利益供与とは? 会社経営で知っておくべきリスクと注意点を徹底解説!
利益供与とは、会社が役員や従業員、さらには社外の人々に利益を提供する行為です。
しかし、これを正しく理解せずに経営や税務処理を行うと、知らないうちに法律違反に問われたり、想定外の税負担が発生するリスクがあります。特に、経営者や管理職にとっては、この問題を見過ごすと重大なトラブルにつながる可能性があるのです。
この記事では、利益供与の問題点や注意点、利益供与にあたるパターンを徹底解説します。この記事を読むことで利益供与に関する知識を深め、想定外のトラブルを回避できるでしょう。ぜひご覧ください。
利益供与とは
利益供与とは、会社が役員や従業員、ほかの法人などに以下のようなものを与えることです。
- 役員や従業員への給与
- 贈答品
- 福利厚生費や交際費
- 債務の免除(肩代わり)
- 商品やサービス
ただし、株主の権利行使に関連して財産上の利益を供与することは、会社法では禁止されています。
税法でも、細かい課税の取り決めがされています。利益供与をすることで、会社の財産を浪費してしまったり、利益の授受を目的に株主が不当な振る舞いをしたりすることを避けるためです。
利益供与の問題点
利益供与は、会社の役員や従業員のモチベーションを上げるほか、取引先との関係構築にも有効です。しかし、一歩間違えると、大きな問題になりかねません。
会社法における問題点
会社法では、株主の権利行使に関して、誰に対しても財産上の利益の供与を禁止しています。利益供与を与えた側だけではなく、受け取った側も罰則の対象となります。株主だけでなく、その妻子など、株主の権利行使に関する人は全員、対象です。
たとえば株主が「総会で議会進行を妨害されたくなければ、金を払え」と要求したとします。ここで会社が要求に応じて金銭を支払ってしまった場合、利益供与として会社法違反にあたるのです。
「財産上の利益」には金銭だけではなく、土地や不動産、商品・サービスも含まれます。そして、無償での譲渡はもちろん、低額での売却も該当します。
近年では、劇場経営を行う会社が、株主総会で議事進行に協力した見返りとして、観劇券2枚を供与し、会社法違反となった事件がありました。
税務上の問題点
企業は利益供与を都度、正確に区別して、税務処理を行わなければいけません。しかし、税法における利益供与の範囲は、会社法とは異なっています。そのためどこまで経費として扱うのか判別するのは困難です。
実際に、意図的ではなくても実態とは異なる区分で計上してしまうケースがあります。その結果、税負担が増えてしまう、あるいは不当に減ってしまうこともあるのです。
たとえば、従業員への支援として行ったことが給与や寄付金にあたると発覚した場合、源泉所得税や法人税の納税が適切に行われていないとして、加算税が発生する可能性があります。
利益供与となるパターンとは
利益供与となるパターンは、大きく以下の3つです。
- 会社から役員へ
- 会社から従業員へ
- 会社からほかの法人へ
それぞれ解説します。
会社から役員への利益供与
会社から役員への利益供与は「役員給与」として扱われ、役員個人に対して所得税が課せられます。
原則として、会社側では経費にできません。しかし下記のいずれかに当てはまり、不当に高額でない場合は、経費として計上することが可能です。
給与の種類 |
内容 |
---|---|
定期同額給与 |
役員の基本給や毎月の家賃補助など、期間ごとに固定された給与 |
事前確定届出給与 |
役員のボーナスなど、事前に税務署に届出をした給与 |
業績連動給与 (利益連動給与) |
会社の利益・業績に応じて支払う役員報酬 |
ただし、必要以上に高額であったり、別の利益供与を給与と装って支給していて、かつそれが税務調査で明らかになったりした場合は、経費(損金)として計上できません。
一方で、適切に経費(損金)として計上できれば、税負担も軽減できます。
会社から従業員への利益供与
会社から従業員への利益供与では、経費として計上できるケースとできないケースがあります。ここではそれぞれのケースの具体的な内容を説明します。
従業員への利益供与が経費として計上できるケース
従業員への利益供与は、基本的にすべて経費として計上できます。経費計上できる項目は以下の通りです。
- 従業員の技術習得のための研修や講習などの参加費
- 従業員のレクリエーションのための会食・旅費など
- 商品・製品等の値引き販売
- 創業記念品等
- 永年勤続者の記念品等
- 残業や宿日直をした従業員に支給する食事
- 寄宿舎などの電気料金
ただし、従業員への利益供与は交際費や福利厚生費などと区別が難しいことがあります。そのため、どこまでを経費とするのか、明らかにしておく必要があるでしょう。会社の資本金額によっては、損金として経費計上できる金額が限られていることもあるため注意が必要です。
