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もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズQ&A③ 減損処理

著者: 中小企業診断士  髙岡 健司

もしも経理をやることになったら… 経理の仕事シリーズQ&A③ 減損処理

初めて経理担当者になられた方に向けて、経理の仕事を解説する経理の仕事シリーズ。

今回は、減損処理についてQ&A形式で解説していきます。


1.減損処理とはどのようなものですか?

減損処理とは、投資金額の回収ができないと判断された時点で、回収が見込める金額まで固定資産の価値を下げる会計処理のことを言います。

資産の価値は「その資産を用いてどれだけの収益を生み出すか?」という観点で評価されます。減損処理とは、資産の収益を生み出す力が落ちた場合、固定資産の評価を本来の価値まで下げることを言います。

ここで例をあげて説明していきます。

あなたの経営している会社が、新たな機械を購入し、現金500万円を支払った場合の仕訳は次のようになります。

<仕訳>

借方

貸方

機械装置  5,000,000

現金  5,000,000

この仕訳により、有形固定資産に機械装置500万円が計上されました。これは「500万円の価値がある機械を購入した」ということを意味します。

しかし実際に機械を稼働させたところ、故障ばかりで上手く稼働しません。

機械装置は、それを稼働させて売上を生むことが求められます。しかし故障ばかりで上手く稼働せず収益を生み出さないのであれば、その機械装置に500万円の価値はないでしょう。このような場合は、本来の価値に見合うように機械装置の評価を下げる必要があります。

これを減損処理と言います。


2.減損処理はどのような時におこなうべきなのか教えてください。

減損処理の概要を説明しましたが、機械の故障が多いからといって直ぐに減損処理をしてはいけません。なぜなら、減損処理を安易におこなうことにより、利益操作が可能になるからです。

ここでは減損処理をおこなうプロセスを紹介していきます。

(1)資産のグルーピング

まずは、工場をイメージしてみてください。工場では、さまざまな機械設備を集めて生産をおこないます。個別の機械だけを見ても、その機械がどれだけ売上を生んでいるかは分かりません。

減損会計をおこなう際は、売上を生み出す最小の単位ごとに資産をグループ化します。

これを「資産のグルーピング」と言います。

(2)減損の兆候の把握

資産のグルーピングによってまとめられた資産ごとに、減損の兆候が発生しているか判定していきます。

「固定資産の減損に係る会計基準」において、減損の兆候として次のような事項を例示しています。

  • ① 資産または資産グループが使用されている営業活動から生じる損益またはキャッシュフローが継続してマイナスとなっているか、あるいは継続してマイナスとなる見込みであること
  • ② 資産または資産グループの使用されている範囲または方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じたか、あるいは生じる見込みであること
  • ③ 資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したかまたは悪化見込みであること
  • ④ 資産または資産グループの市場価額が著しく下落したこと

①は営業活動から生じる損益またはキャッシュフローが継続してマイナスとあります。
継続してマイナスとは、2期連続してマイナスであることを指します。
過去に2期連続で営業活動から生じる損益またはキャッシュフローがマイナスで、今期もマイナス計上する見込みであることが要件になります。

②は資産の著しい稼働率低下や機能低下などを指します。

③は法改正や規制緩和などにより経営環境が著しく悪化することです。

④は資産または資産グループの市場価値が50%以上下落した場合です。

(3)減損の認識の判定

減損の兆候があると判定された場合、次は「減損の認識の判定」という基準から減損処理を実施するかを判定します。

減損の認識の判定においては、割引前将来キャッシュフローと帳簿価額を比較します。

割引前将来キャッシュフロー<帳簿価額・・・減損処理実施

割引前将来キャッシュフロー>帳簿価額・・・減損処理不要

割引前将来キャッシュフローとは、「資産グループが将来稼ぎ出す金額の合計」です。

割引前将来キャッシュフローが帳簿価額を下回るとは、固定資産が将来稼ぎ出す金額が帳簿価額を下回ることを意味しており、減損処理の対象になります。


3.減損処理の際に計上すべき金額はどのように判定するか教えてください。

減損処理を実施する場合の金額である減損損失は次のように判定します。

減損損失の測定

減損損失=帳簿価額-回収可能額

ここで回収可能額について説明します。

回収可能額とは、「使用価値」と「正味売却価額」のいずれか高い方を指します。

  • ① 使用価値とは、該当する資産グループを継続的に使用した場合と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値のことです。
    使用価値は「今後、対象となる資産から稼ぎ出すキャッシュフロー」と「その資産を処分した際の金額」の合計のことを言います。
  • ② 正味売却価額とは、該当する資産グループの時価から、その資産などを処分したときにかかる費用の見込み額を差し引いて計算した金額です。
    正味売却価額のイメージは、「該当する資産を売却した場合に手元に残る金額」のことだとお考えください。

①の使用価値は今後その資産を使い続けた際に生じた収益で回収できる額、②の正味売却価額は現状においてその資産を処分した場合に回収できる額になります。

実際の減損損失の算定にあたっては専門的な知識を必要とするため、公認会計士などの専門家に相談することをお勧めします。


4.減損処理の対象となる資産はどのようなものですか?

減損処理の対象資産は固定資産です。

<減損処理の対象資産>

①有形固定資産

②無形固定資産

③投資その他の資産

無形固定資産の「のれん」は減損処理の対象になり、よく話題にあがります。

のれんとは、M&Aで買収された企業の時価純資産評価額と実際の買収価額との差額です。

M&Aにより事業を買収したが、実際には予想ほど事業が成功しなかったケースは減損処理の対象となります。


5.新聞報道などで減損処理について目にしますが、減損処理をおこなうとどのような影響がありますか?

「株式会社A商事が減損損失により〇〇億円の赤字計上」

このような記事を新聞などでご覧になられた方は多いかもしれません。

一般的に減損損失は莫大な金額になるために、減損損失を計上した場合、企業は大幅な赤字に陥ります。赤字計上により財務状態の悪化、株価の下落などの影響をもたらします。

また、減損損失は投資の失敗が原因であることが非常に多いことが特徴です。この場合は、M&Aに失敗したことが対外的に明らかになり、株主や投資家などから経営責任を追及される可能性が高いです。

これまでは減損処理のデメリットを説明しましたが、もちろんメリットもあります。

減損処理のメリットは、減損処理後、企業の収益性が向上する可能性が高いことです。

減損処理の実施により、固定資産の帳簿価額が減少します。帳簿価額の減少により、年間の減価償却額も少なくなり、減損処理後は利益が出やすい財務体質に変わります。またROE(自己資本利益率)やROA(総資本事業利益率)の向上にもつながります。

以上から、減損処理により短期的には企業価値減少や株価の下落を招くかもしれません。しかし、減損処理は財務状態を「あるべき姿に戻す」ことを意味しており、長期的には企業に対する評価は回復することが一般的です。


最後に

今回は減損処理について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

実際に減損処理をおこなう際には、公認会計士などの専門家に相談して処理しながら進めることをお勧めします。経理担当者としては、減損処理という概念をまずは理解することが大切です。

今回の記事で、減損処理についての理解を深めていただければ幸いです。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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