電子帳簿保存法の罰則と違反事例|対応しないとどうなる? 会計専門家が解説
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を一定の要件を満たしたうえで、電子データとして保存することを認めた法律です。法令順守の対応を怠ると、重大な罰則やリスクが生じる可能性があるため適切に対応しなければなりません。
この記事では電子帳簿保存法違反に伴って科される罰則や、違反するケースについて深く理解していきましょう。罰則以外のリスクや影響と対策に関しても知識を深め、会社全体で法令順守のための対応力を強めてください。
電子帳簿保存法違反の主な罰則
電子帳簿保存法に違反した場合に生じる、以下の主な罰則とその影響について詳しく解説します。
- 青色申告の承認取り消し
- 重加算税10%の追加課税
- 会社法違反による100万円以下の過料
罰則は企業にとって深刻な影響を及ぼすため、慎重に確認していきましょう。
青色申告の承認取り消し
電子帳簿保存法に違反すると罰則として青色申告の承認が取り消され、最大65万円の特別控除が受けられなくなります。また赤字の繰越控除や各種引当金の損金算入など、他の税制上の特典も失われることがあるため注意が必要です。
これにより、企業の税負担が大幅に増加するため、財務状況に深刻な影響を与えかねません。さらに、青色申告の承認取り消しは、税務署との信頼関係を損なうことにもつながり、将来の税務調査でのリスクを高める可能性もあります。
重加算税10%の追加課税
電子帳簿保存法に反する不正や改ざんが発覚した場合の罰則は、通常の追徴課税に加えて課される10%の重加算税です。この追加の10%重加算税は、既存の重加算税(最大35%)に上乗せされるため、最大で45%の重加算税が課されることもあります。
重課税によるコストだけでなく社会的信用の失墜も招くため、不正や改ざんは絶対に避けましょう。
会社法違反による100万円以下の過料
電子帳簿保存法に違反すると、会社法第976条にも抵触する可能性もあります。その場合に科される罰則は100万円以下の過料です。
具体的には、役員の選任など登記すべき事項の変更があったにもかかわらず登記を行っていなかった場合や、役員の任期が到来しているにもかかわらず改選の手続きを行っていないような場合に生じます。
この過料は、役員として任務を怠ったことに科されるものなので、役員個人の責任が問われる場合もあります。そのため、経営陣にとっても重大なリスクとなり得るのです。
電子帳簿保存法に違反するケース
電子帳簿保存法では、単に電子データを保存しているだけでは不十分なケースが存在します。
ここでは、以下の電子帳簿保存法に違反してしまうケースについてそれぞれ紹介します。
- 保存要件を満たしていない場合
- 検索要件を満たしていない場合
- 保存期限や保存期間の不備
これらのケースを理解することで、自社の対応状況を確認し、必要な改善策を講じることができるでしょう。
保存要件を満たしていない場合
電子帳簿保存法違反になるケースとしては、電子データの真実性(改ざん防止)が確保されていない保存方法を採用している場合です。具体的には、訂正・削除の履歴が残らないシステムでの保存などが該当します。
電子データの真実性を確保するために使われるのが、「タイムスタンプ」です。
タイムスタンプとは、特定の時刻に電子データが存在していたことや、改ざんされていないことを証明する機能です。また、訂正・削除の履歴を残すことで、データの変更経過を追跡可能にし、不正な操作を防ぐことができます。
これらの機能がない場合、税務調査の際にデータの信頼性を証明することが困難となり、違反とみなされる可能性が高いです。そのため、電子帳簿システムを選択する際は、これらの機能が装備されているかどうか、事前に確認しておきましょう。
検索要件を満たしていない場合
電子帳簿保存法では、取引年月日、取引金額、取引先で検索できないことで、法律要件を満たしていないと判断される可能性が高くなります。これらの項目で検索できないと、税務調査時に必要な情報を迅速に提供できず、調査官の業務を妨げることになるからです。
例えば、特定の取引先との取引履歴を確認したい場合や、特定期間の取引金額を集計したい場合に、迅速かつ正確な情報提供ができないことは、少なからず影響を及ぼすでしょう。
