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ベンチャー企業が投資を受ける際の投資契約・株主間契約について②

著者:しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士  曽根 圭竹

ベンチャー企業が投資を受ける際の投資契約・株主間契約について②

1 投資契約・株主間契約が用いられる背景

本稿のテーマである投資契約や株主間契約は、民法や会社法に直接規定されているものではありません。そのため、1990年代までは、我が国でベンチャーキャピタルが行うベンチャー企業への投資に際し、投資契約が用いられることは稀であり、2000年代以降になってようやく投資契約を締結する実務が浸透しはじめたといわれています 。

投資契約が用いられるようになった背景には、いくつかの理由が考えられますが、その中でも、投資契約を用いることで「ベンチャー企業も資金調達をしやすくなる」ことから投資契約の利用は広がっていったのではないかと考えます。

後述するとおり、投資契約は、

(1)投資により発行される株式の内容

(2)表明保証や誓約事項

(3)補償・賠償等のペナルティ

について定めるケースが多いのですが、

その中でも(2)表明保証や誓約事項は、投資家のデュー・ディリジェンス(以下、「DD」といいます。)にかける時間や費用を削減することにつながりますし、さらに(3)補償・賠償等のペナルティの中で、当該ベンチャー企業に関する株式の取扱いを定めておくことで、株式公開(IPO)だけでなくM&Aによる出口戦略を策定することができるため、投資家にとってもより投資しやすい環境となり、資金需要が旺盛なベンチャー企業にとっても受け入れがたい内容とまではなっていないことから、結果として両者の思惑が一致したため、投資契約の利用が定着していったことが想像されます。

これに対し、株主間契約は、投資後における株主間の権利義務を定める契約となり、

(1)会社(=投資先ベンチャー企業)のガバナンスに関する規定

(2)当該株主が有する株式の譲渡

についての取り決めをするケースが多いです。

契約の性質上、すべての株主との間で締結しなければならないというものではなく、主要な株主との間で締結していれば、(1)の目的は達成することができます。

ただし、投資契約で定める以上に、M&Aによる出口に関する内容を定める場合には、法的な実行性を確保するためにも、すべての株主を対象として株主間の権利義務を定めた方が合理的な対応といえます。

このようにM&Aによる出口戦略に関する内容を定める契約を「財産分配契約」と呼びますが、近時、ベンチャー企業の出口戦略としてM&Aも十分認知されていることからも、この財産分配契約は今後更に重要な契約の一つとなることが想定されます。


2 投資契約の構造及び各条項

(1)構造

投資契約とは、投資家が投資対象であるベンチャー企業に対する投資の対価として株式を引き受けるにあたり、その条件等を株式発行前に決める契約を指します。

投資家から見れば株式を引き受ける際に締結する契約となりますので、投資契約を「株式引受契約」と称する場合もありますが、呼び方の違いだけで内容が異なるものではありません。

投資契約の直接的な当事者は、株式を発行する当該ベンチャー企業と投資家となります。ただし、当該ベンチャー企業の表明保証違反や義務違反があった際に、経営株主に対しても責任追及を可能にするため、実務においては、創業者等の経営株主も含め当事者として契約することの方がスタンダードな取扱いとなっています。

投資契約を構成する内容は、概ね以下の5つの内容に分類されることが多くなっています。

投資契約の内容

具体的な規定

投資内容に関する事項

株式の発行条件(発行数・払込金額・払込時期など)

表明保証

ベンチャー企業・投資家の双方による表明保証

誓約事項

投資実行までの誓約事項、投資実行後の遵守事項

前提条件

投資実行の前提条件

その他一般事項

契約違反時のペナルティ等

(2)各条項

①投資内容に関する事項

【条項例】

第●.●条(発行する株式の内容) 

発行会社は、各投資家に対し、以下の要領で、第三者割当の方法により、募集株式を発行し、各投資家は各々個別にこれを引き受ける。

1.募集株式の種類及び数      
A種優先株式 ○○株
A種優先株式の内容は別紙発行要項に定めるところによる

2.募集株式の払込金額
A種優先株式1株につき○○○円

3.払込期日
20××年○月○日

4.増加する資本金及び資本準備金
資本金   ○円(1株あたり○円)
資本準備金 ○円(1株あたり○円)

5.払込取扱場所
○○銀行 ○○支店 ○○口座 口座番号○○○ 口座名義人○○

6.割当先
○○ ○株
○○ ○株

投資内容に関する事項のうち最も重要な記載は、ベンチャー企業が投資家に対して発行する株式の内容・株式の数・払込金額・払込期日(投資実行日)などの株式の発行条件に関する内容です。

このほかにも、上記引受株式に関し、投資家の払込みを規定する「クロージング」条項や上記株式の発行のタイミングと同時期ではあるが、一部の投資家の払込みが遅れるようなケースに対応するための「追加クロージング」条項が規定されることが想定されます。

なお、追加クロージング条項を定める場合に注意すべきポイントは

「最初の投資からいつまでの範囲とするか(=時期)」

「追加クロージングにより発行される株式は何株までとするか(=上限)」

についてです。

特に時期については、追加クロージングにより発行する株式が最初の発行に比べ、有利発行に該当することがないようにする必要がありますので、実務上は、1~3か月程度までを範囲とすることが多いとされています 。 

②表明保証

【条項例】

第●.●条(表明及び保証) 

