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10.テレワークの未来―社会はどう変わっていくか

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

10.テレワークの未来―社会はどう変わっていくか

新型コロナウイルスの世界的な流行により、強制的に在宅勤務が行われる状況下。世界中の叡智(えいち)を集めたとしても収束のめどがつかず、「人間の予測の上に未来があり、人間がコントロールできるものだ」という世界観の限界を見事に証明する機会となったような気もします。

ただ、この1年のテレワーク環境を経験して感じた「負」にはどのようなものがあるかを知り、それを解消して、より良い未来を描いていくことを止めてはならないと思います。

まずは課題を振り返り、その解消からお話を進めていきましょう。


一つ目の負は、社内コミュニケーションの不具合。具体的には「相手の状況がつかめないので、どのタイミングでWeb会議やチャットで相談すれば良いのか分からない」「同じ部署やチームの他のメンバーが今どのような仕事をしているのか分からない」といったことでしょう。昨今では、オフィス不要論まで飛び出してきていますが、一体感や活性度の共有という点では、まだまだリアルでの接触に軍配が上がりそうです。テレワークとオフィスの役割と使い方を考え直すチャンスと捉え、会社の成長や差別化を実現するためのカルチャーやビジョンを明確にし、業務の仕方を見直すところから始めてみましょう。

併せて、近未来は上記の課題を凌駕する技術の到来も予感させます。4年半前に厚労省が発表した『「働き方の未来 2035」 ~一人ひとりが輝くために~』に以下のようなくだりがあります。
「現在、VR(Virtual Reality 仮想現実)、やAR(Augmented Reality 拡張現実)は実用段階にあり、(中略)今後はさらに発展し、MR (Mixed Reality 複合現実)の進化は会議のあり方を大きく変え、遠隔にいる同僚があたかも同じ会議室にいるようになり、テレワークの制約やリアルなコミュニケーションとの区別もつかなくなる」

“技術の進化”に伴い、今感じている違和感も軽減してくることは大いに考えられます。また、技術だけではなく、“意識の変化”も負を解消することにつながることを実感しています。
筆者は、必要に迫られ、4年前からテレワークができる環境を整え、1/4ほどは地方から東京の事務所スタッフとのコミュニケーションを試みてきました。ただ、リアルで会わないのはサービス価値が下がるという意識があり、コロナ前は関東のお客様に「Web会議での打ち合わせをお願いしたい」とはなかなか言えない状況が続きました(移動の多い経営者や地方拠点の方とは当時からSkypeで打ち合わせをしていましたが)。この1年でZoom、Teams等を使った打ち合わせに世の中の制約も無くなり、多くのお客様に気軽に「Webでの打ち合わせをお願いしたい」と言うことができるようになりました。コロナ以前は、ある意味、勝手に自分で制約を設けていた部分もあったようにも思います。Webでの打ち合わせが一般的になりつつある今、コロナが落ちついた頃には、今度はリアルでの訪問に価値を見出す流れもありそうだと予想しています。

二つ目の負は、在宅勤務下での生産性が低くなっているのではないかという意識。厚労省が発表した「日本の在宅勤務の生産性」(図1)と「米国の在宅勤務の生産性」(図2)を比較してみると、圧倒的に日本の低さが目立ちます。低下要因(図3)に着目し、変更できるところから取り組みを始めていく必要がありそうです。

【図1】

図1:日本の在宅勤務の生産性

【図2】

図2:米国の在宅勤務の生産性

【図3】

図3:日本の在宅勤務の生産性の低下要因

日本とアメリカでテレワークが受け入れられてきた環境や歴史は違えども、日本がガラパゴス化することは避けなければならないと思っています。働き方の慣行や制度、規制などが日本独自のものであり続けた場合、日本の働く人はガラパゴス化し、多くの仕事は国境を超えて世界に分散していくことになるのでしょう。そうならないためには、働き方の仕組みや制度だけでなく、外国人人材を含めすべての人を社会の一員として受け入れる仕組みが整備されていなければなりません。それ以上に、「世界で最も働きやすい場所」を目標として掲げ、日本の雇用環境の良さを伝えることを惜しまず、物理的に住んだり働いたりする場所として積極的に選択されるような仕組みが構築されていることが非常に大切だと思っています。

今、with/afterコロナが盛んに叫ばれていますが、そもそも日本は、2018年をピークに人口が減少し、労働力不足、出生率低下、過疎化が懸念され、「働き手がいなくなる問題」「都心とエリアの格差問題」は明らかな課題として挙げられていました。それゆえ、「女性」「シニア」「若手」「障がい者」「外国人」など、全ての人にとって働きやすい環境を創っていくことこそ大事であるという流れの中、上記、厚労省の提言にも「一人ひとりが輝くために」という副題がついています。

そういった日本の未来の問題を解決する手段の一つが、「テレワーク」。昨年6月の『社長100人アンケート』(日本経済新聞)でも、90.9%の会社が「ニューノーマルでもテレワークを継続する」と答えています。テレワーク活用の障壁に対しても、デジタル化の加速と、脱・時間管理、ジョブ型雇用の導入、在宅専用人材の採用などの人事制度の見直しによって解決しようとしていることが発表されています。

こうした変化は決して、人々がいつでもどこでも「働かされる」ことではありません。ワーケーションも注目されていますが、各個人が自分の意思で働く場所と時間を選べる時代、自分のライフスタイルが自分で選べる時代に変化しています。物理的に同じ空間で同時刻に共同作業することが不可欠だった時代は、そこに実際にいる「時間」が働く評価指標の中心でしたが、時間や空間にしばられない働き方への変化をスムーズに行うためには、働いた「時間」だけで報酬を決めるのではない、成果による評価が加速します。

その延長線上で、“副業”ではなく“複業”が一般化します。企業はプロジェクトの集合体で運営される流れになるでしょう。同じ企業の社員でも物理的に空間と時間を共有する必要がなければ、どうしても帰属意識は薄れがちになり、コミュニティとしての機能も弱まっていくことも考えられます。人材が社内外を移動できるように、企業も柔軟な組織体を形成することになりそうです。

今後はますます長寿が進み、健康寿命ものびていき、高齢でも働く人たちが増えていきます。ただ、AIによって代替される仕事も増えることに加え、事業のサイクルは短サイクルになっています。このような流れからも一生涯、1社で同じ仕事を続けていくことは難しくなり、誰もが必ずキャリアチェンジを経験することになります。

更なるより良い未来を実現していくには、まず、自らが変化をどう考え、「自分の幸せとは」「今後どう働きたいのか」を具体的に描いていく必要があります。他人が書いたシナリオで働くのではなく、自分の描いた道筋をたどっていきたいものです。

長期にわたる連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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