ただし、2024年1月の法改正で、以下のどれかに当てはまる場合は検索要件の対応が不要とされました。
- 売上高が5,000万円以下かつ、電子取引データのダウンロードの求めに応じることができること
- 電子取引データのダウンロードの求めに応じ、かつ電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしていること
- 以下の条件を満たしており、猶予措置が適用される場合
-税務調査の際に、電子取引データのダウンロード及び印刷した書面の提示・提出の求めに応じられる
-満たすべき要件にしたがって保存できなかった理由が、所轄税務署長に認められている(事前申請不要)
電子帳簿保存法の内容が改正されました(出典:国税庁)
保存期限や保存期間の不備
電子帳簿保存法では、法定保存期間(原則7年間)を満たさずに電子データを削除したり紛失したりすると、法律違反となる可能性があります。
例えば、システム更新の際に古いデータを誤って削除してしまったり、バックアップ体制が不十分でシステム障害によりデータが失われたりした場合も、違反となるかもしれません。このような事態を防ぐためには、定期的なデータのバックアップ体制を整えることが不可欠でしょう。
また、電子データへのアクセスが容易にできるかも重要なポイントです。古いデータが保存されていても、それを迅速に取り出せない状態では、実質的に保存要件を満たしていないとみなされる可能性があるからです。そのため、長期的なデータ保存と迅速なアクセスを両立できるシステムの導入や、定期的なデータ整理が必須となります。
電子帳簿保存法の罰則となる対象者
電子帳簿保存法の罰則対象となるのは、帳簿書類の保存義務がある「すべての法人」と「すべての個人事業主」です。企業の規模や売上、赤字・黒字の状態にかかわらず、例外はありません。
特に重要なのが、全事業者に義務化された電子取引の保存です。メールで受け取った請求書やWeb領収書などのデータを保存せず、紙に出力したうえで元データを破棄する行為は違反となります。
こうした不備は、青色申告の承認取り消しや追徴課税のリスクにつながります。また、この義務は青色申告者だけでなく、白色申告のフリーランスも同様に対象となる点に注意しましょう。
また、任意導入であるスキャナ保存などにおいても、一度導入すれば厳格な運用が求められます。もし不備やデータの改ざんが発覚すれば、重加算税としてさらに10%が加算されかねません。
法律上の罰則を受けるのは事業者本人ですが、実務上は経費精算を行う従業員のミスも会社の責任として扱われます。そのため、担当部署任せにするのではなく、全社的なコンプライアンス対策の整備が欠かせません。
「自社には関係ない」と考えるのではなく、まずは自社の保存体制が要件を満たしているかどうかを確認することから始めましょう。
電子帳簿保存法の罰則が適用される具体的な状況
電子帳簿保存法の罰則は法律の要件の適否だけでなく、具体的な違反行為や不適切な対応が確認された場合にも適用されます。
以下のように、罰則が適用される可能性が高い具体的な状況について詳しく解説します。
- 電子データの改ざんや不正が発覚した場合
- 税務調査で電子帳簿の提示を拒否した場合
- 電子取引データを紙のみで保存していた場合
これらの状況を理解することで、自社のリスクを的確に把握し、適切な対策を講じることができるでしょう。
電子データの改ざんや不正が発覚した場合
電子データの改ざんや不正が発覚した場合、重加算税や刑事罰が適用される可能性があります。具体的には電子帳簿の売上を過少にすることや、経費を水増しして入力する行為などが罰則対象です。
このような行為は記帳ミスではなく、意図的な脱税行為とみなされることがあるため注意しましょう。
税務調査で電子帳簿の提示を拒否した場合
法令に基づいて行われる税務調査において、正当な理由なく電子帳簿や電子書類の提示を拒否すると罰則の対象になります。具体的に挙げられる主な罰則は青色申告の承認取り消しです。
「システムの不具合で提示できない」「操作方法がわからない」などの理由は、通常、正当な理由とはみなされません。そのため、税務調査に備えて、日頃から適切なデータ管理と対応準備を行っておくことが重要です。
