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指示待ち部下との向き合い方  中編:プロアクティブ行動が生まれる条件とは?

最先端の経営理論から学ぶマネジメント

著者: 日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授  黒澤 壮史

指示待ち部下との向き合い方  中編:プロアクティブ行動が生まれる条件とは?

近年の若者は安定性を求める傾向にあり、昇進を断って平社員のまま継続することを望む人が多くなっている状況です。

このような現状維持志向の若者の増加に伴って、「言われたことしかやらない受け身タイプ」、いわゆる「指示待ち部下」が顕在化しています。

指示待ち部下に対して、どのように接すればよいのかわからず、悩んでいる上司も多いのではないでしょうか。

本記事では、指示待ち部下がプロアクティブ(能動的・自発的)な行動を生み出していくために、個人・仕事・職場の性質の観点から編み出した条件を詳しく解説します。


1:はじめに

前回は、「指示待ちに陥っている部下に対して何を期待するべきか?」という観点でプロアクティブ(能動的・自発的)行動という考え方を紹介しました。自発的に状況に対応することで仕事の成果をあげたり自己成長を促したりすることは経営学的には様々な調査で示されています。

このプロアクティブ行動という考え方に基づいて、今回はプロアクティブ行動がどのような条件のもとで生まれるのか?という経営学に基づいて、部下が指示待ちではなく自発的に行動するメカニズムについて考えていきたいと思います。

ここでは、外部要因として仕事と職場の性質、内部(個人)要因として性格特性、という観点で整理していきます。


2:個人の性質

プロアクティブ(能動的・自発的)な個人が仕事で成果をあげ、キャリア上の成功をつかみやすい傾向があることは過去の研究でも示されています(Fuller & Marler, 20091など)。

プロアクティブな行動を組織メンバーがとるかどうか説明する際に最も重要な要素の1つが、本人の性格(プロアクティブ・パーソナリティ)です。

性格と言ってしまうと身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、自発的に物事に向けて行動してくれることに性格上の向き不向きがある、という点はやはり重要なポイントですし、知識があれば採用や配置の際に活かすことができるはずです。

目の前にいる人物がプロアクティブなパーソナリティーを備えているのかを知るためには、研究やコンサルティングで用いられるような質問票によるアセスメントなどもありますが、実務的にはさほど厳密ではなくても「この人は安定を好むタイプだろうか?それとも状況が良くなるためなら試行錯誤をいとわないタイプだろうか?」、という点を注意深く確認していくだけでも違ってくるでしょう。

ちなみに、プロアクティブな性格スコアが高い人物は専門職同士のつながりやボランティア活動といった、仕事以外の活動にも積極的な傾向が示されています。そうした側面も意識してみると部下のプロアクティブな性格を把握する際の参考になるはずです。

BatemanとCrantが1993年に書いた有名な論文2では、個人のプロアクティブな性格スコアが高い人物は、達成欲求や支配欲求も高いという調査結果が示されていました。

達成欲求が強いということは、指示されていなくても行動できるという人間の行動原理を捉えているのではないでしょうか。

「言われたこと以上のことを成し遂げようとする心理」を備えていることが多いために、プロアクティブ行動のスコアが高い人物は仕事やキャリア上の成功を収めやすいという調査結果が出ています。また、学問の世界で一般的にプロアクティブ行動が望ましいと考えられている理由でもあります。

一方、支配欲求も強い傾向があるということについては、実務的には悩ましいところがあるかもしれません。

支配欲求が強くなる理由については様々な解釈の余地があるのですが、成果を達成することや成果を達成するために“自らの力で”行動する、という心理を表しているのかもしれません。そのため、プロアクティブ行動のスコアが高い人物はもしかしたら、職場において「自我が強くて扱いづらい人物」と捉えられてしまうかもしれません。

起業家はプロアクティブな性格のスコアが高いという研究(Crant, 19963)もあり個性的な人物をイメージさせるのですが、プロアクティブな性格があまりにも強すぎると組織の一員としては収まりにくいため評価されないこともあるかもしれません(あくまで極端な場合の話ですが)。


3:仕事(職務)の性質

部下が自発的・能動的(プロアクティブ)に行動をしてくれるかどうか、という点についてはやはり仕事の性質が影響を与えてきます。そもそも、仕事の性質によって部下に自主性を求めるか否かも変わってくるでしょう。

個人のプロアクティブな行動に影響を与える職務特性としては、下記の点を考慮しておく必要があります。

・仕事の正確性がどの程度求められているか?
・各個人の働き方が他のメンバーにどの程度影響を与えるか?

1つ目の仕事の正確性についてですが、職種などによってはマニュアルなどで厳密に仕事内容が定義されてしまっているため、個々人の主体性があまり反映できないような業務もあろうかと思います。

当然のことながら、そのような環境においてはプロアクティブな行動は期待されないでしょうし、評価もされないはずです。そのような場合は当然ながらプロアクティブな行動はあまり考えるべきことでもないでしょう。

2つ目の各個人の働き方が他のメンバーに与える影響ですが、プロアクティブ行動を好むタイプの人材は、仕事の進め方の改善/変更を好むタイプの人材でもあります。

しかし、プロアクティブな人材が仕事の進め方を変更した際に多くの人が影響を受けるのであれば調整や反発に多くの労力を必要とすることになりますので、自発的に改善などをする機会は減っていくでしょう。他者への影響度が大きい業務でプロアクティブな行動が多いタイプの人材は場合によっては、少し迷惑なタイプとみなされることもあるかもしれません。

