタル化関連の税制改正は今後も続いていくものと思われます。本記事が、会社のデジタル化について考えるきっかけとなれば幸いです。
【参考文献】
『どこがどうなる! ? 令和3年度 税制改正の要点解説』清文社、2021