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[株主総会] 第5回:ハイブリッド出席型バーチャル株主総会④

中小企業におけるバーチャル株主総会の開催

著者: 日本大学商学部准教授、弁護士  金澤 大祐

[株主総会] 第5回:ハイブリッド出席型バーチャル株主総会④

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは

(11)議決権行使

現行会社法においても、事前の議決権行使の方法として、電磁的方法による議決権行使制度があります。もっとも、出席型総会におけるバーチャル株主の議決権は、株主総会に出席したものとして取り扱うため、電磁的方法による議決権行使とは異なります。

そのため、出席型総会においては、バーチャル出席した株主の議決権行使は、当日の議決権行使として取り扱われ、会社はそのためのシステムを整える必要があります(実施ガイド24頁)。

(12)肖像権等への配慮

出席型総会においても、参加型総会と同様に、映像等で配信される株主の肖像権等に関して留意する必要があります。

肖像権等への配慮としては、①撮影・録音・転載等を禁止することや、②配信により 株主の氏名が公開される場合には事前に通知をする等の対応をとることが考えられます(実施事例集14頁)。

(13)招集通知の記載方法、お土産の取扱い

ア 招集通知の記載方法

株主総会の議事録の記載事項を定める会社法施行規則72条3項1号は、「株主総会の場所」の記載方法として、「当該場所に存しない(中略)株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。」としています。

出席型総会においては、出席型総会の招集通知における「株主総会の(中略)場所」の記載に当たっては、会社法施行規則72条3項1号の規定を準用し、招集通知において、リアル株主総会の開催場所と共に、株主総会の状況を動画配信するインターネットサイトのアドレスや、インターネット等の手段を用いた議決権行使の具体的方法等、株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、審議に参加し、議決権を行使するための方法を明記することとなります(実施ガイド25頁)。

また、出席型総会においては、株主総会の運営に際しての法的・実務的論点①~④の方法を招集通知に記載することが必要となります(実施ガイド25頁)。

イ お土産の取扱い

リアル総会に物理的に出席する株主に対して、交通費をかけて会場まで足を運び来場したことへのお礼として、お土産が交付されることがあります。もっとも、バーチャル出席株主は、会場へ足を運ぶことなくインターネット等の手段を用いて株主総会に出席することとなります。

そこで、出席型総会においては、バーチャル出席株主に対してお土産を配布しないことも可能となります(実施ガイド25頁)。

(14)対応の難易

出席型総会を行うためには、質問権及び議決権行使に対応するシステムを整備する必要があるため、参加型総会よりもシステム上の対応が難しいといえます。

もっとも、バーチャル総会システム事業に参入する業者もおり、ハイブリッド出席型総会についても、一般的に利用可能なシステムやサービスの提供が開始されています[1]

また、2020年度において出席型総会を実施した企業もあり、そのノウハウについて実施事例集により公表されています。

したがって、出席型総会も、検討し得る選択肢の一つとなっています。

中小企業におけるバーチャル株主総会の可能性

参加型総会については、株主総会のライブ配信やコメント等の受付け等が必要となります。

もっとも、株主総会のライブ配信は、YouTube LiveやZoomといった動画配信システムを利用したり、電話会議やインターネットを通じた音声のみの配信でもよいこととなっています。また、受付けたコメント等には、質問権の行使には該当しないため、総会中に回答しなくてもよいことになります。そのため、参加型総会は、技術的な負担は重くないといえます。

また、参加型総会において参加する株主は、「出席」するものではなく、傍聴しているに過ぎないため、通信途絶等の不具合が生じたとしても、株主総会決議が取り消されることはありません。

したがって、参加型総会の開催は、中小企業においても十分に可能といえます。

出席型総会は、質問権及び議決権行使に対応しなければならないため、参加型総会よりもシステム上の対応が難しいといえます。

もっとも、バーチャル出席株主が少ない会社であれば、既存のウェブ会議システムであるZoomミーティングとZoomビデオウェビナーは、本人確認や議決権行使結果を確認しやすく、利用可能となっています[2]

また、既存のウェブ会議システムにおいて質問をテキストで受け付ける場合には、送信回数や文字数等を宣言するという設定はできないことが多いですが[3]、バーチャル出席する株主の数が少ない中小企業ならば、ウェブ会議の手を挙げるなどの機能を利用し、ミュートを解除して質問をしたり、投票機能を利用して議決権を行使したりすることも可能です[4]

さらに、会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知し、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていれば、会社側の通信障害は、決議取消事由には該当しない、又は該当したとしても裁量棄却されるとの解釈が示されており、通信障害があったとしても必ずしも、総会決議が取り消されるわけではありません。

したがって、出席型総会は、中小企業において、検討に値するものといえます。

おわりに

本稿では、バーチャル株主総会のうち、中小企業でも開催可能な参加型総会と出席型総会について、実施ガイドと実施事例集を中心に、紹介し、検討してきました。

本稿が中小企業におけるバーチャル株主総会導入の検討の際の一助となれば幸いです。

以上

脚注

1.澤口実=近澤諒編著『バーチャル株主総会の実務〔第2版〕』(商事法務、2021年)46頁

2.竹平征吾ほか編著『新型コロナウイルスと企業法務-with corona/after coronaの法律問題』(商事法務、2021年)119頁

3.澤口ほか・前掲(注1)113頁

4.参加型総会におけるコメント等や議決権行使につき、Zoomの機能に例えて説明をするものとして、德本穣ほか編著『最新法務省令対応 令和元年会社法改正のポイントと実務への影響』(日本加除出版、2021年)373-374頁〔松嶋隆弘〕参照。

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著者プロフィール

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金澤 大祐

日本大学商学部准教授、弁護士

日本大学大学院法務研究科修了。商法・会社法を中心に研究を行い、実務については、民事事件を中心に幅広く取り扱う。
著書に、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(ぎょうせい、2020年)〔分担執筆執筆〕、「原発損害賠償請求訴訟における中間指針の役割と課題」商学集志89巻3号(2019年)35頁、『資金決済法の理論と実務』(勁草書房、2019年)〔分担執筆〕等多数

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