第6回 ニューノーマル時代の教育研修
人生100年時代のリカレント教育
教育研修を考える時に、二つの視点がある。大きな流れと目の前の対応である。大きな流れとは、数年前に注目を浴びた、リカレント教育である。日本人は、大学を卒業するとほとんど勉強しなくなる。社会人においても教育の必要性があるとのことでのリカレント教育である。
その当時、「シンギュラリティ、コンピューターが人間を超える日、それは2045年である」。そのようなフレーズも流行っていた。つまり、既存の仕事がAIを始めとするテクノロジーの進化により、消滅してしまう。そのような危機感を煽って流行ったものである。
そして、併せて、人生100年時代。100歳まで生きるとなると80歳くらいまでは仕事を続ける必要がある。ロンドンビジネススクールの教授、リンダ・グラットンさんの著作もベストセラーとなった。80歳まで存在する仕事ができるスキルを身につける必要がある。そのためのリカレント教育であるのだ。
大事なことは、複数の専門性である。一つだけでは、そのスキルを必要とする仕事が無くなると、食べていけなくなる。二つ以上のスキルを身につける、保険を掛けておくのだ。そのことを経済産業省の方が、「すごろくから、ポケモンGO」と表現していた。
すごろくは、サイコロを振りさえすればいつかゴールに到達する。しかし、現在は、社会人人生に例えた時に、そのゴールが突然無くなることもあり、また、ゴールに向かう道が途中で途切れていることもある。つまり、一つのスキルだけでは、大変心細い時代であるのだ。
そこで、ポケモンGOのように、あるスキルに出会ったらゲットして、また違うスキルに出会ったらゲットしていく。そして、自らそのスキルを進化させる努力が必要となるのだ。長い人生を生き延びるためには。
最大限の選択肢の提供
そのような時代において、企業の教育研修はどうあるべきなのか。形式と中身という問題があり、まず中身、教育コンテンツにおいては、自社でしか通用しないコンテンツでは、従業員を路頭に迷わせてしまう危険性がある。
他社でも通用する、市場価値が高まる、最新の技術を学べる、そのような汎用性のある教育コンテンツが求められる。さらには、イノベーションを社内で起こしたいのであれば、多様性のある知識を持つ従業員を育成する必要もある。
目指すべきは、最大限の選択肢の提供、さまざまな知識が学べる、いろいろなスキルが身につく、そんな教育コンテンツの提供が企業においては、結果、自社に貢献する従業員を育成することに繋がるのだ。
リモートとリアルの使い分け
そして、もう一つの視点である、目の前の視点である。教育コンテンツが大きな流れに沿ったものとなる必要がある一方で、その提供方法、教育機会の手段においては、目の前の課題である、コロナ禍に影響されるところが大きい。
従来型の教育は集合研修が多かったが、このご時世では、大人数を集めることができない。今までも、e-ラーニングはあったが、これがここにきて主流となりつつある。三密回避のみならず、在宅でも受講でき、場所と時間を、各人の都合の良い状態を選択できる。
先に教育コンテンツにおいて、最大限の選択肢の提供と記したが、教育形式においても、最大限の選択肢の提供となる、e-ラーニング形式が時代の流れである。また、進捗管理も容易であり、個別最適化できるところも大きなメリットがある。各自の進捗に合わせて、提供、利用できるからである。
知識を得る、そのような内容であれば、このe-ラーニング形式はまことに都合がよいが、OJTのような、一緒にやってみて、随時アドバイスをする、受講側であれば、随時質問ができる、所作をみながらアドバイスをするような学びのスタイルは、このe-ラーニング形式では限界がある。また、アウトプットをしながら学ぶような形式も、確かにリモートでできなくはないが、ざっくばらんな発言はしにくいものだ。
知識だけ学ぶ研修であれば、e-ラーニング形式で完了させつつ、知識を学び、それをもとに実行する、あるいはアウトプットして学び合うものは、まずはe-ラーニング形式で初めて、次のステージではリアルの場で研修をしていく、そんな使い分けが、形式のスタイルとなっていく。
どちらかのスタイルに無理やり当てはめるのではなく、それに適したスタイルで、いいところ取りをしながら実施していくことが求められる。
最後は当事者意識が出発点
教育コンテンツと手段は、もちろん大事だが、しっかりと身につくかどうかは、教育を受ける当事者、その者の意識の持ちようである。成長意欲がベースにあるか、常に危機感を持っているか、その根底のところは各自各様であっても、学ぶ姿勢がなければ、管轄部門がいくら用意したところで、全く意味が無い。
ある意味、教育研修を担当する部門の最大のミッションは、この学ぶ姿勢の涵養である。それが実現できれば、各自が勝手に学び始めるはずだ。先日、とある大学の学長と対談をした。その莫大な知識量に圧倒され、対談どころではなかったが、その方は今でも学び続けていると言っていた。
その立場、その知識量をもってしても、まだまだ危機感を持っていたのである。そのような人にすることが、教育部門の最大のミッションであり、それができれば、企業へ大きな貢献ができるはずである。