電子取引データを紙のみで保存していた場合
請求書をEDI(電子データ交換)やメールで受け取った場合、印刷した紙のみでの保存は電子帳簿保存法違反となります。電子取引の証憑は、原則として電子データのまま保存する必要があり、紙への出力保存は認められていないためです。
電子取引の証憑は原則として電子データのまま保存する必要があり、紙への出力保存は認められていないので注意しましょう。
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電子帳簿保存法の対象外となる書類・企業は? 重要ポイント解説電子帳簿保存法における罰則以外のリスクと影響
電子帳簿保存法に違反すると直接的な罰則だけでなく、企業にとって間接的なリスクや影響をもたらすこともあります。
罰則以外のリスクと影響にはどのようなものがあるか、詳しくみていきましょう。
税務調査の対象となる可能性の増大
電子帳簿保存法に違反すると税務調査の対象となる可能性が高まり、税務署の注意を引きやすいです。また、税務調査が頻繁に行われると、業務の中断や調査対応の負担増加につながり、企業の生産性に悪影響を及ぼすこともあります。
さらに一度税務調査の対象となると、その後も継続的な監視下に置かれます。このようなリスクを回避するためにも、電子帳簿保存法に従い適切な対応を行いましょう。
推計課税のリスク
税務署によって適切な電子帳簿がないと判断された場合、税務署の推計で課税額が決定されるリスクが高まります。推計課税は、実際の所得よりも高額になりがちで、企業にとって不利な課税となる可能性が高いです。
例えば、売上は最大限に見積もられる一方で、経費は最小限にしか認められないケースがよく見られます。この場合、実際の利益よりも多くの税金を支払わなければならないので注意しましょう。
企業の信用低下と取引への影響
電子帳簿保存法違反は法令遵守違反とみなされます。違反によって取引先からの信頼を失ってしまうため、取引機会の減少に起因することも多いです。
特に大企業との取引や公共事業への参加において、コンプライアンス違反は致命的な問題となり得ます。多くの大企業や公共機関は、取引先の選定において、法令遵守状況を重要な判断基準としているからです。信用の回復は非常に難しいので、違反を招くことのないように予め対処しておきましょう。
企業の経済的な損失
電子帳簿保存法違反による追徴課税や罰金は、企業にとって直接的な経済的損失です。重加算税や過料などの罰則的な支出は、企業の利益を圧迫する可能性があります。
追徴課税によって資金繰りが悪化してしまうと、新規投資や事業拡大の機会を逃すことにもなりかねません。経営的観点からも電子帳簿保存法の管理を怠らないようにしましょう。
消費税の仕入税額控除が適用できない可能性
消費税法上、仕入税額控除の適用を受けるためには、必要事項が記載された帳簿および請求書など(電子インボイス含む)の保存が不可欠です。
電子取引を行った際に、適格請求書などとして必要な事項を満たすデータを保存していなければ、仕入税額控除の適用を受けられない恐れがあります。これは、経過措置として認められる出力書面を保存していない場合も同様です。
仕入税額控除が認められないと、その分だけ納税すべき消費税が増加し、実質的な税負担が重くなります。特に仕入の多い事業者にとっては、資金繰りに与える影響も無視できません。
電子データの保存は、単なる事務作業ではなく、消費税の適正申告という観点からも重要な取り組みであることを意識しましょう。
経費申請等否認の可能性
要件に従って保存されていない電子データおよびその出力書面は、法律上「国税関係書類以外の書類」とみなされます。そのため、税務調査では正規の帳簿書類として認められません。
直ちに経費が否認されるわけではありませんが、正規の書類が存在しない以上、納税者が実際に行われた正当な取引であることを別途証明する必要が生じます。
税務調査での説明や資料提出によって取引が裏付けられない場合、経費として認められないリスクが高まります。余計な疑念を生まないためにも、最初から法的な要件を満たして保存しておくのが賢明です。
電子帳簿保存法の対象・対象外文書
