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はじめての人事採用 この1年の変化―新卒採用編

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

はじめての人事採用 この1年の変化―新卒採用編

昨年(2020)開催予定のオリンピックを見据え、特に大手企業はスケジュールを前倒しして運営できるような準備を前年(2019)から始めていました。2020年1、2月は当初通りのスケジュールで進んでいたものの、コロナの影響で3月以降の動きに大きくブレーキがかかり、企業・学生・大学のいずれも未曾有の経験が始まりました。

いちばんの大きな変化は、説明会・面接ともにオンラインでの運営となった場面が多かったことでしょう。特に、就職サイト主催の大規模な合同説明会は中止が相次ぎ、企業も学生も方針変更することを余儀なくされました。当初は、企業も学生もオンラインに不慣れな中での対応で、非常に戸惑いが見られたことも事実です。パソコンを見ながら会話することに慣れている人がきわめて少なかった時期には、「オンラインでは信頼関係は生まれない」「微妙なニュアンスが伝わらない」等々、弊害が指摘されることも数多くありました。

1対1の対応はなんとかオンラインで可能だと判断できたものの、グループワークを含む集団面接の運営はなかなか難しく、そのときだけは学生に会社に来てもらったり、集団面接を中止し個別面接に切り替えたりするケースもありました。オンラインであっても、高頻度で接触することでコミュニケーション満足度が高まる感覚を身につけることができた企業や、回数や接触人数を増やして合否を判断していった企業もあります。今年は更にオンラインに慣れて順応していく様子がうかがえます。

オンライン環境を整えないことにより「採用に失敗した年」との評価になった会社もあれば、コロナ禍で採用できた新人層のレベルが数段上がり「成功した年」となった会社もあります。

例えば、面接の最初から最後(役員面接)までオンライン環境を貫いた会社。採用された人たちにインタビューをする機会があり、「なぜこの会社を選んだのか?」と聞いた際に、このようにコメントした地方大学出身者がいました。「最終面接の案内をもらった会社はどこも行きたい会社で、3社あったのですが、他の2社は最終面接では東京本社に来て欲しいと言われました(それまではリモート面接)。当時、東京の感染が急拡大していて東京に行くのが少々怖かったこともあります。この会社に内定をもらえたので他は受けませんでした」。この会社は採用成功の年になりましたが、この場合の他の2社は採用成功とはいえない状況になっていることが推測されます。

例年の人事の動きとして、大学4年生を内定までもっていくことができた後は、夏から3年生のインターンシップの対応に移行する会社が多くあります。以前は広く職業体験をする趣旨で開催されていたインターンシップも、ここ数年は「就活はインターンシップから始まる」といわれるようになり、選考の入り口の要素が強くなってきていました。この時期にどのくらい学生と接することができたかは例年と変わらず、去年も大切な要素となりました。インターンシップでも、オンラインでさまざまな工夫をした会社が数多くあります。

例えば、とある大手関連の製造業。以前から工場見学をして、現場を見せることで学生たちの興味関心を引くことができており、とても重要なウリでしたが、コロナ禍で工場に来てもらうこともままならず困った状況になりました。ただ、不利だと思われたこの状況を逆手に取った行動に出ることができました。どのようなことをしたかというと、

  • これまでは海外拠点で活躍する先輩を映像に撮って説明会で流していたが、今年は海外から気軽にオンライン説明会に登場してもらうことができ、質疑応答にも対応してもらうことができた。
  • これまでは工場を見てもらうだけだったが、ドローンを飛ばした撮影に踏み切り、工場の屋外を含めた臨場感を伝えることができた。

等々、「これを機に」と変更したことが、学生にとっても好評な結果を残すことができました。限られた資源をどう十二分に使い切るかが、今年のインターンシップでもテーマになるように思います。

オンラインのいちばんのメリットは、時間と空間の制約からの解放でしょう。リアルだと、企業側の人事担当者が地方学生や海外留学生に会うために地方や海外に出向き、学生側は東京まで足を運んだり帰国して面接に行ったりしなければなりませんでしたが、オンラインなら面接は容易です。そして、これまで双方の費用負担もなかなかのものでしたが、それがほぼなくなっています。事実、企業の中にはその予算を他の採用ツール(動画や採用ホームぺージの拡充等)に振り分けているところがあります。

2021年卒採用で起こった変化のひとつに、採用ホームページの閲読率の向上があります。コロナ前は、とにかく説明会に参加することが優先とばかりに、まず簡単にホームページを確認して(もしくはほぼ見ることなく)説明会に参加し、そこで詳しく話を聞くことで情報収集をしていた学生も多くいました。ただ、合同説明会などの自粛により企業と接する場が少なくなったり全くなくなってしまったりしたこともあり、情報を得るために学生は企業が発信する採用ホームページを精読せざるをえなくなったという事情もあります。

最後に、このコロナ禍において、企業の複(副)業解禁や容認が進み、市民権を得てきました。企業では「若年層の既存社員に対してどこまでオープンにするか?」といった議論がある一方、学生は「複業を解禁している企業に就職したい」という希望も出てきています。現在の企業の業績により、複業を解禁することによって既存の社員の流出を心配する企業もあれば、それを容認しなければならないと切羽詰まっている企業もありますが、中長期的な人事戦略において、複業解禁やその点に言及しなければ、優秀な人材の流入が期待できない状態にもなりえる勢いです。働き方の自由度が増す中、オンライン対応以外にもこのようなことがテーマにもなりつつあります。今年の新卒採用も引き続き、さまざまな変化が求められる年になりそうです。


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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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