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9.テレワークを通じての個人キャリアの構築と支援

著者:一般社団法人日本テレワーク協会 相談員  小山 貴子

9.テレワークを通じての個人キャリアの構築と支援

日本テレワーク協会が発足してから30年ほど経ちますが、この1年は、決して望ましい要因ではないながら、コロナ禍で、あっという間に「テレワーク」が市民権を得ました。場所と時間にとらわれない柔軟な働き方である「テレワーク」は、今後ますます社会に普及し、個人に活力とゆとりがうまれ、企業・地域の活性化による調和のとれた日本社会の持続的な発展に寄与することが期待されます。

テレワークがますます進むと、図表1のように1社の就職先を選んでそこに専従で働くのではなく、複数企業の仕事も受けやすくなるでしょう。これまでの転職活動は、「会社の意向に沿えない」「会社が合わない」となってから行動を起こす方も多くいらっしゃいましたが、これからは「自分に何ができるか」「何をもって企業や人々の役にたてるか」という起点から職業選びをすることがますます進んでいくことになるでしょう。

図表1:【考察】テレワーク社会で就業がどう変わるか

図表2の通り、業務範囲が特化していく傾向の中、得意なところを全うすることで複数の案件に携わるような働き方が加速していくと思われます。仕事の全体像を理解しなければならないゼネラリストの人数は今よりかなり少なるなるでしょう。

図表2:【考察】システムソリューション 業務の範囲

このように移行していく背景の一つとして、副業・兼業の促進があげられます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定 令和2年9月改訂)では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、

  • ① 労務提供上の支障がある場合
  • ② 業務上の秘密が漏洩する場合
  • ③ 競業により自社の利益が害される場合
  • ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

に該当する場合と書かれています。裏を返せば、①~④に該当しない場合は、副業・兼業を制限してはいけないということです。「人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要。副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する」とうたわれており、実際に副業者は増加傾向にあります。都心企業に所属するという本業を持ちながら、地方企業のお手伝いを複数社している方も珍しくなくなってきました。地方企業1社では持て余す高いスキルを持った人材を複数社でシェアするという試みも行われています。

そんな中、一般社団法人人材サービス産業協議会が11月に行った「企業のテレワーク導入実態と中途採用に関する調査」では、テレワークを導入している企業ほど、下記の事項について、社員に求める度合いが強いという結果が出ています。

  • ① 日々の業務を着実に推進できること
  • ② 目標や課題を自ら設定できること
  • ③ 業務やタスクを整理し、効率的なスケジュールをたてられること
  • ④ 必要な知識やスキルを自律的に獲得していくこと
  • ⑤ 必要な情報を自律的に収集できること

上記は「これらを要求する」と回答した企業数が多い順に記載していますが、特に、③④⑤は、テレワークを導入している企業とそうでない企業の乖離が大きく、テレワークを実施する場合、“自律”が求められていることが分かります。

そんな中、コロナ禍で営業体制を築き上げた事例があります。オンライン商談ツールを扱っているナレッジスイート株式会社の営業リーダーである新村美登里氏に話を聞きました。2020年5月、緊急事態宣言下で問い合わせが殺到する中、営業担当はただ一人。新入社員が入ってきても、背中を見せたり、手取り足取りの教育をしたりがなかなかできない中、需要に応えるためにも何とかして早期育成しなければなりません。そこで、まずは自らの商談映像を録画して動画を見てもらうことから始め、学習してもらってから、ロールプレイへ移行するようにされたとのこと。一通りロールプレイが終わったらフィードバックを行い、これを数回繰り返すことで短期間に新入社員を営業パーソンへ育てていく事ができたそうです。

新村氏は、過去の失敗の経験から新入社員世代に合った研修方法をさぐり動画にいきついたものの、動画の作成時間がとれなかったためにオンラインで自分の背中を見せることになったとのこと。相手に合わせた育成方法やコミュニケーション方法をとるために、傾聴を学び、「縦の質問※1」と「横の質問※2」を組み合わせて話をされているそうです。

リーダーとして、このような動きはコロナ禍以前から非常に重要であることが言われてきましたが、同じ空間を共有することが難しくなったからこそ、誰しもが短期で標準レベルまで到達する仕組み作りが早急に求められるところです。それは企業の成長視点で準備されたものだとしても、必ずや個人の支援へ結びつくことになるでしょう。またそのような支援を意識し、準備する企業こそが従業員の満足を高めていくことになります。

※1:ある特定の話題について深掘りする質問。例えば、「具体的には?」「そうしたらどうなりますか?」といった質問のほかに、「5W1H」を聞いていくことによって、話の内容をさらに深掘りしていく。

※2:「ほかには?」「例外は?」「別の見方は?」というように、話の幅を広げる質問。相手の視野を広げたり、視点を転換させたり、感情の状態を調べたりするときに効果的。

図表3:【考察】就業の変革

テレワークの普及のみでなく、図表3の通り、RPAやAIの発展、IT化やDX化の加速、本当の意味の成果主義、「トップダウン型のマネジメント」はなかなかできない時代でもあり、「部下の力を引き出し育てるマネジメント」が求められています。就業の変革が加速しています。先進的な企業においては、単なる「働き方改革」ではなく「働きがい改革」を提唱するところが出てきており、今後は「生き方改革」にシフトしていきます。これまでの習慣や役職にとらわれず、自由な発想でやってみる、うまくいかなければ変えてみる、場所も時間もやることも自分で決められます。人生100年時代に向け、年齢や性別にもとらわれる必要は無く、チャレンジできる時代と捉え、それぞれの「生き方改革」を推進していただきたいと思います。

次回は、最終回。「テレワークの未来-社会はどう変わっていくか」に関して述べていきたいと思います。

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著者プロフィール

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小山 貴子

一般社団法人日本テレワーク協会 相談員

1970年生まれ。12年間のリクルート社勤務後、ベンチャー企業の人事、社労士事務所勤務を経て、2012年社会保険労務士事務所フォーアンド設立。ただいま、テレワーク協会の相談員と共に、人事コンサル会社の代表取締役、東証一部上場企業の非常勤監査役、一般社団法人Work Design Labのパートナー、東京都中小企業振興公社の専門相談員等にも携わる。2年半ほど横浜と大分の2拠点生活を実施中。

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