罰則やリスクを理解する前に、まずはどの書類に保存義務やルールがあるのかを整理しましょう。対象書類を正確に把握せずに運用すると、保存すべき書類を誤って破棄してしまうリスクがあります。
電子帳簿保存法の対象・対象外文書となる書類は、それぞれ以下のとおりです。
■ 電子帳簿保存法の対象となる文書
- 国税関係帳簿:仕訳帳、総勘定元帳、売上帳、仕入帳、現金出納帳、固定資産台帳など
- 決算関係書類:貸借対照表、損益計算書、棚卸表など
- 取引関係書類(自社発行・相手方受領):領収書、請求書、見積書、注文書、納品書、契約書など
- 電子取引データ:メール添付のPDF請求書、ECサイトからダウンロードした領収書、EDI取引データなど
■ 電子帳簿保存法の対象外となる文書
- 国税に関係のない一般書類:業務マニュアル、議事録、社内連絡用のメモなど
- 手書きで作成・保存している帳簿:PCを使わず完全に手書きで完結させている帳簿(ただし、現在は稀なケース)
- 棚卸資産の受取証(一定の場合):物理的な商品の受け渡しのみを記録し、金額の記載がないものなど
電子帳簿保存法における違反事例
電子帳簿保存法の違反は、悪意のある不正行為だけでなく、日常業務の中で知らないうちに起きているケースも少なくありません。
ここでは、実際の業務で起こり得る具体的な違反事例を10件ご紹介します。自社の運用が該当していないか、ぜひ照らし合わせながら確認してみてください。
【事例1】電子メールで受け取った請求書を「紙に出力」して、データを削除した
法改正により、令和6年1月から電子取引データの保存は義務化されているため、完全に違法となるケースです。猶予措置の適用を受ける場合を除き、原則として「国税関係書類以外の書類」とみなされ、正規の保存とは認められません。
【状況】
取引先からPDFの請求書がメールで送られてきた。経理担当者はそれを印刷し、紙のファイルに綴り、元のメールとPDFデータは容量の無駄として削除、または整理せず放置した。
【違反のポイント(電子取引の保存義務違反)】
電子データでやり取りした情報は、電子データのまま保存することが絶対要件です。以前は紙での保存も認められていましたが、現在は紙に出力したものは原本として認められません。
【リスク】
- 経費の否認:原本(データ)が存在しないため、証憑なしとみなされ、その支払いが経費として認められない可能性があります。
- 青色申告の承認取り消し:組織的に行われている場合、帳簿書類の保存義務違反として、青色申告を取り消されるリスクがあります。
【事例2】ファイル名が適当で「検索」ができない(検索要件の不備)
データ自体は保存しているものの、税務調査官が求めた際に、即座にデータを提示できないケースです。
【状況】
領収書のPDFや画像をサーバーに保存しているが、ファイル名が「scan_001.pdf」「2024_Sato.jpg」など、適当なままになっている。あるいは、フォルダ分けが担当者の個人ルールで行われており、第三者が日付や金額、取引先を基に特定の取引を探し出せない。
【違反のポイント(可視性の確保・検索機能の不備)】
電子帳簿保存法では、保存したデータを「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で即座に検索できる状態にしておかなければなりません。税務調査時のダウンロード要求に応じる場合は一部緩和されますが、整理されていなければダウンロードも困難です。
【リスク】
- 調査の長期化・心証悪化:必要な資料を提示できないため、隠蔽を疑われます。
- 推計課税:正確な経費が確認できない場合、税務署側が推計を用いて利益を算出し、課税を行う可能性があります。通常より高い税額になることが多いです。
【事例3】訂正履歴を残さずにデータを差し替えた(真実性の確保違反)
「間違いを直しただけ」という軽い認識が、改ざん行為とみなされる危険なケースです。データ改ざんは最も重いペナルティの対象となる行為のため、特に注意してください。
【状況】
Excelで作成・発行した請求書の控えをPDFで保存していた。後日、金額の記載ミスに気づき、Excelを修正して再度PDF化し、元の誤ったPDFを削除して新しいPDFに差し替えた(上書き保存した)。
