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事業経営者と相続・相続税

著者: 税理士  髙橋 昌也

事業経営者と相続・相続税

これから起業を考えている人。起業をしてまだ間もない人。そういう方々にとって「自分の死」というのは縁遠く感じられることかと思います。

しかし事業が無事に軌道に乗り成長できると、いろいろと考えなければならないことが出てきます。


相続と相続税

最初に確認したいのは、言葉の使い方です。世の中では「相続」と「相続税」という言葉が一緒くたに使われているケースが非常に多いです。しかし、この2つの言葉はしっかりと使い分ける必要があります。ここが分からないと「相続税対策としては有効だけど、相続で大いに揉めることになった」ということが起こりかねないためです。


相続とは?

相続というのは、亡くなった人が遺した財産(俗に言う遺産)について、誰が、何を、どれくらいもらうのか?ということを確定させるための手続きです。対象となるのはプラスの財産(現預金や不動産、保有する有価証券や誰かに対する貸付金など)だけでなく、マイナスの財産(借金)も含まれます。

基本的に相続の対象となるのは、配偶者や親族に限定されます。例えば隣家のAさんが亡くなったときに「いままで親しくしていたので財産ください」と自分が出ていっても、追い返されるのが当たり前なのはよく分かるかと思います。

実はここまでの話で、すでに事業経営者が注意すべき事項がいくつか含まれています。

  • 有価証券や貸付金が相続の対象
    この中には「自分が経営していた会社の株式」や「自分が経営していた会社への貸付金」も含まれています。この点を見逃している事業経営者は、存外多いようです。
  • 対象者
    配偶者や親族が対象で、それ以外の他人は基本的に対象外です。そう、例えば「番頭として事業を全力で支えてくれて、いずれは後継者にしたいと思っている有能な従業員」がいるとしても、何もしなければ相続の対象には含まれません。

これ以外にも、相続で配慮しなければならないことは山ほどあります。その点については、また別の記事で追々お話しできればと思います。


相続税とは?

相続の手続きが終わると、その次に出てくるのが相続税です。相続税は「相続の手続きを通じて確定した財産の分け方に従って、各人が負担すべき相続税の金額を計算し、納税する」までの手続きを言います。

何よりも大切なのは、手続きの順番です。相続税は基本的に「相続」の後にしか来ないように出来ています。まず分け方があって、そのあとに税金計算が来る。言われてみれば当たり前なのですが、この点をしっかりと理解しないまま、俗に言う「相続税対策」に乗り出してしまい、とんでもないことになる事例が後を絶ちません。

ここで、相続税対策の基礎にして奥義とも言える点を確認します。相続税というのは「分けにくい、使いにくい財産ほど安くなる」という性質があります。例えばみなさん、次の遺産だったらどちらがほしいですか?

  • 現金 5,000万円
  • 土地 5,000万円

まぁ最近の都市部で起こっているような土地バブル状態をみると、一瞬土地でも・・・なんて考えてしまうかもしれません。しかし大概の場合には、現金5,000万円の方が嬉しいのではないかと思います。

現預金というのは、あらゆる財産の中で、もっとも分けやすく、使いやすい代物です。ですので、相続税が課税される場合、この現預金というのは値引き交渉の余地がまったくありません。

その一方で土地というのは、活用しようとするとそれなりに技術や知識、そして財産が必要です。賃貸するにしても売却するにしても、手間や手続き、あるいは税負担などが発生します。その分、相続税が課税されるときには、いくらかのオマケをしてくれる可能性が出てきます。

ちなみに事業経営者特有の財産についても記します。

  • 自社の株式
    こちらは結構分けにくい財産なので、相続税課税において、それなりに優遇措置が設けられています。ただしこの自社株式の評価については、非常に困難な点があります。これについては、また別記事で補足しようかと思います。
  • 自社への貸付金
    貸付金は、別に分けづらい財産ではありません。従って、相続税の課税においても特に優遇措置はありません。ですので、あまり大量の社長借入(社長からみれば会社への貸付金)を残したままでいると、万が一のことが起こったときに面倒なことになりがちです。

ここまでの話で最大のポイントはこれです。

相続税対策の基礎は、自分の財産を分けにくくて使いづらいものに変えておくこと

この点が理解できると、当然、次の点に理解が及んできます。


相続対策と相続税対策は相反することが多い

相続とは「財産をどうやって分けるのか」でした。当然ながらその対策として有効なのは、財産をできるだけ分けやすく、使いやすい状態にしておくことです。極論を言えば、遺産のすべてが現預金であれば、そんなに揉める要素はありません。

その一方で相続税対策は、上でも確認した通り「遺産を分けづらく使いづらい状態にしておくこと」が有効でした。例えば遺産のすべてが不動産や非上場株式のように使いづらいものになっていれば、相続税はそれなりに低減させることが可能です。

そうなのです、基本的に「相続対策」と「相続税対策」は、真逆のことを目指しています。そのため「相続対策」を重視すれば相続税は高くなり、「相続税対策」に取り組めば相続は難しくなっていきます。

そして世の中には「相続対策」の名前で行われている「相続税対策」が数多くあります。例えば「借金をして不動産経営」というのは、たしかに相続税対策としては有効なのですが、実は相続対策としてはとても不利に働くことが多いのです。税金が安くなるのだから良いだろう、と良かれと思ってやったことが原因で、相続(財産の分け方)で揉めに揉めてしまい、一家離散状態に・・・なんて悲しい事例は、残念ながら珍しくありません。

そんな中で「事業を経営する」というのは、相続、そして相続税対策、その両面で高度な舵取りが迫られます。これは事業が成果を出せば出すほど、顕著な傾向です。

そういった事情もあり、昨今では事業承継(じぎょうしょうけい)と呼ばれる分野が盛り上がりをみせています。事業承継の中には「後継者探し」から「自社株式の移転方法」まで、様々な議論が含まれています。

次回、相続および相続税の対策について、もう少し詳細に触れてみたいと思います。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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