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いかにしてグローバルニッチをつくるか。

トップインタビュー最終回


オーマイグラス株式会社
代表取締役社長 CEO
清川忠康

(インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太)

人がやらないことだから、やる価値がある

清川忠康社長は、アメリカ・スタンフォード大学のビジネススクールに2年間留学し、具体的なノウハウとともに起業家精神を学んだ。「日本発のイノベーションを世界に」という志で帰国後に立ち上げたオーマイグラス株式会社は、ネット通販でメガネを販売するという画期的なものだった。周囲の誰もが「失敗する」と言うなかでも、清川社長の成功への確信は揺らがなかった。その根拠はどこにあったのだろうか。

イノベーションは過去の継続からは生まれない

――お話を少し戻して、留学のことを伺いたいと思います。スタンフォード大学では、具体的にはどのようなことを学ばれたのですか?

たくさんありすぎて、一言では語れませんが、スタンフォードの特長としては、専門性を狭めるのではなく、選択の幅を広くするというものがありました。

まず、他大学なら必ずある「専攻」というものがありません。必修科目と選択科目がありましたが、必修は、会計学、金融、マーケティング、リーダーシップなど本当に基礎的なものが中心でした。選択科目は幅が広く、ビジネススクール以外のスクール、すなわち地球科学、教育学、工学、人文・理学、法律、医学の科目も選ぶことができます。

私は基本的には、組織論、アントレプレナーシップを中心に関連する授業を取りました。スタンフォードでは、起業したときに最も大切なのは人であるという考え方が強く、コミュニケーションスキルを重視した組織論、アントレプレナーシップ教育に定評があるので、それを重点に置いて学びました。

――特に印象に残っている授業はありますか。

ジェットブルー航空のジョエル・ピーターソン会長が講師を務める「マネージング・グローイング・エンタープライズ」という授業はとても刺激的でした。

ケーススタディという実際の事例研究を用いた授業なのですが、その事例というのが実際の起業家たちの具体例になっていて、しかも毎回、その起業家本人たちがゲストとして呼ばれるというものでした。

事例なのですが、その事例に関わった本人がそこにいるわけで、非常にリアリティの高いものでした。特に人間関係に関わるケーススタディも多く、しかもその事例と同様の役割が各学生に当てられ、自ら考え、自ら答えをださなければならないので、緊張感の連続でした。例えば、対立する社長と常務がいる取締役会とか、リストラを余儀なくされている社長と従業員とか、とても生々しかったです。

――それはすごいですね。

毎回、実際の経営者がゲストにやってくるというだけでもすごいですが、実際に自分がその役割を演じることで学んだことも多かったと思います。

――スタンフォードで学ばれた内容というのは、今のビジネスにどのように役立っていますか。

具体的に何がどこで活きているかというのはわからないですね。これからどこに活きてくるかも予想できないです。ただ、組織の作り方とか、マネジメントの手法などは参考になっていると思います。

また、「経験と直感を信じない」ということも学びました。経験とは過去のことなので、新しいことをやるときに足枷となります。イノベーションは過去の連続からは生まれません。また、直観で意見するのではなく、事実の積み上げを大切にすることが重要だと教わりました。

――経営も科学的にということですね。

そうです。これは大企業からイノベーションが生まれない要因でもあると思います。大企業にはイノベーションを殺してしまう構造があるのです。過去の成功体験や上司の直観という制約に囚われてしまうというシステムです。過去、経験、直観からはイノベーションは生まれません。

――たしかにそうです。

また、スタンフォードでは経営で最も大切なのは人材だということを徹底的にたたき込まれました。悪い人とよいビジネスはできません。人材については「そうは言っても、ベンチャーではよい人材はなかなか採れない」などと言う人がいますが、そこで妥協してはいけないと思います。

――ご自身が人材を採用する際に基準としていることはありますか。

本当にベンチャーでやっていく覚悟があるのかどうかを判断するための「踏み絵」を用意するようにしています。例えば、私たちの場合は、前職よりも給料を下げるという「踏み絵」があります。これは、給料をケチっているわけではありません。「給料が下がってでもやりたい」という人が来てくれることになりますから、少なくとも給料目的で来る人をふるいにかけることができるのです。

日本からChange the Worldを実現する

――「Oh My Glasses(オーマイグラスィズ)」はしっかり作り込んでから公開されたのですか?

もちろん、作り込んだつもりでしたが、現在はサービス開始当初とはかなり違った形に改良されています。最低限の製品やサービスを作ってお客さまの反応を見て改善していくという、いわゆるリーンスタートアップに近いかたちで、そのサイクルを繰り返しました。

――ネットビジネスのリーンスタートアップについては、どうお考えですか?

最初から完璧に作り込む必要はないと思います。最初は「絵」でいいでしょう。はっきりと「試験です」と打ち出しておけばいいだけです。ただし、物販の場合、あまりにも早い段階でリーンスタートアップしてしまうと、イメージした価値をお客さまに提供できないという問題もあります。必要最小限のレベルは、きちんと見極めたほうがいいでしょう。

――今後の御社の展開ですが、やはり日本から海外へとお考えですか?

現時点ではまったく具体化はしていませんが、将来的には目指すところです。

ベンチャー企業としてはグローバルニッチをどのようにつくかが重要になってきます。私たちの課題のひとつは、バリューチェーンをいかにコンパクトにするかです。それから、自社ブランドのヒット商品を生み出せるかが次のポイントです。いろいろなところと協業しながら、模索しています。

ファッションブランドというのは、グッチやプラダ、フェラガモなどがお互いにうまく共存しています。グッチが売上を伸ばしても、プラダやフェラガモの売上は落ちません。競合と差別化がされているからです。私たちの自社ブランドも、そんなふうに競合と共存できるブランドにしていきたいです。

――最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

今、日本は非常に厳しい局面にあると思います。ベンチャーはリスクが高いなどと言われますが、実は大企業の方がリスクは高いだろうと思っています。なぜならば、組織のなかの一機能としての専門性は身に付きますが、自ら事業を立ち上げ、お金を稼ぐ経験をすることは難しいからです。ですから、お金を稼げる力が早く身につくところで仕事をするべきだと思います。

 これから、日本は海外の企業に侵略される可能性が高いです。円安が進んでいけば、日本国内で「円」だけ稼いでいても厳しくなります。「Change the World(世界を変えよう)」で、まず自分を変え、そして日本から世界を変える気概を持って、ビジネスに挑戦する人が一人でも多く生まれることを望んでいます。

KOSHIISHI’S NOTE ~インタビュー後記~

清川社長のスタンフォード留学時代の話を聞いていると、日本の企業文化や社会人教育の違いを痛感しました。もっとも印象に残ったことは、失敗を恐れずチャレンジする精神やその失敗も予測してまわりがサポートする環境についてです。

一度失敗してもその理由が明確で改善の余地があれば、再び投資する支援者がいるということ、早い時期の失敗が後の大きな成功の糧となることを理解していること、これらが若くして成功を収める経営者が米国で多い理由だと思います。

こだわりの強いメガネという商品をネット通販で販売するという清川社長のビジネスモデルは前例にありません。しかし、前例がないからこそ自信を持って挑戦しています。留学時代で学んだ経験が大きいのではないでしょうか。

未来を見据え輝いている清川社長の目が印象的なインタビューとなりました。

株式会社クライアントサイド・コンサルティング
代表取締役社長 越石 一彦

<完>

インタビュアー:越石一彦、構成:木村俊太

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