ガラスの天井とは? 意味やガラスの天井に似た日本の問題点・解決策を解説
「ガラスの天井」は、性別や人種などの差別により、望むキャリアが叶わない状態を指します。組織の中で目指すキャリアの道筋があるにも関わらず、ガラスのように見えない天井が存在する状態を、比喩的に表したものです。
日本では、特にジェンダーギャップによる差別が長きにわたって問題視されており、国際的に大きな後れを取っています。現状を理解し、一人ひとりが当事者として、課題解決に取り組む姿勢を持つことが重要といえるでしょう。
本記事では、ガラスの天井の意味やそれに似た問題点、解決策をわかりやすく解説します。
ガラスの天井とは?
まずは、ガラスの天井の意味や、言葉が生まれた背景を解説します。
ガラスの天井の意味
「ガラスの天井」は、組織内で昇進できる力があるにもかかわらず、性別や人種などの差別を理由に、望むキャリアが叶わない状態を指します。
英語では「glass ceiling」といい、「組織の中で自分の目指すキャリアの道筋があるにも関わらず、実際には見えない天井が存在する」といった状況を比喩的に表したものです。
主に女性やマイノリティ(社会的少数者)の地位や待遇が、トップにたどり着きそうでつかない現象を指し、男女の格差や差別が存在する事実を示しています。
英エコノミスト誌は、2013年から毎年、「国際女性デー」の3月8日に合わせて、女性の働きやすさを指標化したランキング「ガラスの天井指数(Glass Ceiling Index:GCI)」を発表しています。
2022年の日本は、経済協力開発機構(OECD)加盟29か国中、2年連続で28位となっています。ジェンダーギャップは、長きにわたって日本が抱える重要な課題のひとつといえるでしょう。
【参考】エコノミスト「ガラスの天井指数」2022.3.7付け
ガラスの天井はいつ生まれた?
ガラスの天井という言葉が最初に使われたのは、1987年のことです。米国人企業コンサルタントのマリリン・ローデンがパネルディスカッションで発言したといわれています。
その後、ウオール・ストリート・ジャーナルが1986年に、「ビジネスの世界で女性の昇進がいかに大変な挑戦か」という特集記事を掲載しました。以降、女性の社会進出が進むにつれ、この言葉も浸透してきました。
ガラスの天井 日本とアメリカでは?
日本とアメリカでは、ガラスの天井の現状にどのような違いがあるのでしょうか。データを比較しながら見ていきましょう。
日本の状況
1986年に男女雇用機会均等法が施行され、現在では性別を理由に採用や配置、昇進などに関する直接的および間接的差別は禁止されています。しかし実際には、諸外国に比べて立ち遅れている状況です。
スイスの非営利財団「世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)」が毎年、各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数(GGI)を発表していますが、2022年の日本は0.681で146か国中116位です。
さらに、女性の働きやすさを10項目から評価しランキングで示したGCIでも、日本はOECD29か国中28位。このなかで、「管理職女性割合」と「国会議員女性割合」はいずれも最下位の29位、「賃金格差」と「企業役員女性割合」も27位に甘んじています。
【参考】内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」
ガラスの天井の経済分野
経済分野におけるガラスの天井は、女性管理職や企業の女性役員の割合を指します。日本の女性就業者は2012年から2021年にかけて340万人増加しており、女性管理職の割合も増加傾向にあります。しかし、女性管理職の割合が3割以上を占める欧米各国と比較して少ないのが現状です。
2021年の雇用均等基本調査によると、係長相当職以上の女性管理職割合は14.5%であり、課長相当職で10.7%、部長相当職では7.7%と、上位の役職になるほど割合が低くなっています。
【参考】2021年男女雇用基本調査(P5(2) 管理職に占める女性の割合)
ガラスの天井の政治分野
政治分野におけるガラスの天井は、女性議員の比率を指します。
GCIでも29位だった「国会議員女性割合」は、衆議院・参議院合わせて15.4%となっており、参議院こそ25.8%ですが、衆議院はわずか9.9%に留まっています。
衆議院の女性議員比率を世界と比較すると、190か国中166位と後れを取っているのが一目瞭然です。さらに、閣僚に占める女性の割合も低いうえ、過去に女性の内閣総理大臣が誕生したことがないため、2022年のGGIでは146か国中139位という現状があります。
【参考】内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」
アメリカの状況
2020年の大統領選挙を経て、カマラ・ハリスさんが初の女性副大統領に就任した米国ですが、2022年のGCIでは20位に留まっています。
国会議員に占める女性の割合も27.3%で、190か国中67位。女性の大統領は、いまだ誕生していません。