【違反のポイント(真実性の確保・訂正削除の履歴)】
電子データは容易に変更できるため、訂正や削除を行った履歴が残るシステムを使用するか、訂正削除防止に関する事務処理規程を備え付けて運用しなければなりません。履歴を残さずにデータを差し替える行為は、事実の隠蔽にあたります。
【リスク】
- 重加算税(+10%):隠蔽や仮装と判断された場合、通常の追徴課税に加え、重加算税が課されます。電子データに関連する隠蔽の場合、さらに10%加重される規定です。
【事例4】スキャンした画像の解像度が低く、数字が読めない(入力期間・解像度要件の不備)
スマホ撮影やスキャナ保存において、画質設定ミスにより証拠能力を失うケースです。
【状況】
従業員がスマホで領収書を撮影して経費申請を行った。しかし、アプリの設定が低画質モードになっていたり、撮影時の手ブレや光の反射で金額や日付の一部が判読できない状態で保存されていたりした。また、タイムスタンプの付与や入力期限内のデータ保存が遅延していた。
【違反のポイント(可視性の確保・重要書類の要件)】
スキャナ保存には、解像度が200dpi以上であることや、赤・緑・青の階調によるカラー画像で保存することなどの厳格な要件が定められています。数字や文字が明確に読み取れないデータは、保存要件を満たした証憑として認められません。
【リスク】
- 証憑の無効化:読めない領収書は、領収書が存在しないのと同じ扱いになります。その結果、消費税の仕入税額控除が受けられず、消費税の納税額が増えることになります。
【事例5】システム移行時に旧データを閲覧できない状態にした(保存期間の不備)
システムの切り替え時期に発生しやすい、盲点となる違反です。
【状況】
会計システムや経費精算システムをA社からB社に乗り換えた。B社のシステムで新しい運用を始めたが、A社のシステムは解約したためログインできなくなり、過去7年分のデータが見れなくなった。または、CSVで吐き出したが、文字化けやデータ欠損があり復元できない状態になった。
【違反のポイント(見読可能性の確保・保存期間)】
帳簿書類は原則7年間(欠損金の繰越控除を受ける場合は10年間)の保存義務があります。システムを変えたとしても、調査官から求められた際にはいつでもディスプレイ上で内容を確認でき、かつ速やかに印刷が行える状態を維持しなければなりません。
【リスク】
- 青色申告の承認取り消し:過去の帳簿が提示できないということは、帳簿を備え付けていないのと同義とみなされ、青色申告承認の取り消し事由(法65条など)に該当する重大な違反です。
【事例6】クレジットカードの利用明細(Web)を保存せず、紙の請求書のみで済ませた
多くの企業が誤解している、クレジットカード決済特有の落とし穴です。
【状況】
法人カードを利用しており、カード会社から毎月郵送される紙の利用明細書を保存しているため、CSVやPDFといったWeb上の明細データはダウンロードしていなかった。あるいは、Web明細のみの契約であったが、経理担当者が画面を印刷して紙で保存し、元データは期間経過により閲覧不能となった。
【違反のポイント(電子取引データの保存義務)】
カード会社からWebを通じて提供される利用明細データは、電子取引に該当します。紙の明細書が郵送されないWeb明細の場合、そのデータ自体が原本となります。これを保存せず、紙に出力したものだけを保存しても、電子帳簿保存法上の保存要件を満たしません。
【リスク】
- 仕入税額控除の否認:原本である電子データが存在しないため、消費税の計算において経費として認められず、追徴課税されるリスクがあります。
【事例7】従業員のスマホ内にある領収書データを「会社が回収・管理」していなかった
テレワークや立替経費精算の普及に伴い、ガバナンスが効かなくなるケースです。
【状況】
従業員がタクシー配車アプリを利用した移動交通費や、Amazon個人アカウントでの備品購入の領収書を、個人のスマートフォンや個人のメールアドレスで受領した。経費精算書には金額だけ入力し、メールやPDFといった領収書の元データは従業員の個人端末に保存されたままで、会社が管理するサーバーには保存されていない状態だった。
【違反のポイント(保存場所・管理責任の所在)】
