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【相続と事業経営】事業承継について

著者: 税理士  髙橋 昌也

【相続と事業経営】事業承継について

前々回から「相続と事業経営」についてお話をしています。すべての人間に等しく訪れる死。

それにより、事業経営者はある課題に向かわざるを得なくなります。事業承継についてです。



事業承継とは?

新聞や経済誌等で取り上げられることも多い事業承継。概ね、次のような文脈で使われています。

  • 日本には数多くの中小企業が存在する
  • その中でも経営者が高齢化しているケースは少なくない
  • 事業を引き継ぐ人がおらず、このままだと経営者不在により廃業を免れないかも
  • そこで親族から第三者まで含めて、事業の引き継ぎ手を見つけて、円滑に経営を移管させる必要がある

細かな点で違いはありますが、基本はこんな感じです。実際、中小企業庁が公表する経営者の年齢分布を見ても、高齢化の進展は急速に進んでいます。

中小企業庁:令和元年度の中小企業の動向 より

リンク先でも触れられていますが、40代以下の構成比が減少しており、70代以上の占める割合は高まり続けています。この傾向は今後も続く見込みで、多くの企業が「経営者不在」の状態に追い込まれることが見込まれます。

企業には数多くの利害関係者がいます。

外部の取引先だけでなく、内部には従業員やその親族、また経営者にも親族がいます。

そういった方々の事業や生活に多大な影響を与えかねない事業承継問題。近年、注目度が高まり続けています。


新規開業者にどんな関係があるのか?

ところで、本連載は「これから起業しようとしている人」「起業したばかりの人」を念頭に書いています。そういう方にとって、事業承継なんて関係ない話だ、と思われませんでしょうか?

実はこれ、関係が大いにあります。大きく2つの側面から考えてみます。

  • いずれは自分にも関わる問題である

年齢は誰もが等しく重ねていきます。いまが仮に40代だとしても、20年後には60代です。

特に事業が一定の成功を収めていれば、やはり事業承継が問題になります。

いま起こっている問題は、いずれ自分にも降りかかる話。

もちろん、先のことを心配しすぎるのも考えものですが、確定した未来の話として、知っておくことは大切です。

  • 独立開業と比較してみる

現在、事業承継に絡んでM&A(企業や事業の売買)市場が少しずつ盛り上がっています。

もしご興味があればぜひ「M&A」という単語で検索してみて下さい。相当な数の中小企業が売りに出ていることが、すぐにわかります。

もしかしたら、みなさんがこれから始めようとしている分野の企業が売りに出ているかもしれません。

そして売りに出ている企業は「既存顧客」「従業員」「ノウハウ」といった目に見えない財産を有しています。

もちろん「借金」といったマイナスの財産もあるかもしれません。会計的な情報(資産、負債、収益や費用)と非会計的(非数値的)な財産。両者を総合的に分析することが必要不可欠です。

その上で、もし勝算がありそうであれば、新規開業ではなくM&Aで既存企業を買収した方が効率的な可能性もあります。

以前であれば、こういう選択肢はほとんど成立しませんでしたが、最近ではM&A市場の成熟が進んできたこともあり、このような検討が可能になりました。

無論、M&Aはそんなに簡単な話ではありません。その辺りについては、後日別の機会に少しお話をする予定です。


事業経営者と相続

事業承継の現状とM&Aについて簡単に振り返りましたが、ここで大きなポイントなのが相続です。

事業経営者には給与生活者には存在しない財産があります。そう、事業に関連する資産です。

  • 個人事業者の場合

事業で使用する不動産や機械などの備品。取引先に対する売掛金。そして事業に関連する借金なども相続に関係してきます。

  • 法人経営者の場合

事業に関連する財産は、あくまでも法人のものなので相続に直接関係しません。

ただし、高い確率で有しているのが「その法人の株式や出資金」です。

その法人が業績優良であればあるほど、その株式等は高い価値を有しています。

ちょっとした企業でも数千万円。場合によっては数億、数十億なんて価値に膨れ上がっていることも。

そして中小企業の経営を考えた場合、株式は事業を引き継ぐ人が保有するのが一番有効です。

事業にまったく関わらない人が株式を保有してしまったがために、企業が大混乱に陥り、結果的に倒産・・・なんて話にならないためにも、ここは慎重に対処する必要があります。


相続でも相続税でも問題になる

繰り返しになりますが、相続と相続税は別の話です。相続は「遺産の分け方」について。

そして相続税は「分けられた遺産に対する税金」の話です。

そしてどちらについても、事業経営者は難しい舵取りを迫られます。

  • 相続について

上でも触れた通り、事業に関連する遺産は事業を引き継ぐ人に遺したいです。しかし、相続は親族にある程度等しく権利があります。

仮に遺産の大半が自己株式だった場合。子どもが三人、長男と次男、長女。

長男が事業を引き継ぐが、次男と長女に遺せるような現預金等は特にないとしたら?

当然、次男や長女は「だったらせめて株式をよこせ」「そうでないなら遺産相当額の現金を長男がよこせ」と請求してくるでしょう。

ここで問題となるのが自己株式の価値です。仮に数億円も価値があるとしたら・・・。

とんでもなく処理が難しい話であることは、容易に想像して頂けるかと思います。

  • 相続税について

そして遺産の分け方が決まったとしても、次は相続税の問題があります。

自己株式の価値が数億円もあるのだとすれば、当然、相続税もとんでもない金額になります。

その納税資金をどうやって工面すれば良いのか?

これもまた、企業や事業が優良であればあるほど、悩ましい問題です。

このように、事業承継問題においては、相続と相続税が大きなポイントとなっていて、その問題を如何にして回避するのか?で色々と考える必要があります。

その一環として、親族ではなく第三者に対して企業の売却、つまり自己株式の売却を検討したりします。M&A市場が成長しつつある理由のひとつです。(現預金になっていれば、相続対策がものすごく楽になるので)

次回も事業と相続、そして事業承継に関連したお話をご紹介します。

特に「事業承継の勝ち目ってどうなの?」といった辺りに注目する予定です。


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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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