CAGRとは? 経営判断に欠かせない指標をゼロから分かりやすく解説
「CAGR(年平均成長率)」という用語を正確に理解していますか?言葉を耳にしたことがあっても、具体的な意味や活用方法をしっかり理解していないと、ビジネス判断を誤ることがあります。
しかし、CAGRを正しく理解すれば、企業の成長性を正確に評価して将来の戦略策定に役立てることができるでしょう。
本記事では、CAGRの基礎から計算方法、実際に使われる場面、さらに他の重要指標についても専門的な観点から詳しく解説します。CAGRを武器に、ビジネスの成功に一歩近づきましょう。
CAGR(年平均成長率)とは?
CAGRとは「Compound Annual Growth Rate」の略称であり、日本語では「年平均成長率」と呼ばれています。
複利を加味した上で、複数年の成長率から1年あたりの成長率を測定する指標です。企業や事業における1年あたりの成長率を表すほか、投資の利益率を示すこともあります。
読み方は、「シーエージーアール」とそのまま読む場合が目立ちますが、「ケーガ」と読むケースもあるようです。
年度ごとに数値のばらつきが出やすいデータを扱う際も、複利に考慮した推移の見方ができるため、他社との収益面の比較なども行いやすくなるでしょう。
CAGRを算出する目的
CAGRとは、今までの経営状況を明示する重要な指標のことを言います。CAGRを算出する目的は、今後の経営状況の予想を立て、経営戦略を練ることです。
CAGRを算出する年数を変えることで、さまざまな角度から経営分析に活用できます。たとえば、過去5年以内の短期間で設定すると、直近の経営戦略の効果を測ることが可能です。それに対して、過去10年以上の長期間で設定すると、会社の根本的な経営力や安定性を見ることができるでしょう。
また、CAGRは、投資を検討する際の企業分析や、自社の立ち位置を把握する際の業界分析にも活用されます。投資に関しては、CAGRだけでなく、ほかの指標も取り入れて、複合的観点から検討しましょう。
CMGRとCAGRの違い
CAGRと類似の指標に、「CMGR」があります。CMGRは「Compound Monthly Growth Rate」の頭文字を取った略称です。
CAGRにおける「Annual(年間)」のAが「Monthly(月間)」のMに変わったものです。日本語で「月平均成長率」と呼びます。
CAGRは企業の1年ごとの平均成長率を示すのに対して、CMGRは企業のひと月ごとの平均成長率を示します。CAGRの計算方法は後述しますが、双方とも基本的な値の求め方は変わりません。
短期間で売上が大きく変動している場合や、創業して間もない企業が経営戦略を考える場合には、CAGRよりもCMGRを重視します。
CAGRの基礎となる複利計算とは
CAGRを算出するには、複利計算の考え方を理解しなければなりません。
「複利」とは、もともとのお金である元本に発生した利子にも、さらに利子が付くことです。
例)
元本が100万円かつ利子が年利5%だった場合⇒1年後には105万円になる
次の1年も同じ金利でお金を預けた場合⇒利子の5万円にも利子が付くため、合計金額は110万2,500円に増える
元本が増えれば増えるほど、1年ごとの増加額も大きくなるということです。CAGRは、この複利計算における年利にあたる数値を、売上の伸び方から算出します。
ちなみに、複利の対義語は「単利」です。元金の中に利子を組み込まず計算するため、上記の例だと2年後の金額は110万円になります。
CAGRの計算方法
それでは、実際にCAGRを算出する方法を紹介します。CAGRの値を求めるには、以下の計算式に当てはめます。
- N年間でX%の売上を伸ばした場合
CAGR(%) = {X / 100 ^ ( 1 / N ) – 1 } × 100
分かりやすくするために、具体例を挙げて説明しましょう。
1年目の売上が2億円、5年目の売上が4億円に伸びた場合を取り上げます。上記の計算式に当てはめると、まずは売上の増加率を出さなければなりません。
4(億円) ÷ 2(億円) × 100 = 200%となります。1年目から5年目までの経過年数は5 - 1 = 4(年間)です。これらの数値を計算式に代入すると、{ 200 / 100 ^ ( 1 / 4 ) – 1 } × 100となり、約18.92%と導き出せます。
現在は、対象年数や初年度・最新年度の売上額がわかれば簡単にCAGRが算出できるツールも登場していますが、基本的な計算方法は覚えておくべきでしょう。
なお、Excelなどの表計算ソフトを使用して計算する場合は、べき乗を計算するための「POWER関数」を使います。
=POWER(最新年度の売上/初年度の売上,1/経過年数)-1
同様に「RRI関数」を用いても計算できます。RRI関数は投資の成長に対する等価利率を求めるためのものですが、CAGRの計算にも使えます。
=RRI(経過年数,初年度の売上,最新年度の売上)
CAGRが使われる場面
CAGRは、さまざまなビジネスシーンで活用されています。ここでは、「中期目標策定」「企業分析」「業界分析」において活用されるケースを取り上げます。
中期目標を立てるとき
会社の中期目標や中期経営計画を立てる際に、CAGRが用いられます。中期目標とは、だいたい3年から5年の期間内で達成するべき目標のことです。
5〜10年間を見越した、より長期的な目標を達成するために必要な目標と認識されており、現状と比較しながら改善計画を立てていきます。
「目標を達成するためには、毎年平均○%成長しなければならない」といった目安の基準が見えてくるため、ベンチマークとして活用することが可能です。
