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立体商標て何だ? タイプ別にみる登録までの道のり

著者:シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ 代表取締役 / 弁理士  潮崎 宗

立体商標て何だ? タイプ別にみる登録までの道のり

音の商標や動き商標などの新しい商標が、2015年4月から新たに登録を認められることになったということは、以前ご紹介しました。

この点、立体商標は、1997年4月1日から保護対象として認められることになっており、単なる文字や図形のように平面的は二次元のものではなく、商品自体や商品の包装など、三次元の商標の登録が認められるようになっています。

しかし、立体商標の中には、特許庁での審査をパスするのが困難なものもあります。「こんなものまで立体商標として登録されているのか!?」と驚くものもあると思いますが、近時、出願は増加傾向にあります。

そこで、今回はこの立体商標について解説させていただきます。


1.立体商標とは

まず、商標法で、「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、(1)業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの、あるいは、(2)業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするものをいいます(商標法2条1項)。

ここで出てくる「立体的形状」というのがいわゆる立体商標に当たる部分ですが、例えば、お菓子などの商品の形状それ自体や、商品の容器の形状、店頭人形、営業を提供する建物といったものはいずれも立体的な形状を有するものであり、立体商標となり得るものです。

2022年4月の時点で、2119件の立体商標が登録されています。


2.具体的な登録例

立体商標として登録が認められた例として、以下のものがあります。

(1)商品自体の形状

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(2)商品容器の形状

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(3)店頭人形の形状

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(4)営業を提供する建物

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3.立体商標のタイプと識別力

立体商標に係る商標が登録を認められるには、登録要件(商標法3条、4条など)を具備している必要があり、これは平面商標の場合と同様の条件となっています。

特に、立体商標の審査において問題となるのは「識別力」(商標法3条)です。

この要件をめぐり、立体商標のタイプによって大きな違いがあるので、タイプごとに見ていきます。

立体商標は、次の3つのタイプに分けることができます。

(タイプ1)立体的形状が案内標識として使用されるもの

(タイプ2)立体的形状と、文字、図形、記号などの要素が結合しているもの

(タイプ3)立体的形状のみからなるもの

上記タイプ1の「立体的形状が案内標識として使用されるもの」とは、例えば、上記2(3)にあるような店頭に置かれる人形や立像のことです。

このタイプの立体商標は、それ自体が商品に当たるものではなく、その先にある商品やサービス(例えば、「飲食物の提供」や「菓子及びパン」)の出所を表す標識であるため、標識として特徴があれば識別力ありとされ、商標登録が認められることになります。

同様に、タイプ2の「立体的形状と、文字、図形、記号などの要素が結合しているもの」についても、商品や容器の形状以外の文字要素などに識別力があれば、商標全体としてみても「識別力」ありとして、商標登録が認められることになります。

例えば、ヤクルトの容器の形状に、「ヤクルト」という文字要素が結合されてなる立体商標については、「ヤクルト」の文字要素に識別力があるため、特許庁の審査では、特に「識別力」に関する登録要件の具備については問題とならずに、ストレートで登録が認められています。
 

商標登録第4182141号 
権利者:株式会社ヤクルト本社

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これに対し、上記タイプ3の「立体的形状のみからなるもの」については、原則として、「識別力」なしと判断されることになります。

仮に、その立体的形状が通常の形状より変更され又は装飾が施されるなどにより特徴を有していたとしても、商品や容器の形状そのものの範囲を出ないものと判断されることとされており、極めて厳格な判断がなされることになっています。

これは、

  • ① 多少特徴的な形状であったとしても、商品や容器そのものの形状であることには変わらない
  • ② 需要者からみても、商品などの機能又は美感を際立たせるために選択されたものと認識するにとどまり、それ以上に他社商品との識別のために選択されたものと認識することはない

といった理由に基づきます。

この点、商標審査基準(改定第15版)においても、次のように規定されています。

商標法3条1項3号 項目4

  • (1)商標が、指定商品の形状(指定商品の包装の形状を含む。)又は指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない場合は、その商品の「形状」又はその役務の「提供の用に供する物」を表示するものと判断する。
  • (ア)立体的形状が、商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は、特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する。
  • (イ)立体的形状が、通常の形状より変更され又は装飾が施される等により特徴を有していたとしても、需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲のものであれば、その立体的形状は、商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められ、特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する。

そのため、ヤクルトの容器の形状のみからなる立体商標に係る出願においては、まず、特許庁の審査や拒絶査定不服審判で「識別力」がないと判断されたのち、拒絶審決取消訴訟において、「長年の使用により、容器の形状だけでも十分な識別力を獲得しており、登録されるべきである」との主張が認められて、最終的に登録が認められています。

商標登録第5384525号
権利者:株式会社ヤクルト本社

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立体商標のタイプの中でも、タイプ3の「立体的形状のみからなるもの」については、商標の使用期間や使用地域、使用回数、市場シェア率、宣伝広告の方法や期間、地域、規模、需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果などから、「識別力」を事後的に獲得している(商標法3条2項)、すなわち、その形状が非常に有名になっていて、どのメーカーの商品であるか認識されるに至っているといえる場合にはじめて、商標登録が認められるということになります。

「2.具体的な登録例」の(1)と(2)の登録例は、いずれも、「識別力」を事後的に獲得していると認定されて登録が認められています。

したがって、タイプ3の立体的形状のみからなる立体商標について商標登録が認められるためには、極めて高いハードルが待ち構えていることになります。


4.まとめ

消費者の目から見て、商品や容器の形状を見ただけでそのメーカーが思い浮かぶような場合には、形状のみからなる立体商標として登録が認められることになります。

企業の立場からすると、消費者が気づくような商品や容器の形状に至っているのであれば、それは単なる商品や容器自体の形状を超えた、財産的価値あるブランドとして確立できているということになります。

この機会に、自社の商品や容器などの形状を見直して、立体商標を取得の可否を検討してみてはいかがでしょうか。

立体的形状のみからなる立体商標は、通常の商標よりも登録に至るまでのハードルは高いですが、一度、商標登録が認められれば将来にわたる強力なブランディングツールを手にすることになります。

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著者プロフィール

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潮崎 宗

シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ 代表取締役 / 弁理士

上智大学法学部法律学科卒業。日本弁理士会関東会 中小企業・ベンチャー支援委員会。東京都内の特許事務所勤務を経て、2005年弁理士登録。

商標・ブランドに関するコンサルティングのほか、ベンチャー企業や中小企業の案件を中心に、国内及び外国での調査や出願、審判に関する手続、不正競争防止法・著作権に関する相談を行っている。各専門家との各々の強みを活かしたワンストップ体制で、知的資産の分析・調査の段階から、権利化、運用までを見据えたサービスを提供している。

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