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第1回 トラブルを防ぐ!人事担当が押さえたい労務管理術

著者:株式会社東海経営 取締役コンサルティング事業部長  坂井 秀一


企業側に「不利」で「大きな負担」となる労使間トラブル

「未払い残業代」「不当解雇」「過重労働による労災認定」など、様々な労使間トラブルが毎日のように報道されています。

労働基準法をはじめとする労働諸法令は、労働者保護の観点から企業に義務を課した法律ですので、いざ訴訟となれば、ほとんどの場合、企業側に損害賠償を求める判決や和解内容で決着してしまいますし、その賠償額も数千万円や数億円と高額になる可能性があります。中小企業でも、賠償や示談の額が数千万円になることは珍しいことではありません。

例えば、全国の労働基準監督署の監督・是正指導の結果、100万円以上の割増賃金を是正支払した企業の件数は1277件(1社平均819万円、労働者1人あたり10万円)でした。労働者1人あたり10万円…これを3ヶ月程度分と推測すると、賃金の請求権は2年時効ですので2年間で80万円となります。仮にこういった労働者5人に共同で訴えられたら400万円。更に、裁判所からこれと同額の付加金の支払いを命じられることもあります。

このように一度、表面化すると企業側に「不利」で「大きな負担」となる労使間トラブルの、「発生」と「損害」をいかに最小限に抑えるか?そのポイントを今回から4回にわたり解説させて頂きます。

労使間トラブルが起きやすい時代背景

全国の総合労働相談件数は6年連続で100万件を超え、労働者からの申告に基づいて実施する労働基準監督署の監督件数は、24年度で25,418件となっています。

インターネットの普及により、労働者が会社の対応や労働条件に不満を感じれば、すぐ情報を入手できるようになりました。ブラック企業や労働訴訟の報道にも頻繁に触れられるようになり、問題意識や権利意識も高くなっています。それに加えて、その問題意識や権利意識を更に高め、行動を後押しする存在も台頭してきました。具体的には、「未払残業代請求」「不当解雇問題」解決の専門家やユニオン(個人単位で加入できる労働組合のこと)です。

このような存在によって、中小企業のように労働組合のない会社の労働者の、訴訟など具体的行動へのハードルは、確実に下がっています。
こうした時代背景を考えると、労使間トラブルは簡単に起きるものだという心構えで、日頃から準備をしておく必要があるのです。

代表的な労使間トラブル

以下、特に注意すべき労使間トラブルを上げてみます。

(1)未払残業問題

労働基準監督署への申告件数の第1位がこれです。退職社員1人の申告によって労働基準監督署の臨検が入って、社員全員の是正支払いが必要となるケースは多いですね。また、「名ばかり管理職」問題や旅行会社添乗員の「事業場外みなし労働時間制」問題、運送会社の「荷卸し待機時間」、飲食チェーンの「15・30分単位の労働時間の端数処理(切り捨て)」問題など、これまでグレーな運用がされてきた事案について、労働者有利な判決が出ていますので、注意が必要です。

(2)不当解雇や雇止め

労働基準監督署への申告件数の第2位がこれです。就業規則で規定していない事由で解雇することはできませんし、例え規定されている事由による解雇であっても、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が認められなければ無効になります。解雇無効となれば、解雇日以降の給与を請求されることになります。また有期雇用契約を数回繰り返している社員を雇止めする(契約更新しない)ことですら、簡単にはできなくなってきています。

(3)過重労働によるメンタルヘルス問題

先日、なかなか証明しにくい「持ち帰り残業」による長時間労働が、自殺の原因として労災認定されました。労災認定された場合、労災保険による補償がありますが、企業が請求された慰謝料などは補償されないため、大きな負担になることがあります。

労使間トラブルが起きてしまったときのために…

労使間トラブルの発生をゼロにすることは不可能と言えます。そこで、労使間トラブルの「発生」と「損害」をいかに最小限に抑えるか?が重要となります。ポイントとしては、2つ。

(1)規定やルールの整備をする(書面による明文化と約束の取り交わし)

解雇や懲戒処分は就業規則に規定されていなければ認められませんし、営業手当は営業職の残業手当として支払っていたつもりでも、雇用契約書や就業規則等に規定されていなければ認められません。このように、規定やルールに不備や漏れがあれば会社側に勝ち目はありません。したがって、就業規則や雇用契約書などの様々な書面によって、会社と労働者双方の義務や権利などの約束事をはっきりさせておく必要があります。

(2)規定やルール通り正しく運用をする

例えば有期雇用契約の社員との雇用契約書…。空白期間があったり、契約期間が切れてから再更新したりしていると、実質的に無期雇用と同じとみなされてしまい雇止めができなくなってしまうことがあります。社員のために良かれと思って支給していた賃金規程に記載されていない手当…。これも不利益変更と判断されることもあるため簡単には廃止できません。規定やルール通り、正しく運用することが重要なのです。

次回以降、「規定やルールの整備をする」に役立つ書式とその運用方法、注意点を紹介していきます。

ポイント(1)

労務管理を甘く見ていると大変!後から思わぬ代償を払うことになる

ポイント(2)

労務管理はその気になればすぐに見直せる

ポイント(3)

企業にとっても社員にとっても働きやすい環境作りこそが業績アップの近道

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著者プロフィール

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坂井 秀一

株式会社東海経営 取締役コンサルティング事業部長

東海経営人事労務事務所 所長 社会保険労務士
愛知大学 経済学部 非常勤講師

経営コンサル実績は200社を超え、ほぼありとあらゆる業種・業態の【新規事業開発】【事業戦略再構築】【起業支援】を経験。その豊富な実績に裏打ちされた【ビジネスモデル構築】【経営戦略立案】力には定評があり、継続率の低いコンサル業界の中で【80%以上の継続率】を誇る。

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