電子帳簿保存法の保存義務は、あくまで納税者である会社にあります。従業員の個人端末は、会社の管理下にある適切な保存場所とは認められません。会社がデータを集約し、検索可能な状態で一元管理する必要があります。
【リスク】
- 証憑不備による経費否認:税務調査で該当データの提示を求められた際、従業員が既に退職していたり、データを削除していたりすると、経費の実在性を証明できなくなります。
【事例8】保存すべきデータの範囲を誤り、取引内容の一部しか残していなかった
「とりあえず何か保存しておけばいい」という運用が招く、不完全な保存の事例です。
【状況】
取引先からのメールに請求書のPDFが添付されており、メール本文には納品明細や取引条件が記載されていた。担当者は添付のPDFだけを保存し、取引の重要事項が含まれるメール本文や、別の添付ファイルを保存しなかった。
【違反のポイント(一貫性と網羅性)】
保存義務があるのは、日付・金額・取引先といった取引情報を含むデータすべてです。見積書、注文書、納品書、請求書など、一連の取引の流れを示すデータが分断されていたり、一部が欠落していたりする場合、正確な帳簿書類として認められない恐れがあります。
【リスク】
- 真実性の疑義:取引の全体像が見えないため、税務調査において取引の実態や内容について厳しく追及される原因となります。
【事例9】Webサイト上の領収書を「ダウンロードし忘れ」て、再発行もできなくなった
ECサイトやクラウドサービスの利用で頻発する、取り返しのつかないミスです。
【状況】
Amazonや楽天、会員制サービスなどで備品を購入した。画面上には領収書を発行するためのボタンが表示されていたが、担当者はその場でダウンロードを行わず作業を後回しにした。半年後の決算時に領収書をダウンロードしようとしたところ、閲覧期限切れや退会済みなどの理由により、データにアクセスできない状態となっていた。
【違反のポイント(データの滅失・保存義務違反)】
インターネット上で領収書データが確認できる状態になった時点で、電子取引の授受があったとみなされます。「ダウンロードしなかった=受け取っていない」という理屈は通りません。結果として、保存義務のあるデータを紛失した状態となり、違反と判断されます。
【リスク】
- 経費計上の否認:過去に遡って再発行ができない場合、その支払いは証拠がないと判断され、全額が経費として認められない(損金不算入)リスクがあります。
【事例10】メール本文に詳細があるのに「添付ファイル」しか保存しなかった(またはその逆)
「どこに取引情報が書かれているか」を確認せず、機械的に保存したことによる形式不備です。
【状況】
- ケースA:メール本文に「ご請求額:11,000円、日付:10月1日、件名:〇〇代として」と直接書かれているが、添付ファイルはなく、担当者はそのメール自体を保存せず削除してしまった。
- ケースB:メール本文は「添付のとおりです」のみで、領収書のPDFが添付されていた。担当者はPDFを保存せず、中身のないメール本文だけをmsgファイルなどで保存した。
【違反のポイント(取引情報の欠落)】
電子帳簿保存法で保存が義務付けられているのは、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3要素が記載されたデータそのものです。
- ケースA:メール本文(テキストデータ)が原本
- ケースB:添付ファイル(PDF)が原本
これらを取り違えて保存している場合、必要な情報が欠落していることになり、要件を満たさない状態となります。
【リスク】
- 検索要件の不備および証憑なし:必要な情報が保存データに含まれていないため、税務調査時の検索でヒットしません。また、内容の確認もできないため、不備として指摘される可能性が高くなります。
電子帳簿保存法の罰則を受けないための対策
電子帳簿保存法の罰則やリスクを回避するためには、適切な対策を講じることが不可欠です。
ここからは、以下の企業が取るべき具体的な対策について、詳しく解説します。
- 電子帳簿保存法の要件を正確に理解する
- 社内のコンプライアンス体制を強化する
- 定期的な内部監査の実施
- システム導入と運用
これらの対策を適切に実施することで、法令遵守を確実にし、企業の健全な運営を支援することができるでしょう。