  1. 発行会社は、各投資家に対し、本契約締結日及び本件払込期日において、別紙●-1に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
  2. 経営株主は、各投資家に対し、本契約締結日及び本件払込期日において、別紙●-2に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
  3. 各投資家は、発行会社及び経営株主に対し、本契約締結日及び本件払込期日において、別紙●-3に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。

前述のとおり、表明保証条項は、投資家のDDにかける時間や費用を削減することにつながることもあり、投資契約においてとても重要な条項の一つです。

この表明保証条項に違反した場合は、①損害賠償請求権や②投資家が保有する株式の買取請求権が発生するペナルティを設けることが多く、特に②株式買取請求権については、発行会社や経営株主が株式の買い取りを求められることから、仮に発行会社が株式買取請求に応じる場合には、自己株式の取得として、分配可能額の規制がかかることになります(会461条1項2号)し、経営株主が株式買取請求に応じる場合には、応じようとしても買取資金を手配すること自体困難な場合が多く、経営株主にとっては受け入れがたい規定です。

これに対し、我が国のベンチャー投資実務においては、表明保証違反の際に、株式買取請求権が生じることが一般となっていることからも、株式買取請求権を除外する交渉は困難なケースが多いと指摘するものもあります 。

いずれにしても、表明保証条項を規定する場合には、当然のことですが、表明保証する者は慎重に表明保証する内容を検討する必要があり、例えば、各内容について「重要性や重大性」による限定や「知る限りや知り得る限り」等の主観による限定をするなど、表明保証することが難しい事実については慎重な対応が求められます。

なお、表明保証の対象は当事者によって大きく異なりますが、以下の項目が例示されているので、紹介いたします 。

表明保証の対象項目

会社の基礎的な事実関係

投資契約の締結・履行に関する事実関係

会社の事業に関する事実関係

その他の事実関係

③誓約事項

【条項例】

第●.●条(誓約事項) 

  1. 発行会社及び経営株主は、各投資家に対し、本契約締結日から本件払込期日までの間、自らの責任と費用において、別紙●-1に定める事項を厳守することを誓約する。
  2. 発行会社及び経営株主は、各投資家に対し、本件払込期日後、自らの責任と費用において、別紙●-2に定める事項を厳守することを誓約する。

誓約事項は、投資家が投資契約時に見込んでいた価値を維持するために、発行会社及び経営株主に求める一定の義務を指します。

なお、投資実行後については、資金使途を誓約事項とすることで、投資家が想定していない資金の使われ方になることを防ぐことも可能となります。

なお、主な誓約事項としては、投資実行前については、次に述べる前提条件を成就させることへの協力義務や発行会社の経営について(投資家に対して)不意打ちとなるような意思決定や財産の処分等の禁止を定め、投資実行後については、財務資料の提出や変更があった場合の事務の遵守などのほかに、先に述べた資金使途や経営株主の経営専念義務や一定期間の辞任の禁止などを定めることが多くなっています。

④前提条件

【条項例】

第●.●条(前提条件) 

1.各投資家は、本件払込期日までに以下の各号に掲げる条件が全て充足されていることを前提条件として、発行会社に対し第●.●条に定める本件株式の発行に係る義務を履行する。

(1)第●.●条に定める発行会社及び経営株主による表明保証が本契約締結日及び本件払込期日において全ての重要な点において真実かつ正確であること。
(2)本件払込期日以前に発行会社及び経営株主が本契約に基づき履行又は遵守すべき義務が全ての重要な点において履行又は遵守されていること

2.発行会社は、本件払込期日までに以下の各号に掲げる条件が全て充足されていることを前提条件として、各投資家に対し、第●.●条に定める本件株式の発行に係る義務を履行する。

(1)第●.●条に定める投資家による表明保証が本契約締結日及び本件払込期日において全ての重要な点において真実かつ正確であること。
(2)本件払込期日以前に当該投資家が本契約に基づき履行又は遵守すべき義務が全ての重要な点において履行又は遵守されていること

前提条件では、投資家が投資を行う際に遵守されていることが求められる内容や発行会社が株式を発行する際に遵守されていることが求められる内容を規定します。

要するに、この条件が遵守されない限りは、投資家は投資を実行する必要はなく、他方、発行会社も株式を発行する必要がないことになります。実務的には、投資家の前提条件が成就することの方が重要となりますので、発行会社については規定しない例もあります。

⑤その他一般事項 

【条項例】

第●.●条(補償) 

各当事者は、本契約に基づく自らの義務の不履行又は表明保証違反に起因又は関連して、他の当事者が損害等(合理的な弁護士及び公認会計士の費用を含む。)を被った場合、当該他の当事者に対し、かかる損害等の賠償又は補償をするものとする。

その他一般事項として、補償条項、契約の終了に関する条項、その他一般条項があります。

また実務上は、補償条項とは別に本契約違反に伴い生じる株式買取請求に関する条項を定めることが多くなっており、これらの規定により、投資家が投資しやすい環境が整備されていくことになり、結果としてベンチャー企業も資金調達がしやすい環境になることは前述したとおりです。

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著者プロフィール

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曽根 圭竹

しんせい総合法律事務所所属 司法書士・行政書士

一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻修士課程修了。
不動産に関する法務を中心に業務を展開しながらも、自身の研究テーマであるスタートアップ企業の法務支援や医療機関の法務支援も行うマルチプレイヤー。
著書に、『医院開業から法人化,経営・継承まで弁護士,税理士,司法書士,行政書士,社労士が答えました!(共著)』『実務が変わる!令和 改正会社法のまるごと解説(共著)』がある。

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