もしも経理をやることになったら…経理の仕事シリーズ 経理業務Q&A①
初めて経理担当になった方向けに経理の仕事を紹介する、「経理の仕事」シリーズ。
今回からは経理業務Q&Aということで、経理業務の分かりにくい点を解説していきます。
Q1.創立費と開業費の違いを教えて下さい。
会社を設立するにも様々な費用がかかります。会社設立に際してかかった費用や事業を開始するまでにかかった費用は「創立費」と「開業費」という勘定科目で処理をします。
では「創立費」と「開業費」という勘定科目には、どのような違いがあるのでしょうか。
(1)創立費
設立準備から会社設立までにかかった費用は創立費として処理されます。ポイントは「法人設立前にかかった費用」であることです。
具体的には、下記のような項目が挙げられます。
- 定款作成にかかる収入印紙や謄本取得費用
- 設立手続きを行うため依頼した行政書士への報酬
- 登録免許税
- 設立登記に関する司法書士への報酬費用
- 会社設立に際して会議を行った場合の費用
創立費は、効果がその支出日以降1年以上に及ぶために繰延資産に計上し、その後、償却します。償却方法については、①5年間の均等償却②任意償却を選択することが出来ます。
任意償却の場合、「償却する」「償却しない」どちらも選択することが可能です。また償却金額も自由に決めることが出来ます。
<償却する場合の仕訳例>
・決算にあたり、計上していた創立費30万円を全額償却した。
借方 |
貸方 |
創立費償却 300,000 |
創立費 300,000 |
創立費を償却する際には「創立費償却」という勘定を用います。この仕訳により創立費300,000円は費用として計上されました。
創立費の償却は節税対策としても活用出来ます。利益が予想以上に出るようなケースであれば創立費を償却し費用計上します。また、償却金額も自由に決められることから、節税対策として利用しやすい手法だと言えます。
(2)開業費
法人設立から営業を開始するまでにかかった費用は開業費によって処理します。
具体的には、下記のような項目が挙げられます。
- 名刺などの作成費用
- 開業に向けての宣伝広告費
- パソコン購入費用
- 取引先への手土産など
ただし10万円以上の備品や機械などの購入は固定資産扱いとなり、開業費に含めることが出来ません。また事務所を借りる際に発生した敷金・礼金も開業費に含めることが出来ないので注意しましょう。
開業費も繰延資産に計上し、償却も①5年間の均等償却②任意償却を選べる点で同様です。
開業費を償却する際は「開業費償却」という勘定科目を用います。開業費も任意償却につき償却時期、償却金額を選択することが可能です。
以上から、「法人設立前は創立費、法人設立後は開業費」という区分けになることを覚えておきましょう。なお事業開始後に発生する費用は販売費・一般管理費になりますので、科目相違が無いように十分注意しましょう。
創立費・・・会社設立のために支出した費用
開業費・・・事業開始までに支出した費用
2.短期借入金と長期借入金の違いを教えて下さい。
短期借入金と長期借入金は、1年基準(ワン・イヤールール)によって判別されます。
1年基準は、貸借対照表において資産または負債を流動・固定に分けるルールです。
借入金については、決算日の翌日から1年以内に最終期日が到来するものを短期借入金、最終期日が1年を超えるものを長期借入金とするものです。
(1)短期借入金
短期借入金は決算日の翌日から最終期日が1年以内に到来するものであることから流動負債に分類されます。一般的には手形貸付、当座貸越などの融資が該当します。
<仕訳例>
①銀行から手形貸付200万円(返済期日6か月後 金利2%)の融資を受けて、普通預金に入金された。
借方 |
貸方 |
普通預金 2,000,000 |
短期借入金 2,000,000 |
②返済期日が到来したので、普通預金通帳残高から一括返済した。
借方 |
貸方 |
短期借入金 2,000,000 支払利息 40,000 |
普通預金 2,040,000 |
支払利息については、銀行などの金融機関との契約方法によって支払時期が変わります。
利息の徴求方法については「利息前取り」と「利息後取り」の2通りの方法があります。
先ほど説明した仕訳例については、「利息後取り」の場合の仕訳です。
「利息後取り」は融資実行日から支払期日まで日割り計算した利息を融資返済時に徴求する方法です。
「利息前取り」は融資実行日から支払期日までに利息を、融資実行日に利息徴求する方法です。
<利息前取りの場合の仕訳例>
①銀行から手形貸付200万円(返済期日6か月後 金利2%)の融資を受けて、普通預金に入金された。
借方 |
貸方 |
普通預金 1,960,000 支払利息 40,000 |
短期借入金 2,000,000 |
②返済期日が到来したので、普通預金通帳残高から一括返済した。
借方 |
貸方 |
短期借入金 2,000,000 |
普通預金 2,000,000 |
短期借入金は返済期日に一括返済するケースが一般的です。
経理担当者としては、支払期日に返済金が用意出来るように資金繰りを組まなければなりません。また、借入を行う際も、返済金が用意出来るような返済期日を設定するように社長にアドバイスする必要があります。
経理担当者は仕訳業務を行うと共に、経営者に資金繰りをアドバイスできる存在になることも重要であることを覚えておきましょう。
(2)長期借入金
長期借入金は最終期日が返済期日の翌日から1年を超える借入であり、固定負債に分類されます。証書貸付などの分割返済する借入が一般的に該当します。
長期借入金の仕訳例を挙げておきます。
<仕訳例>
①銀行から証書貸付600万円(返済期間5年)の融資を受けて、普通預金に入金された。
借方 |
貸方 |
普通預金 6,000,000 |
長期借入金 6,000,000 |
②第1回目の返済日が到来し、毎月の返済元金10万円と返済利息5千円を普通預金から引き落とした。
借方 |
貸方 |
長期借入金 100,000 支払利息 5,000 |
普通預金 105,000 |
こうして毎月の返済を継続していき、決算の時点で返済期日まで1年を切った借入は「短期借入金」または「1年以内の長期借入金」という勘定に切り替える必要があります。
③決算時点で返済期日まで1年を切り、長期借入金から短期借入金に切り替えた。
借方 |
貸方 |
長期借入金 1,000,000 |
短期借入金 1,000,000 |
長期借入金を利用する際に信用保証協会などを利用した場合は、信用保証料が発生します。
返済期間5年の長期借入金を借入した際は、5年間分の信用保証料がかかり、また、長期前払費用として全額を資産計上します。そして決算時に当期にかかる月数に応じた信用保証料を計算して費用計上していきます。
これは「費用収益対応の原則」といわれ、融資借入時に5年間分の保証料を一括して費用計上すると正しい期間損益計算にはならないからです。
(3)社債
最近では社債や私募債を発行して資金調達するケースも増えてきています。
社債も資金調達手段の1つですが、短期借入金や長期借入金という勘定科目ではなく「社債」という勘定科目を使い、固定負債に分類されます。
社債の発行方法は①平価発行(額面金額で発行)②割引発行(額面より低い価格で発行)③打歩発行(額面より高い価格で発行)の3つの方法があります。また、利息の支払い時には「社債利息」という勘定科目を使いますので覚えておきましょう。
3.最後に
今回は経理業務Q&A①ということで、「創立費と開業費の違い」「短期借入金と長期借入金の違い」を説明してきました。
経理業務は簿記の知識が必要であり、会計処理についても一定のルールがあります。
ルールをしっかり覚えていくことで、経理パーソンとしての実力が上がりますので頑張って下さい。