電子帳簿保存法の要件を正確に理解する
電子帳簿保存法の罰則を受けないためには、法律の要件を正確に理解することです。この法律は定期的に改正されるため、最新の法改正情報を確認し、自社の対応状況を継続的に見直す必要があります。
具体的には、税理士や公認会計士などの専門家に相談し、自社の状況に合わせた適切な対応方法を検討することが重要です。専門家の助言を受けることで、法律の解釈や具体的な対応方法について、より詳細かつ正確な情報を得ることができるでしょう。
社内のコンプライアンス体制を強化する
電子帳簿保存法に確実に対応するためには、社内のコンプライアンス体制を強化することが大切です。
具体的には、電子帳簿保存法対応の責任者を設置し、全社的な取り組みを推進することで法令遵守を徹底できます。また定期的な社内研修やマニュアルの整備を通じて、全従業員の電子帳簿保存法に対する理解と意識を高めることも重要です。
さらに、電子帳簿保存法対応の進捗状況を定期的に経営層に報告し、必要に応じて迅速な意思決定と対応ができる体制を整えていきましょう。
定期的な内部監査の実施
電子帳簿や電子書類の保存状況を定期的に内部で監査し、不備を早期に発見・修正することで罰則のリスクを低減することができます。内部監査の結果を基に、発見された不備に対しては改善計画を立てましょう。
そしてその実施状況を次回の監査でフォローアップするなどの対策を講じ、確実な法令遵守を実現することが有効的です。
システム導入と運用
電子帳簿保存法に対応した会計システムや文書管理システムを導入し、法令要件を満たす運用を行うことは法令遵守のための重要な施策です。システム選定の際は電子帳簿保存法の要件を満たしているか、自社の業務フローに適合しているか、将来的な拡張性があるか、サポート体制が充実しているかなどを考慮する必要があります。
システムの導入後も、定期的なアップデートや保守を行い、常に最新の法令要件に対応できる状態を維持しましょう。セキュリティと信頼性を確保するためのシステムの運用ルールを確立し、継続的に徹底してください。
従業員への教育・研修の徹底(現場レベルの意識改革)
システムやルールを作っても、実際に領収書を受け取るのは営業担当者や現場の従業員です。彼らが「なぜスマホで撮影するのか」「なぜ紙を捨ててはいけないのか」を正しく理解していないと、入力不備が多発する要因となりかねません。
現場の混乱を防ぐためにも、営業・購買担当者向けの経費精算マニュアルを作成するのがおすすめです。解像度不足や撮影ミスが、企業にとって重大な税務リスクに直結することを周知しましょう。
特に、PDFなどの電子取引データを勝手に削除しないという鉄則を、全社メールや朝礼で繰り返し伝えてください。現場の一人ひとりが制度の重要性を理解することで、全社的な意識改革につながります。
取引先とのデータ授受ルールの統一(入口対策)
取引先ごとにバラバラな形式で送られてくると、管理コストが膨大になりミスを誘発します。そのため、自社だけで対策するのではなく、取引先にも協力を仰ぎ、請求書など、入ってくるデータを整理しやすい形で送付してもらうことが重要です。
まずは主要な取引先に対し、「請求書はメール本文ではなく、PDF添付で送ってください」と依頼しましょう。この際、メールの件名に「【請求書】会社名_〇月分」と指定の形式で入れてもらうようお願いしてください。こうすることで、受信時の振り分けや検索が自動化・効率化され、管理負担を大幅に軽減できます。
電子帳簿保存法の罰則に関するよくある質問
電子帳簿保存法の罰則に関しては、さまざまな疑問や不安があるかもしれません。
ここでは、罰則についてのよくある質問について、詳しく解説していきます。これらの回答を理解することで、電子帳簿保存法への対応をスムーズに進めることができるでしょう。
小規模事業者も罰則の対象になる?
事業規模に関わらず、すべての事業者が電子帳簿保存法の対象です。そのため、小規模事業者でも違反時は罰則の対象になります。
個人事業主向けの電子帳簿保存法の対応については、以下の記事でも解説しているので参考にしてください。
【関連記事はこちら】
個人事業主のための電子帳簿保存法対応ガイド|押さえるべきポイントを解説罰則は即時に適用される?
