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倒産した会社に学ぶ②「借金を重ねた末に」

倒産した会社に学ぶ②「借金を重ねた末に」

著者は24年間銀行員として働いてきました。その中で、事業規模を拡大し成功した企業もあれば、残念ながら倒産した企業も多くありました。

そこで「倒産した会社に学ぶ」シリーズとして、銀行員時代に実際に倒産した企業をモチーフに、今後の経営に活かすべき論点を解説していきます。

第2回は「借金を重ねた末に」ということで、適切な資金調達の方法や社内の組織体制構築について解説していきます。


この記事の著者
  中小企業診断士 

1.会社概要

今回の企業は、地方に本社を置く運送業B社です。売上高は約30億円、従業員はアルバイト社員を含めて60名の中小企業です。15年前にB社社長が創業し、現在の企業規模まで会社を成長させてきました。

当初は運送業として創業しましたが、住宅建築業、住宅販売業、インテリアなどの住宅資材販売業、倉庫業と事業を拡大していきました。

B社社長は事業意欲が旺盛であり、少しでもビジネスチャンスがあれば、果敢に挑戦していく経営方針です。

メイン銀行の支援もあり積極的に事業拡大していきましたが、最終的には倒産という事態に陥っています。

なぜB社は倒産という事態に陥ったのか原因を考えていきましょう。


2.創業の経緯

B社社長は高校卒業後、運送会社に就職しました。就職した会社ではトラックの運転手として、東北地方を中心に飛び回る日々を過ごしていました。

運送会社に就職した理由は、給与水準が高かったからです。

B社社長は以前から「自分の会社を持つ」という夢があり、創業資金を貯めるために懸命に働きました。

そして、B社社長は創業資金として800万円を貯め、運送会社であるB社を設立しました。

3.事業の拡大

B社社長は、会社員時代に創業を見越してさまざまな人脈を構築しきたので、創業後も受注に困ることはありませんでした。B社は運送業として着実に事業規模を拡大していき、従業員は10名にまで増えました。

この時点で、B社社長はマネジメントや営業活動に専念し、運送業務は従業員が行っていました。B社社長は商工会を始め経営者が集まるコミュニティーに積極的に参加し、人脈を広げていきました。また、銀行を最低でも月1回は訪問し、メインバンクとの関係性を深めていきました。

積極的に人脈を広げるB社社長ですが、商工会の会合で工務店C社の社長と出会います。B社社長とC社社長は、お互い年齢も近く直ぐに意気投合しました。

ビジネスにおいても、C社からの受注をB社が引き受けるようになりました。そして取引額は年々増加していき、B社にとってC社はかけがえのないビジネスパートナーになりました。


4.思わぬ罠

B社はC社というビジネスパートナーを得て、業績は好調に推移していきました。

しかし、C社は大手建築会社の参入により、業績が徐々に落ち込んでいきました。

ここで、B社社長はC社社長から「銀行融資の連帯保証人になってくれないか?」という相談を受けました。C社社長は手形の決済資金をメインバンクに申込みましたが、「現状の業績では融資が難しい。担保となる不動産か有力な保証人を追加して欲しい」との話を受けたそうです。

手形の決済資金なので、融資を受けられない場合は不渡りになります。不渡りを発生した時点で、信用不安が広がり事業継続は難しくなります。

B社社長は快くC社社長の申出を受けて、連帯保証人となります。

何とかピンチを乗り越えたC社社長でしたが、この1ケ月後に突如行方不明になります。B社社長はC社社長の自宅や事務所を訪れるも、連絡が全くつきません。

C社が支払っていた手形の決済は済みましたが、事業が思うように回復しなかったために、姿をくらましたと思われます。

この時点で、B社社長は連帯保証人としてC社の借入1,000万円を支払うことがほぼ確定しました。しかし、B社社長はポジティブ思考であり、C社で働いていた職人を引き取り、建築業を自社で開始しました。

B社社長にとって建築業は畑違いの分野でしたが、営業能力の高さを活かして、建築業務の受注を増やしていきました。こうして、連帯保証人としての保証債務1,000万円を着実に返済していきました。