ビジネス面でも、男性100人に対して管理職レベルの役職に占める女性の割合は、わずか38%と報告されています(Women in the Workplace 2019)。
米国でも、女性の昇進などを阻害する風潮があると指摘されており、女性活躍は世界的な課題といえるでしょう。
ガラスの天井に似た日本の問題点
ガラスの天井と同様に、女性の社会進出を阻む概念に「マミートラック」があります。子育てをしながら働く女性が、育児のために出世コースから退くことを指します。
仕事と育児を両立できたとしても、そのために補助的な職種や時短勤務を選ばざるを得ず、気づくと昇進・昇格からほど遠いキャリアを歩むことになるでしょう。
また、女性の社会進出を阻む要因として、無意識のうちに形作られた、偏った見方を意味する「アンコンシャス・バイアス」が挙げられます。
日本には「男は外で仕事、女は家で家事」という家父長制度の名残が根強く、「結婚、出産のタイミングで女性が家事や育児を行うべき」と考える男女や、その家族がいると考えられます。その思想が社会でも根強く残っており、女性が昇進を諦める要因のひとつです。
ガラスの天井の解決策
ここでは、ガラスの天井の具体的な解決策を見ていきましょう。
働き方を改善する
ガラスの天井の解決策として効果的なのが、働き方を改善することです。従来は、1日8時間、会社に行って仕事をしなければならないのが当たり前でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、テレワークや在宅勤務が普及しつつあります。
また、正社員として雇用されながら、時間や場所の制約を受けずに働くことが認められるようになりました。ほかにも、定められた総労働時間の範囲内で就業時間を決められる「フレックスタイム」など、柔軟な働き方を取り入れれば、優秀な人材の流出も防げます。
クォータ制を導入する
世界120か国で取り入れられている「クォータ制」は、もともと政治的な決定に携わる人々が男女の偏りがないようにするための制度です。政治では議員、企業では役員などで女性の割合が一定になるようにします。発祥はノルウェーで、現在は一般企業にも浸透しています。
どちらかの性別に偏らない組織作りが期待できる一方で、定数制限を設けると優秀な人材でも排除される可能性もあり、導入には慎重な判断が求められます。
【参考】クォータ制について解説した記事
女性を管理職につける
2021年の雇用均等基本調査では、係長相当職以上の女性管理職割合は14.5%となっています。女性管理職割合を増やせる見込みがあるだけでなく、実際に増加させられれば、「女性でも望むキャリアを歩むことができる」と示せます。
また、女性ならではの新たな提案や情報発信も期待できるでしょう。ただし、現時点では女性管理職割合が低いため、企業側は丁寧な育成制度の準備が必要です。
【参考】2021年男女雇用基本調査(P5(2) 管理職に占める女性の割合)
社内制度を見直す
社内の現状を細かくチェックして把握したうえで、課題解決の必要があれば見直しに着手します。具体的な対策としては、次のようなものが考えられます。
- 出産後の女性が取得する育児休暇制度を、男性社員も取得できるよう拡大
- 時間や場所にとらわれずに働ける在宅勤務やテレワーク制度の導入
- 産休・育休が安心して取れるよう、全社員に啓もうする研修・教育制度の実施
福利厚生を充実させる
女性が長く働けるように、福利厚生を充実させて働きやすい環境を整えるのもひとつの方法です。
子どもが小さいうちは、保育園などの送迎が大きな負担となります。そのため、時短勤務や1時間単位での有給休暇を認める企業もあります。
また、社内に保育施設を設置したり、ベビーシッターに関する制度を導入したりする企業もあるので、現場の意見を聞きながら環境整備に取り組んでみてください。
ガラスの天井の事例
企業も、ガラスの天井を取り除こうと努力しています。
埼玉県春日部市に本社を構える三州製菓は、斉之平伸一社長が就任した1988年以降、女性登用に力を入れてきました。男性1人を管理職に昇格させる時には女性も必ず1人は昇格させ、女性の管理職の比率が4割を突破しました。
また、女性を企画室に多く配属し、会議で「男性社員発言禁止タイム」を設定したところ、パスタスナックという年商25億円のヒット商品が生まれました。
大手ゼネコンの鹿島は、在宅勤務や育児休業、時短勤務が選べるなど、性別を問わず社員が活躍できる制度の運用を進めました。その結果、男性の育児休暇取得者も年々増加しているそうです。
ガラスの天井についてのまとめ
ガラスの天井の意味やそれに似た問題点、解決策を解説しました。ガラスの天井は、当事者だけで解決できる課題ではありません。企業に属するすべての人が「自分ごと」という意識を持ち、それぞれの立場で貢献できることを考える必要があります。
理想の社会を実現するには時間がかかるかもしれませんが、一歩一歩、着実に進んでいくことが何よりも大切です。
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