従業員への利益供与が経費として計上できないケース
経費として計上できないものは、従業員の寄付金等です。また、以下のようなケースも経費として計上されず、課税対象になります。
- 15万円以上の通勤手当を支給している場合
- 住宅手当や食事代を50%以上企業が負担している場合
- 高額な健康診断の費用を支払った場合
- すべての従業員が対象でない研修旅行や社員旅行
これらを経費計上した場合、不当な納税とされ、税金額が加算されることがあるため注意が必要です。
会社からほかの法人への利益供与
会社からほかの法人へ行った場合は、双方の会社で扱い方が変わります。
グループ・子会社への利益供与
グループ会社や子会社へは、経営危機に陥っていない限り利益供与として経費計上することは認められません。そのため、全額寄付金として扱われます。経営危機でないグループ会社などに利益供与することは、緊急性がなく、やむを得ないものと認められないためです。
経営危機とは一般的に、負債を払いきれない債務超過の状態であり、資金繰りができない場合を言います。ただし、債務超過の状態であっても、グループ会社などが自力で再建可能であると考えられる場合も、経費として計上されません。
取引先への利益供与
取引先へ利益供与を行った場合、基本的に利益供与を受け取る側の会社は受贈益として処理し、行う側の会社は寄付金として処理します。しかし取引先や状況により、寄付金を損金算入として経費計上できる場合もあります。
たとえば、取引先に対して関係構築や円滑なパートナーシップのために値引きをした場合です。以下の対策をすれば、経費計上できる場合があります。
- 値引きをする正当な理由がある
- 値引き額が社会通念上妥当である
- 値引きの協議過程に憑依性がなく、算出根拠が明瞭である
利益供与を行う際は会社法・コンプライアンスの意識を
利益供与を行う際には、法や規則、コンプライアンスなどを意識することが重要です。これから解説する注意点を知ったうえで、実施するか判断してください。
利益供与の判断基準を明確にする
利益供与は、判断基準を明確にして行うことが重要です。会社法や税法に則っているかはもちろん、会社内の倫理規定やビジョンに沿っているかの検討も欠かせません。
特に、従業員への交際費や寄付金などは、適切なルールを定めて行わないと、会社資金の流出だけでなく、企業イメージの悪化にも繋がってしまいます。
利益供与を決めるまでの会議の議事録や、税務・会計上の処理などを、文書で詳細に記録しておきましょう。会社法・税法の違反を避けるだけでなく、会社への信頼度を高めることもできます。
過去に不祥事を起こした企業や個人との取引は避ける
法や税務、会社内の倫理だけではなく、ほかの企業や個人に利益供与する際にも注意が必要です。
利益供与をしている企業や著名人が不祥事を起こせば、利益供与している会社も、商品のイメージダウンやバッシングを受けるリスクが生じるためです。
取引先の企業や、広告に起用している著名人に問題が生じた場合は、自社のコンプライアンスに基づいて、取引の見直しや、詳細な声明の発表などの適切な対応策を講じましょう。
利益供与規定を遵守する
利益供与規定とは、株主が権利を行使する際に金銭や財産を与えることで、自社または自分が有利になるように権利を使わせてはならないと定めている規定です。たとえば、特定の株主に対して会議を円滑に進めるために金銭を渡したり、口止め料として財産を渡したりすることが挙げられます。
もし株主に対しこれらを実行した場合、3年以下の懲役または300円以下の罰金もしくはその両方が科せられるため注意が必要です。
責任は本人だけでなく、関与した人や見逃した監査役も問われます。利益供与規定を遵守し規定違反を見逃さないよう、利益供与に関する規定を確実に把握しておきましょう。
利益供与規定違反で役員が賠償責任を問われることがある
会社が株主の権利行使に関して株主等に財産上の利益を供与した場合は、当該利益供与に関与した取締役・執行役は会社に対して供与した利益額に相当する額を支払う義務を負います(120条4項)。
なお、120条で支払義務を負う場合は同じ損害について重ねて423条1項で損害賠償責任を負うことはありませんが、120条で支払義務を負わない取締役等については423条1項で損害賠償責任を負わせます。
利益供与のまとめ
利益供与については会社法と税法の2つで定められています。何が利益供与とみなされるかは具体的な事情によって異なりますが、もし不正なものとみなされた場合、加算税の支払いを求められる場合があります。
また、税法上の利益供与は範囲が広いのが特徴です。適切に処理できれば税負担の軽減に繋がりますが、何が経費(損金)に計上できるかの区別が難しい場合も少なくありません。
会社法上でも税法上でも、不安がある場合は専門の弁護士や税理士に相談しましょう。