多くの企業は中期経営計画の発表時に、企業全体または事業ごとのCAGRを示しています。
企業分析をするとき
投資を検討する際や、M&A(企業の買収など)を行う際に必要な企業分析でも、CAGRは役に立ちます。年ごとの数値のばらつきを抑えながら、その会社の勢いが目に見える形で確認できるため、有効な指標になるでしょう。
ただし、投資を検討する際は、その企業の株価が割高かどうかについて考えなければいけません。株価収益率を示すPERや株価純資産倍率の略称であるPBRを同時に確認し、より重層的に企業価値をチェックすることが求められます。
CAGRと他の指標と組み合わせながら、高精度な企業分析を行いましょう。
業界分析をするとき
業種ごとのCAGRを確認することで、業界全体の伸び率を見ることも可能です。経過年数を固定した上で、同業界の他会社と同時に計算を行います。
業界全体の勢いを把握することによって、自社の立ち位置やこれからの目標が見えてくるでしょう。
もし自社のCAGRが同業他社よりも低い場合は、要因分析を行うことをおすすめします。なるべく自社と企業規模が同じ会社と比較して、適切な対策を取ることが重要です。
CAGRの注意点
CAGRを使用する際は、いくつかの注意点を頭に入れておきましょう。ここでは、代表的なポイントを3点ピックアップします。
あくまでも「予測」であることを理解する
CAGRを使えばある程度は会社の将来予測ができますが、その結果はあくまで予測に過ぎません。過去の数値を基に計算しているだけであり、高い数値の出た会社が必ず将来躍進するとは限らないからです。
新型コロナウイルスの感染拡大が急激に世界の情勢を変えたように、予想のできないアクシデントが起こる可能性もあります。
企業タイプによってはうまく活用できない場合もある
企業規模の大きさや成長スピードによっては、CAGRの利用が適さないケースもあります。
すでに成熟している大企業の場合は、売上高を急激に伸ばさなくても安定した利益を出せるため、起業したばかりのベンチャー企業などと比較してもあまり意味はありません。
また、急激に成長している企業にもCAGRは使いにくいでしょう。なぜなら、売上高が急速に伸びると、その一方で売上債権や事業拡大を目的とした借り入れなども増えている可能性が高いからです。
本当に成長率が高い企業なのか、他の要素も考慮に入れた上で検討しましょう。
経過年数によって数値が大幅に変わることもある
期間を切り取る経過年数によっては、CAGRの数値が大きく変わることもあります。ある年から急激に売上高を伸ばした会社は、その前年までを切り取った数値とその年以降を含めた数値で、CAGRが大幅に変わるでしょう。
切り取る期間によっては、毎年安定して成長している会社に見えてしまうこともあるため、必ずしも実態を表した数値とは限らないのです。
CAGRは、複利計算によってその会社の成長率が予想できる指標であり、中期目標を立てる際や企業分析の際によく使用されます。注意点に気を配りながら、適切に利用しましょう。
CAGRと合わせて活用したい2つの指標
CAGR以外にも、経営分析に使用される指標があります。今後の経営戦略を立てる時は、ほかの指標も活用して、複合的な観点から考えるとよいでしょう。
以下が、CAGRと合わせて活用しやすい指標です。
- PER(株価収益率)
- PBR(株価純資産倍率)
この2つは、株価に関する指標で、客観的に企業の評価を分析するのに役立ちます。以下で、それぞれ解説するので、参考にしてください。
PER(株価収益率)
PERとは、「Prince Earnings Ratio」の略称で、日本語では「株価収益率」と言います。企業の利益に対して株価が高いか安いかを表す数値です。PERの数値が高いと、株価は割高と評価されます。
下記は、PERの計算方法です。
PER(株価収益率)=現在の株価÷1株当たりの純利益
PERは、投資家が企業を評価する指標です。PERには、絶対的な基準値はありませんが、一般的に平均15倍程度と言われています。
PERが高い企業は、競争力があり、今後の成長が期待できると考えてよいでしょう。
PBR(株価純資産倍率)
PBRとは、「Price Book-value Ratio」の略称で、日本語では「株価純資産倍率」と言います。PERは純利益に対しての株価の指標ですが、PBRは純資産に対しての株価の指標です。
PBRの計算方法は下記になります。
PBR(株価純資産倍率)=現在の株価÷1株当たりの純資産
PBRは、1倍を下回ると株価が割安だとみなされます。ただし、創業から間もない企業は純資産が少なく、PBRが高くなりやすいため注意が必要です。
PERとPBRは、業種によって水準がことなるので、同業種や競合他社と比較するのが適切でしょう。
まとめ
CAGRは簡単な計算式に当てはめるだけで算出でき、さまざまな会社や各事業、または業界全体の将来的な予測に役立てられます。投資検討時の企業分析に活用できるほか、中期目標を立てる際も使えます。多くのビジネスシーンで効果を発揮するでしょう。
ただし、企業タイプによっては使用が適していない会社やケースもあるため、CAGRが必ずしも信頼できるとは限りません。
CAGRの数値だけではなく、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった、ほかの指標も合わせて活用することが重要です。
今回ご紹介した内容を参考にして、CAGRを最大限に活用しましょう。
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