多くの場合、電子帳簿保存法の罰則は即時に適用されるわけではありません。通常は、まず税務署からの是正指導が行われます。この指導に従い速やかに対応を行えば、罰則を回避できる可能性が高いです。
ただし、悪質な違反や繰り返しの違反の場合は、より厳しい対応がなされるため注意しましょう。
過去の違反も罰則の対象になる?
過去の一時的な違反は通常遡及適用されませんが、継続的な違反は罰則の対象となる可能性があります。そのため、過去の違反が発覚した場合は、速やかに是正措置を講じて税務署に相談することが望ましいです。
違反の内容によっては罰則を軽減できることもあるので、具体的な対応方法については専門家に相談しましょう。
請求書をPDF化したら原本扱いになる?
紙で受領した請求書を単にスキャナやスマホでPDF化しただけでは、税法上の原本とは認められません。原則として、紙の請求書を保存する義務があります。
ただし、電子帳簿保存法のスキャナ保存制度に対応し、一定の要件を満たしてデータ化・保存した場合は、そのデータを原本とみなして、紙の請求書を廃棄することが認められています。主要な要件は以下のとおりです。
- 解像度やカラー設定などの画質要件
- 入力期間の制限
- タイムスタンプの付与または改ざん防止システムの利用
これらの要件を満たさずにPDF化したデータはあくまで写しにすぎず、税務調査などでは紙の原本の提示が求められます。制度の要件をクリアしていない場合は、安易に紙を捨てないよう十分に注意してください。
請求書や領収書はコピーでも大丈夫?
原則として、税務申告の証拠書類となる請求書や領収書は原本の保存が必須です。コピーでは二重計上や改ざんの恐れがあるため、正式な証憑として認められないリスクがあります。
特に注意すべきケースとして、メールやWebサイトからダウンロードして受領した電子取引が挙げられます。この場合、画面上の電子データそのものが原本という扱いです。
データを紙に印刷したものはコピー扱いとなり、令和6年1月以降は原則として保存資料(国税関係書類)として認められません。そのため、受け取ったデータは必ず電子データのまま保存する必要があります。
納品書があれば領収書はなくても良い?
納品書は「商品が届いた事実」を、領収書は「代金を支払った事実」を証明するものであり、それぞれ役割が異なります。
税務上は、取引の実態を確認できることが最も重要です。そのため、後払いとなる掛け売りなどでは、請求書と銀行振込の記録がそろっていれば、領収書がなくても経費計上が認められる場合があります。
ただし、電子帳簿保存法の観点では、納品書も領収書も、受け取ったものはすべて取引情報に該当する点に注意しなければなりません。したがって、電子データとして納品書や領収書を受け取った場合は、どちらか一方ではなく、受領したすべてのデータを保存する義務が生じます。
電子請求書は印刷してはいけない?
電子請求書を紙に印刷すること自体は、法律で禁止されていません。社内の確認用や経理処理の便宜上、電子請求書を紙に出力して回覧・保管するのは自由です。
ただし、印刷したから元のデータを削除するといった行為は認められていません。電子帳簿保存法では、電子取引のデータは必ずデータのまま保存することが絶対要件となります。
印刷した紙は、あくまで参考資料という扱いです。税務上の原本効力がないため、必ず元の電子データを要件に従って保存してください。そのうえで、実務上の必要に応じて印刷を行いましょう。
電子帳簿保存法対応は企業の義務
電子帳簿保存法に違反してしまったときの罰則は主に青色申告の承認取り消しや重加算税の適用、会社法違反による過料などです。罰則を受けることによって、経済的コストの圧迫や、税務調査の頻度増加を招くことがあります。また、取引先からの信用が低下するリスクもあるでしょう。
それらの違反・罰則を避けるために、電子帳簿保存法に適切に対応することが重要です。会社全体でコンプライアンス体制やシステムを整え、理解を深めておくことでリスクを軽減することができます。不明瞭な点があれば専門的知識のある人に相談して、適切な対応を取るように取り組んでください。