C社社長の裏切りはありましたが、結果的にB社は建築業のノウハウを手に入れることが出来ました。

B社社長は建築業と関連した住宅販売業、インテリアなどの住宅資材販売業など事業を広げていきました。

「住宅建築→資材の運送→住宅販売→インテリアなどの住宅資材販売」とB社一社で全て完結できるビジネスモデルを構築しました。


5.B社が倒産した経緯

業績が順調であったB社ですが、最終的に倒産してしまいました。その経緯を説明していきます。

(1)運転資金の流用

B社は業績が好調であり、メインバンクからの信頼も厚く資金調達も問題ありませんでした。また、メインバンク以外の複数の銀行からも融資打診を受けていました。

こうした経緯もあり、B社社長は取引銀行を増やしていき、運転資金として融資を受けました。この融資金の大半は取引先との接待交際費などに使われました。また、融資金を社長個人への貸付金として経理処理し、B社社長は融資金を流用していました。

B社社長は事業拡大するにつれて、生活が派手になりました。融資金で海外のリゾートマンションや高級車を購入したという話も、同業他社の社長から耳に入りました。

(2)新型コロナウイルス感染症の猛威

着実に業績を伸ばしていったB社ですが、突然の外部環境変化に見舞われます。

それは「新型コロナウイルス感染症」でした。

コロナウイルスの影響により、建設関連の仕事が全て止まりました。当然、B社の業績は悪化の一途を辿ります。

B社はコロナ対策融資などを受ければ、事業を継続することは可能でした。

しかし、B社社長は突然姿をくらまします。

B社社長は独身であり、家族はいませんでした。また、住まいも賃貸住宅であり、持家ではありません。「海外のリゾートマンションに行った」という噂はありますが、B社社長の行方は分からず、真意を確かめることは出来ません。


6.倒産した企業から学ぶべきこと

(1)計画性の無い資金調達をしない

B社は複数の銀行から融資の打診を受けて、運転資金として借入を増やしていきました。

資金繰りに余裕を持たせるために、運転資金を多めに借りることはよくあることです。

しかし、B社の場合は実質的に社長個人の資金に流用されているために、明らかに過剰融資であることは間違いありません。

通常は会社の年商以上の借入金がある場合は、過剰融資と言われます。B社の場合も、年商と同程度の借入金がありました。

計画性の無い資金調達が資金繰りを悪化させることは間違いありません。

(2)内部牽制が取れる組織体制

B社社長は、融資金を社長の個人的支出に流用していました。

B社は社長の右腕となる存在がいませんでした。また経理業務もアルバイトに任せており、社長の一存で会社の資金を好きに使える内部体制でした。

もしB社に経理部長や社長の参謀となる人物がいれば、社長はこのような行動を取らなかった可能性が高いです。社長は会社の責任者であることは間違いありませんが、行動が全て正しい訳では無く、相互牽制できる組織体制であることが望まれます。

会社の成長と共に、それに見合った組織を構築することが大切であることが分かります。

(3)関連多角化による事業拡大

倒産したB社ではありますが、B社社長の事業拡大する姿勢は素晴らしいものがありました。

B社は運送業として事業を開始後、住宅建築業に事業拡大しました。その後、住宅関連事業に事業拡大し、「住宅建築→資材の運送→住宅販売→インテリアなどの住宅資材販売」とB社一社で全て完結できるビジネスモデルを構築しました。

ここでポイントになることは、B社が住宅関連事業のノウハウを活かして事業を拡大したことです。既存事業と関連がある分野に事業拡大することを「関連多角化」と言います。

関連多角化の場合は、既存事業とのシナジー効果が活かせることから成功する確率が高いと言われています。

全く既存事業と関連の無い分野に進出することを「非関連多角化」と言います。

非関連多角化をする場合は、既存事業の強みが活かしにくいことから、多角化する目的や狙い、事業計画などをより具体的にしておく必要があります。


7.最後に

倒産した会社に学ぶ②「借金を重ねた末に」を解説しましたが、いかがだったでしょうか?

今回取り上げたB社社長は営業能力や行動力は素晴らしいものがありました。

しかし、杜撰な経理体制など社内体制は問題があると言わざるを得ません。会社を成長させると共に、社内の組織体制を構築することが必要であることが分かります。

是非この事例から、適切な資金調達や社内の組織体制構築の仕方などを学んでいただけたら幸いです。

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著者プロフィール

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髙岡 健司

中小企業診断士

PROFILE

ライター,コンサルタント

1975年生まれ,栃木県足利市出身。埼玉大学経済学部卒

2020年中小企業診断士登録

地方銀行を24年勤務後、コンサルタント事務所に転職。

得意分野は財務支援、資金繰り支援。

お問い合わせ先

株式会社プロデューサー・ハウス

Web:http://producer-house.co.jp/

Mail:info@producer-house.co.jp

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