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新卒学生の動き―就職活動ルール―

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

新卒学生の動き―就職活動ルール―

2021年3月以降に卒業予定の学生の就職活動(以下、就活)から、就活に関するルールの取り決めは経団連(日本経済団体連合会)主導から政府主導に切り替わりました。

現在の大学4年生に対しては「3年生の3月1日に広報活動がスタートし、6月1日から採用活動」が始まり、次の年の学生も同じスケジュールで進行する予定です。

このように前年と同じスケジュールで進む年もありますが、これまでの長い新卒採用の歴史の中では、前年と違う動きが求められる年もありました。

これまで「新卒採用」がどういう動きをしてきたかを歴史的に振り返ると共に、今後の新卒採用がどのようになっていくかをお伝えしていきたいと思います。


新卒一括採用の歴史

新卒一括採用の始まりは1895(明治28)年。海外事業の拡大を機に、旧財閥系企業を中心として学生の採用が始まりました。この時代は試験や学歴を基準に行われてはおらず、縁故採用が多かったようです。第一次大戦までは、大学卒業後に入社試験が行われていました。その後、人手不足から「売り手市場」になるにつれて、多くの企業が学生と早い時期から接触を図りたいと、学校卒業前に選考が開始されるようになります。戦後の恐慌で「買い手市場」になり、企業は採用数を絞らざるをえませんでしたが、より優秀な学生を囲うため、試験の開始時期が年々早期化されていきました。


これ以降も1928(昭和3)年からの文部省の「協定」、1953(昭和28)年からの文部科学省の「就職協定」、1997(平成9)年からの経団連の「倫理憲章」、2015(平成27)年からの経団連の「指針」と主たる団体と名称の違いはありますが、企業側の早期の優秀な学生の獲得と、省庁や学校側の学業優先の攻防が続いていると言っても過言ではないでしょう。


就活が最も早まったのは、2005年度卒向けに「3年生の10月1日から広報活動、4年生の4月1日から採用活動」ですが、ここ5年ほどは上記でも示した「3年生の3月1日に広報活動がスタートし、6月1日から採用活動」となっています。


近年の学生の動き

ここ数年で就活をする学生の2極化が進んでいるように感じます。広報活動の開始を受け、大手就活サイトは3年生の3月の段階でグランドオープンしますが、インターン情報としてその前年6月からプレサイトもオープンします。これに伴い、就活を早期に始める学生が増加しています。6月からのサイトは「インターンシップ」という名称になっていますが、企業説明会や選考を伴う企業と学生の接触の場になっており、実質的に就活がスタートしているとも言えます。このようなインターンシップが急増したことで、3年生の6月から就活を始める学生と、3年生の3月から就活を始める学生の2つの層ができています。


採用活動の時期を制限する必要性

 そもそも、なぜ企業に対して採用活動の時期を制限するルールを設けていたのでしょうか?答えは大きく分けて2つ、「学生の学業に対する影響」と「公平な選考の担保」です。


企業が他社よりも優秀な学生を採用するために動こうとすれば、採用活動の早期化は避けられません。学生側から考えると、早期からの説明会や面接への参加により学業に集中できないこととなります。採用活動を開始する時期を揃えることで、企業も採用活動における公正性を担保しつつ、学生側にとっても就活の効率化ができるということもあります。


ただ、グローバル化が進み、変化のスピードが非常に加速されている昨今、従来の「新卒一括採用」は必要ないとの指摘もされてきており、「ルールは必要なのか」という議論もされています。


「新卒一括採用」は、日本の高度経済成長を支えた日本企業特有の雇用慣行の一つ。このシステムは「定年制」「年功序列」「ジョブローテーション」といったその他の雇用慣行システムとセットになることで日本企業の競争力の源泉となってきましたが、いまや経済、社会環境の変化によりこれらのシステムは過去のものとなりつつあります。今後も日本企業が国際競争力を維持、向上するためには優秀な外国人の採用が必須となっていることを考えると、採用活動もよりグローバルスタンダードな形へと進化していく必要がありそうです。
 


就活ルール廃止の賛成と反対

このように政府、経済団体、就活サイトや斡旋等事業運営企業、学校、学生まで、折々に変化を求められる環境下、現在は政府が主導となって決められることになっている就活ルールですが、長年ルールの形骸化も問題になっており、これを廃止する議論が加速しています。


廃止への賛成意見として「企業はより柔軟な採用活動ができる」「早期において企業情報を得る機会が増えることは、学生にとってもプラスである」等が出ています。現在の就活を見てみると、採用活動が解禁されてから数週間のうちに説明会や面接が行われ、学生はじっくりと考える時間もない中、短期間のうちに自分の将来を大きく左右する決定を迫られる状況にあります。早い時期から企業がより実務に近いインターンシップを充実させるような受け入れ方法を提供することにより、企業も学生側もより納得のいく就活ができるようになれば、早期退職等の弊害が少なくなるようにも思います。

一方、廃止への反対意見として「早期化傾向に伴い、学業への悪影響が出る」「体力のある企業においては長期間、人員・資金を投下した採用活動が可能だが、中小企業には難易度が高い。結局、大企業に良い人材を奪い取られかねない」等の声が上がっています。
就活の早期化による学業への悪影響については、大学側が大きく懸念しているポイントです。学生の本分はあくまで学業であり、就活によって学業が疎かになってしまっては意味がありません。この問題を解決するためには、企業側が採用基準において学業成績を重視し、しっかりと学業に励んでいる学生を高く評価し、積極的に採用する形に基準を変えていく必要があるでしょう。採用体制の強化は、ひいては自社の人材強化にもつながることでもあり、政府に頼らない、それぞれの企業独自の運用方法が今こそ構築できる時代になってきています。

次回からは採用活動を成功に導くために、個別・具体的なお話を進めていきます。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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