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[契約書の書き方] 第9回:業務委託契約書(準委任型①)

著者: 弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表  林 康弘

[契約書の書き方] 第9回:業務委託契約書(準委任型①)

業務委託契約書(準委任型)ひな型

業務委託契約書(準委任型)ひな型

はじめに

企業が自社の事業を行っていく上で、専門的な能力を有する第三者の起用、コスト削減、リスク分散などの観点から、外部に業務の一部を委託することがあります。そこで、今回からは、外部に業務を委託する場合に作成される業務委託契約書について、規定例を示しながら解説していきます。

業務委託契約書とは何か

企業(個人事業主を含む)が、第三者に対し、その事業に関わる特定の業務を委託する場合に、その委託者と受託者との間で交わされる契約書が、業務委託契約書です。

民法上、「業務委託契約」という名の典型契約は規定されていません。委託する業務の内容が、何らかの仕事の完成を目的とするものであれば、その契約の法的性質は請負です。これに対し、仕事の完成ではなく、何らかの事務の遂行・処理を目的とするものであれば、その契約の法的性質は準委任(法律行為でない事務の委託,民法656条)ということになります。ただし、委託する業務の内容によっては、両者の法的性質を兼ね備えている業務委託契約も存在し、ケースバイケースといえます。

典型契約とは

民法に規定されている13種類の契約類型が、典型契約とよばれているものです。具体的には、贈与(549条以下)、売買(555条以下)、交換(586条)、消費貸借(587条以下)、使用貸借(593条以下)、賃貸借(601条以下)、雇用(623条以下)、請負(632条以下)、委任(643条以下)、寄託(657条以下)、組合(667条以下)、終身定期金(689条以下)、及び和解(695条以下)がこれに当たります。

契約書に貼付すべき収入印紙

取引基本契約書の解説(第1回)においても述べたとおり、印紙税のかかる課税文書に当たるか否か、また、当たるとしてもどの課税文書に当たるかについては、契約書の形式的な表題によってではなく、内容によって決まります。業務委託契約書が、請負に関する事項を定めるものである場合には、印紙税法別表第1の第2号文書(税額は契約金額によって異なります)に当たり、また、継続的取引(契約期間が3か月以内かつ更新の定めがないものは除く)としての委任事務の処理を定めるものである場合には、同第7号文書(1通4,000円)に当たり、それぞれ印紙税がかかります。

前文

ここからは、業務委託契約書の具体的内容について解説します。本コラムでは、まず、準委任型の業務委託契約(甲社が乙社に対し特定の事務の処理を委託する場合)を想定して、契約書の内容を検討していくこととします。請負型の業務委託契約等についても、本コラムで順次解説します。

株式会社△△(以下「甲」という。)と、××株式会社(以下「乙」という。)とは、○○の業務について、以下のとおり契約を締結した。

業務委託契約に限らずどの契約についても言えることですが、前文を設ける場合、契約当事者を特定することが重要です。また、上記の例の「○○の業務について」のように、業務委託契約の対象となる業務の内容等をここに端的に示すのが通例です。

委託業務の内容

第1条(委託業務)

甲は、乙に対し、次に掲げる業務(以下「委託業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
(1) ・・・・・・
(2) ・・・・・・
(3) ・・・・・・

業務委託契約においては、まず、対象となる委託業務の内容を具体的に規定することが必要です。本コラムでは、できる限り汎用性を持たせるために、規定例は抽象的なものに留めていますが、例えば、調査業務であれば、何の調査についてどの範囲で委託するのか、清掃業務であれば、どの建物のどの部分についてどのような清掃作業を委託するのかを、具体的に規定することが必要です。

内部通報窓口の外部委託

公益通報者保護法(平成16年法律第122号)は、事業者の法令に従った経営(コンプライアンス経営)を推進するため、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、JAS法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法等の法律に規定する罪の犯罪事実に関する内部通報等について、通報者の保護を図っています。

平成28年(2016年)12月9日に公表された消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」によれば、通報窓口について、通報者の匿名性を確保するとともに、経営上のリスクに係る情報を把握する機会を拡充するため、可能な限り事業者の外部(例えば、法律事務所や民間の専門機関等)に通報窓口を整備することが適当であるとされています。

このような外部の通報窓口業務を委託する際の契約も、本コラムで解説する業務委託契約の一類型です。

契約の存続期間

第2条(有効期間)

本契約の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までの1年間とする。ただし、期間満了の30日前までに、甲又は乙から解約の申し出がない限り、本契約と同一の条件でさらに1年間延長されるものとし、以後も同様とする。

本条は、本文において業務委託契約の有効期間を定め、ただし書において契約更新についての規律を定めています。これらは、当事者間の合意によって自由に定めることができます。長期間にわたる委託を予定している場合でも、一定期間の経過後に契約を存続させるかどうかを判断する機会を持つことができるよう、1年や2年程度の有効期間を定めておき、その後は、当事者の一方から解約の意思表示がされない限り自動更新を繰り返すという本規定例のような定め方をするのが一般的です。

委託料

第3条(委託料)

  • 委託業務の対価(委託料)は、月額○○円(別途消費税及び地方消費税)とする。
  • 甲は、乙に対し、毎月末日までに当月分の委託料を下記口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
    銀 行 名
    支 店 名
    口座種類
    口座番号
    口座名義

本条は、委託業務の対価を定めるものです。本規定では、月額報酬としていますが、総額を定めて一括払いとする場合や、総額を定めて契約締結時に一時金として一部を支払うこととし、残額を数か月後の一定の日に支払うこととする場合など、委託業務の内容に応じて様々なバリエーションが考えられます。

割合的な報酬の支払い

令和2年4月1日施行の改正民法は、委任者の帰責事由によらずに委任事務の履行をすることができなくなった場合、又は、委任が履行の中途で終了した場合、受任者が既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨を定めました(民法648条3項)。

改正前においては、受任者の帰責事由によらずに中途で委任が終了した場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができましたが(旧民法648条3項)、受任者に帰責事由がある場合には、履行の割合に応じた報酬請求をすることができませんでした。

これに対し、受任者に帰責事由がある場合でも、委任事務の一部が履行されたのであれば、既にされた委任事務の履行に対しては履行の割合に応じて報酬を請求することができるとするのが合理的という観点から、改正民法では、上記のとおり割合的な報酬請求をすることができる旨の規定が新設されました(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』〔商事法務、2018〕350頁)。

また、改正民法は、雇用(624条の2)、請負(634条)、及び寄託(665条で準用する648条3項)においても、割合的な報酬に関する規定を設けています。

費用負担

第4条(費用)

甲は、乙に対し、別途定めるところに従い、乙が委託業務の処理のために支出した旅費交通費、書類複写費等の費用を支払わなければならない。

本条は、委託業務の処理のために必要な費用を支出した場合の費用負担について定めたものです。どの範囲でどのようにして費用を支払うかについて明確にするため、本契約書とは別に費用負担に関する覚書のような書面を取り交わすことを前提としています。

民法上、委任契約においては、委任事務の処理に必要な費用についての前払請求権(649条)、費用償還請求権(650条1項)及び代弁済請求権(650条2項)が規定されています。本条は、これらの規定に対する特約を定めるものとなります。

次回も、業務委託契約(準委任型)に関する規定について解説します。

(第9回・以上)

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著者プロフィール

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林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京弁護士会民事訴訟問題等特別委員会副委員長。常葉大学法学部非常勤講師。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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