適材適所という観点からも業務特性と人材配置について考えることは重要になってきますが、この点は次回、詳しく触れたいと思います。


4:職場の性質

ここまで、「プロアクティブ行動に向いている性格」と「プロアクティブ行動に向いている仕事(職務)」という観点から述べてきましたが、当然ながら職場の性質も組織メンバーのプロアクティブ行動に影響を与えてきます。

ここでは、プロアクティブ行動に影響を与える組織要因として、

「上司の期待と支援」、「心理的安全性」、「周囲の行動(組織風土)」

という観点からお話ししていきます。

上司からの期待と支援

上司の期待というのは非常に単純な話で、上司が自発的に行動することを部下に対して期待していることが部下に伝わっているか、ということです。

このことは一見当たり前なのですが、「部下に伝わっているか」、という点に踏み込んで考えると案外悩ましいところではないでしょうか。
上司の期待していることを部下に伝えるコミュニケーションというのは日々の地道な努力によって実現されるものです。「気分でモノを言っている」と思われることが無いように継続的で一貫したコミュニケーションを通じて自分の期待が部下に伝わるものだ…と考える必要があります。

ここでコミュニケーションという言葉を使ったので誤解が無いように補足しておくと、期待というのは言葉だけでなく具体的なサポートを含めて示していく必要があります。

部下が自発的に善意でやったことで何か困っている時に相談に乗ってあげたり仲裁やサポートをするなど、具体的な支援行動を通じて上司の本気度が部下に伝わる、という側面は無視できません。

心理的安全性

ここでいう心理的安全性という考え方は、何か行動をとった時に不利益になるという不安が無い状態を指す言葉です。

プロアクティブ行動の実証研究でも、イメージリスクなどに不安がある状況ではプロアクティブ行動が起きにくい、という調査結果が示されていますし、感覚的にも何らかのリスクがある行動を積極的に行うというのは考えづらいでしょう。部下に自発的に行動してもらいたいのであれば、「指示の無いことを自発的に行うことはリスク」だと思われないための配慮が必要です。

では、心理的安全性を部下に持ってもらうためには何が必要なのでしょうか。プロアクティブ行動という観点からは、職場における「前例」が非常に重要な役割を担います。

行動した人が評価される、というポジティブな前例は心理的安全性を醸成しますし、上手くいかなかった場合にどのように扱われているか、という前例も心理的安全性に影響します。もちろん上司の側からすれば、指示してない件でミスをした部下を褒めるという訳にはいかないとは思いますが、チャレンジそれ自体を批判してしまうと、次に何か新しいことをやってみよう、提案してみよう、という気持ちになりにくくなるため自発性が失われていくことになります。

そのため、自発性自体を評価しつつも失敗に至ったプロセスを具体的に改善していくようなフィードバックが求められることになります。

このようにお話ししていくと、少々面倒くさいと思われることもあるかもしれません。いくらプロアクティブ行動といわれたところで、上司の指示と異なる状況や指示をしていない状況で部下が失敗した場合などは扱いが難しいところがあるでしょう。ただ、心理的安全性を失ってしまうと部下の自主性やチャレンジする意欲も損なわれてしまう、という点は意識しておく必要があるのではないでしょうか。

周囲の行動(組織風土)

プロアクティブ行動に影響を与える組織・職場の要因として、組織風土として周りのメンバーがどのように考え行動しているか、という点も挙げられます。

転職や異動などで職場が変わると実感したことがある方も多いかと思いますが、集団によって常識のあり方は異なってきます。「自発的・能動的に行動するのが当たり前」と考える人が多数派の職場とそうでない職場では当然大きな違いが出てきます。人間というのは大なり小なり周囲の環境に適応するという性質を持ち合わせていますので、多数派の考え方が個人にも影響を及ぼすことになります。

そのため、どのように多数派を形成していくか、という点が重要なポイントになってくるでしょう。

図1:考え方のイメージ

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5:おわりに

ここまで、プロアクティブ行動を生み出す要因についてお話しをさせて頂きました。実践的にはこれらの要因に対して具体的にアプローチしていくかが重要になります。

次回は今回の話を踏まえて、上司として指示待ち部下とどのように向き合うべきか、実践的なマネジメントの方法などについてお話しさせて頂きます。


1 Fuller, B., Marler, L. E. (2009) “Change driven by nature: A meta-analytic review of the proactive personality literature”, Journal of Vocational Behavior, Vol.75, pp.329-345.

2 Bateman, T., Crant, M. J. (1993) “The proactive component of organizational behavior: A measure and correlates”, Journal of Organizational Behavior, Vol.14, pp.103-118.

3 Crant M. L. (1996) “The Proactive Personality Scale as a Predictor of Entrepreneurial Intensions”, Journal of Small Business Management, Vol.34, Issue. 3, pp.42-50.

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著者プロフィール

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黒澤 壮史

日本大学商学部 准教授/Human Academy Business School MBAコース教授

黒澤 壮史(くろさわ まさし)

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得後、早稲田大学商学学術院(助手)、
山梨学院大学(専任講師・准教授)、神戸学院大学(准教授)を経て現在に至る。
研究の専門は組織変革、戦略形成など。
著作としては「労働生産性から考える働き方改革の方向性-現場の意味世界の重要性-」(分担執筆、山田真茂留編:グローバル現代社会論)、
「ストーリーテリングのリーダーシップ(デニング著;分担翻訳)」、「想定外のマネジメント 高信頼性組織とはなにか(ワイク&サトクリフ著;分担翻訳)」など。

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