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株式併合後に株式買取請求をした者による株主総会議事録の閲覧・謄写(1)

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

株式併合後に株式買取請求をした者による株主総会議事録の閲覧・謄写(1)

1 はじめに

今回と次回は、株式併合によってキャッシュアウトされ株式買取請求を行った旧株主は株主総会議事録の閲覧および謄写ができるのか、について解説します。

次回は、今回の内容をもとに、近時の関連裁判例(最二小判令和3年7月5日民集75巻7号3392頁(上告棄却))を解説します。


2 株主総会議事録の閲覧および謄写

会社法は、株式会社の株主および債権者に、株式会社の営業時間内はいつでも株主総会議事録の閲覧または謄写の請求を認めています(会社法318条4項)。

これは、株主総会決議に手続上の瑕疵があるかの調査を可能にするためとされています。

このように、会社法は株主総会議事録の閲覧および謄写請求をできる者について、単に株主および債権者とのみ規定しています。

そのため、企業の営業秘密や重要な戦略に関する情報などが記載されている可能性の高い取締役会議事録の閲覧謄写請求(会社法371条)や、日々の取引の詳細が記録されている会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法433条)と比べると、会社法は特段の制約を設けずに広く株主総会議事録の閲覧および謄写の請求を認めていると考えられます。

なお、会社が正当な理由なく請求者による閲覧または謄写請求を拒絶した場合には、過料が課されることとなるので注意が必要です(会社法976条4号)。

一方、請求者が株主または債権者であったとしても、同請求者による株主総会議事録の閲覧または謄写請求が会社の営業を妨害する目的でなされたような場合は、権利濫用であるとして、会社はそれを拒絶することができます(東京地判昭和49年10月1日判時772号91頁)。


3 株式買取請求と会社による仮払制度

会社法は、株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、当該株式会社に対し、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができると定めています(会社法182条の4第1項)。

これは、株式併合をキャッシュアウトとして利用する状況を念頭に、1株未満の株式を有することになる者に対して株式買取請求を認めるものです(坂本三郎『一問一答平成26年改正会社法[第2版]』(商事法務、2015年)300頁)。

なお、この株式買取請求を行使できるのは、株式併合を決議する株主総会に先立って当該株式併合に反対する旨を株式会社に対して通知し、かつ、当該株主総会において当該株式併合に反対した株主と、当該株主総会で議決権を行使することができない株主のみです(会社法182条の4第2項1・2号)。

また、株式買取請求は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求にかかる株式の数を明らかにしてしなければなりません(会社法182条の4第4項)。

株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と株式会社との間に協議が調ったときは、株式会社は、効力発生日から60日以内にその支払をしなければならず(会社法182条の5第1項)、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主または株式会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができます(同条2項)。

株式会社は、裁判所の決定した価格に対する法定利率による利息を支払わなければならないところ(同条4項)、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し株式会社が公正な価格と認める額を支払う(仮払いする)ことができます(同条5項)。

これは、効力発生日から60日の期間の満了の日後の法定利率による利息の支払いにつき、かかる利息の受け取りを目的とする株式買取請求を防止するための規定とされています(岩原紳作編『会社法コンメンタール補巻――平成26年改正』(商事法務、2019年)263頁[飯田秀総])。


4 株式併合によってキャッシュアウトされ株式買取請求を行った旧株主は株主総会議事録の閲覧および謄写ができるのか

ここまでの内容をポイントごとに表にまとめてみましょう。

ポイント

株主総会議事録の閲覧および謄写請求

株主および債権者が請求可

※正当な理由・目的の有無により請求の可否に影響

株式買取請求

株式併合により株式に端数が生ずる場合に、端数すべてを公正な価格で買取請求可

 ※反対株主であることが必要

仮払制度

利息の支払いを主な目的とする濫用的訴訟の提起を防止するための制度として創設

上記のうち、株式併合後の株式買取請求および仮払制度は、平成26年会社法改正によって創設されました。

問題となるのは以下2点です。

①キャッシュアウトを目的とした株式併合後に端数の株式のみ保有している旧株主が株式買取請求権を行使している場合、当該旧株主に株主総会議事録の閲覧および謄写は認められるのか

旧株主は会社法318条4項にいう債権者に該当するのか

②①の場合に、会社から仮払いを受けていた者は、株主総会議事録の閲覧および謄写請求は認められるのか

①の結論は会社から仮払を受けた者に対しても当てはまるのか

実際にその点が問題となったのが最二小判令和3年7月5日民集75巻7号3392頁です。

同判決の内容を先取りしておくと、大要裁判所は以下のような内容を判示しています。

株式併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合に株式買取請求をした者は、株式の価格につき会社との協議が調いまたはその決定にかかる裁判が確定するまでは、会社が公正な価格と認める額の支払を受けたときであっても、株主総会議事録の閲覧および謄写の請求をすることができる債権者にあたる。

同判決は、株式併合によってキャッシュアウトされ株式買取請求を行った旧株主は会社法318条4項にいう債権者であるとして株主総会議事録の閲覧および謄写ができるのか、同旧株主が会社から仮払を受けていた場合にも同項にいう債権者であるといえるのかについて判断した初めての最高裁判決です。

同判決内容とそこで示された判断基準は、株式併合以外でなされる他の株式買取請求時にも妥当するとともに、今後の実務の参考になると思われます。


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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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