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経理処理と青色申告

著者: 税理士  髙橋 昌也

経理処理と青色申告

前回の記事(社長貸付と現金残高)で、社長貸付や手許現金の処理についてお話をしました。

両項目で共通するのは、「事業や私生活も含めた実態と、経理処理を一致させることの難しさ」です。

そこで、今回は経理処理を進めるに当たっての大前提となることの確認と、それに関連して青色申告について取り上げていきます。


事業を始めるときにやりたいこと

 私が税理士として「これから商売を始める人」とお会いした場合、最初にお願いするのは次のことです。

・商売用の預金口座を作って、商売に関係する入出金はそこに集約すること。

・クレジットカードなどを使用するのであれば、できれば商売用のものをひとつ用意すること

商売の経理処理をしようとするときに、まったく関係のない私生活の入出金が混ざっていると、とても面倒くさいことになります。またクレジットカードも同様です。

・自分で処理をするときにわかりやすい。

・税理士等に処理を頼むときにも、資料の提示がやりやすい。

・税務署等からの問い合わせに対しても、自信を持って説明できる

これらを見越して、ぜひ整理をしてください。特に法人設立を検討している場合には、法人名義の預金口座は必須です。個人名義の預金口座をそのまま使うと、思わぬトラブルになってしまうこともあります。


簿記について

次に考えなければいけないのは、帳簿を作成するための仕組みづくりです。単に通帳を分けただけで商売上の経理処理が終わるわけではありません。

ここで簿記(ぼき)について紹介します。簿記というのは、帳面を作るための技術です。何かしらの商売を行った場合、正式には簿記の技術を用いて日々の取引を記録します。そして一年経過したところで決算書を作成し、それに基づいて税務申告等を行います。

簿記には段階があります。

簡易簿記

言葉の通り、簡便な方法による簿記です。イメージとしては「売上」「仕入」「人件費」といった項目ごとに表計算ソフトなどを使って集計し、一年分の収益と費用を計算して決算書を作成します。

個人事業主の場合、実はこの方法で済ませることも可能です。ただし、簡易簿記を用いた場合、ある重要な情報が欠落してしまいます。それは資産(預金や未回収の売上、固定資産など)や負債(未払い仕入や借金など)といった商売に関わる持ち物の情報です。

一般的には、帳面というとどうしても売上や経費の情報が重要視されます。それは間違ってはいないのですが、実は持ち物(資産や負債)に関する情報も本当に大切です。税務署や金融機関も、持ち物に関する情報にはとても注目しています。

対外的な信用力も考えると、できれば簡易簿記は避けておいた方が良いと思います。

複式簿記

正しい簿記処理の方法です。複式簿記の方法を採用することにより、収益費用だけでなく、資産や負債など持ち物に関する情報も記録されていきます。

法人を設立する場合、複式簿記は必須です。また個人事業主についても、可能であれば複式簿記を採用することが好ましいです。個人事業主が複式簿記を採用することで、後述する青色申告の特典も拡充されます。

少なくとも「それで生活費を得ていこうとする規模」での事業をするのであれば、できれば複式簿記を採用して頂くことを強く推奨します。


会計ソフトについて

ここで、近年すっかり普及してきた会計ソフトについて考えてみます。最近では使い勝手が良いソフトも数多く誕生しており、もはやその使用が当たり前とも言える状況です。

会計ソフトの利点は、何といっても処理が簡単なことです。それぞれのソフトに用意されている画面に必要な情報を入力すれば、そこから先の集計や分類作業はソフトが自動でやってくれます。またレシートを写真撮影して送信すれば自動的に処理をしてくれるなど、入力方法についても多様化しています。会計ソフトを使用することで、上で紹介した「複式簿記」の採用もとても簡単になりました。

会計ソフトには注意点もある

ただし、会計ソフトには注意点もあります。

確かに、最近のソフトは使い勝手が非常に良く、とても簡単に決算書作成まで到達することができます。しかし、実はその出来上がった決算書の内容が、実態と乖離してしまっていることは珍しくありません。

例えば、前回ご紹介した現金残高を事例にしてみましょう。

1.現金残高が500万円あることになっている(実際にはそんなにない)。

2.現金残高がマイナス300万円あることになっている。

これは、簿記に関して知識を持っていない方が決算書を作ったときに、よくある事例です。

1.が意味するのは、前回の記事でもご紹介した「経営者による事業資金の使い込み」です。本来であれば、生活費として流用されたお金について、経理処理を行う方が好ましいです。

2.は上の逆で、経営者が事業にお金をつぎ込んでいる状態です。財布の中を見れば現金がマイナス状態だった、ということは絶対にありえません。つまり、どこかからお金を注ぎ足しているはずなのですが、それが処理されていないのです。

どちらの状態にしても、出来上がった帳面は実態を表しているとは言い難い状況です。つまり、帳面というのは「作れば良い」というものではなく「きちんと実態に合っているのか」まで読み解ける内容でなければならないのです。

会計ソフトの場合、作成が簡単なので、それなりの形は簡単にできます。そのため、なんとなくできているような気になってしまうのですが、実はその内容が何とも・・・ということは珍しくありません。


税理士等に依頼するのもひとつの案

ここで検討されるもうひとつの事項が、詳しい人に経理処理を頼むことです。一般的に、事業場の経理処理については税理士事務所に依頼をしている人が多いです。

税理士によって、どの程度の作業を引き受けてくれるのかは異なります。

・資料整理から入力、税務申告まですべてお任せ

・基本的な処理は自分で行い、内容チェックを税理士に依頼

・経理処理は自分で行い、税務申告だけ税理士が対応

このように、依頼する範囲も含めて検討します。大概の場合「毎月○○円と決算料が○○円」という感じで契約を締結していることが多いようです。税理士に依頼すれば、出来上がった決算書の内容も、より間違いがないものに仕上がります。

もし自分で処理をする自信がない場合には、これも有力な候補のひとつです。また「税理士選び」については、他にも色々とお話ししたいことがあるので、機会を改めてご紹介します。


青色申告について

最後に、青色申告について簡単に触れます。

法人でも個人事業主でも、きちんとした簿記の処理を行うことを前提に、青色申告という税務上の特典を受けることができます。ネットで調べると色々な意見が出てきますが、

・青色申告は、健全に事業を行いたいなら必須!!

これは断言できます。それほど青色申告の特典は強力です。またその効果を最大限活用するためには、個人事業主であっても複式簿記の採用が好ましいです。

・会計ソフトを活用した複式簿記採用

・場合によっては税理士への依頼も検討

・青色申告は必須

これから独立する人も、すでに開業している人も、この点についてはぜひ押さえておいて頂きたいです。

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著者プロフィール

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髙橋 昌也

税理士

プロフィール
1978年川崎市産まれ。
2006年税理士試験合格、2007年に独立開業。東京地方税理士会川崎北支部所属。同年、FP資格取得。
開業当初より「ちいさなお仕事の支援」に特化して事業を展開。
単なる税務にとどまらず、顧客の事業計画策定を支援するなど業務全般の支援を実施。

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