有価証券報告書とは? 記載事項や提出の義務について解説
有価証券報告書の作成において、既存の企業の有価証券報告書を参考にしてみたものの、内容が膨大なため、作成手順や記入事項が結局わからずじまいの人は多いことでしょう。
本記事では、有価証券報告書の作成を控えている企業の経理担当者に向けて、有価証券報告書のあらましから要点まで、作成に役立つ知識や情報を事細かに概説しています。
有価証券報告書について
株式を発行する上場企業などが、各事業年度に公開する「有価証券報告書」とは、以下の意義を持ちます。
有価証券報告書とは?
「企業の概況」や「事業の状況」のほか、経営成績や財務状態を示した「財務諸表」などの企業に関する情報をまとめた、事業年度ごとに作成される書類や電子データです。
目的として、企業の将来性や現在の状況などの情報を適正に公開し、投資家を保護するとともに、市場を健全で公正なものと捉えることが挙げられます。その目的から、「金融商品取引法」に準じて、株式を発行する上場企業などに対し、有価証券報告書の差し出しが義務化されています。
各企業から差し出された有価証券報告書は、金融庁の管理するサイト「EDINET(エディネット)」で公開されているため、一般人でもサイト上で、興味を持った企業の有価証券報告書の閲読が可能なのです。
有価証券報告書を作成する理由
有価証券報告書には、経営成績や財務状況など、決算書から目に見えるデータ以外に、企業が対処すべき課題や将来的に発生が懸念される事業のリスクなど、さまざまな情報を盛り込む必要があります。
そのような企業の経営成績や将来の成長に、影響を及ぼすであろう情報を適正に公開することで、投資家が企業の成長性や投資リスクなどの投資判断を可能にし、市場の公正化を図ることが、有価証券報告書を作成する目的です。
有価証券報告書の信頼性
企業が決算発表時に公開する「決算短信」は、速報性を重視しているため、外部機関の監査を受けておらず、業績の見込みなどにおいて、ミスリードを含めてしまう場合があります。
一方、有価証券報告書は企業が作成した財務諸表について、利害関係にない監査法人、または公認会計士が内容を監査し、差し出す前に誤りの有無をチェックしなければなりません。
そして、企業の経営成績や財務状況、現金の流れを表すキャッシュ・フローが、一般に公正妥当と認められた会計処理の基準に沿って表示されているかどうか、監査報告書に会計監査人の意見が登載されます。
言わば、会計の専門家において、信頼性が担保された書類であるため、上場企業が公開する有価証券報告書の信頼性は極めて高いでしょう。
ただし、まれに有価証券報告書の虚偽記載が発覚する、などのトラブルが発生するおそれも考えられます。他社の有価証券報告書をチェックする際は、確実な知識を持って、慎重に内容を確認することが重要です。
有価証券報告書の提出義務に関して
有価証券報告書を差し出す義務については、次の原則と延長の特例があります。
有価証券報告書の提出義務者とは
金融商品取引法において、以下の要件を満たす対象者は、各事業年度終了後3ヶ月以内に、内閣総理大臣宛てに有価証券報告書を差し出す義務が課せられます。
- 金融商品取引所に有価証を上場している発行者(プライム・スタンダード・グロース)
- 店頭登録(国内法人で上場されておらず、店頭有価証券の規定により、一定以上の企業内容の公開を要するもの)済みの有価証券を発行者
- 6カ月間で通算50人以上の勧誘や、1年間に通算1億円以上の売り出しや公募を行う有価証券届出書、1千万円以上1億円未満の売出しや公募を行う有価証券通知書を差し出す発行者
- 1,000人以上の所有主を持つ株券および優先出資証券のほか、500人以上の所有主を持つ出資総額1億円以上の二項有価証券の発行者
提出期限の延長に関して
本来、有価証券報告書は、事業年度終了後3ヶ月以内の差し出しが義務化されています。
しかし、財務諸表に重大な虚偽が見つかった場合や監査のやり直しを行う場合など、やむを得ない理由により期限内に差し出せない際は、財務局に延長を申請し承認を受けることで、期限の延長が可能です。
また、災害などの緊急事態の発生において、差し出しが間に合わない企業が増えると国が判断した際は、特別措置が実施される場合があります。その際は、差し出しが遅れる旨を所轄の財務局に連絡すれば、承認を受けなくとも期限が自動で延長される仕組みなのです。
過去には、2018年(平成30年)7月の豪雨の影響を考慮して、期限を同年9月28日に延長するケースや、2020年(令和2年)の新型コロナウイルスの感染拡大により、企業の決算業務や監査業務が例年より困難になることを見込んで、期限を同年9月末に延長するケースなどが発生しました。
有価証券報告書の記載事項
有価証券報告書の登載が要される事項と、その事項を読むことで、把握できる内容は以下の通りです。
企業の概況
企業の概況は、財務諸表の中でも、特に重要とされる指標のほか、事業の内容や企業の現状、関係会社の情報、従業員の推移など、企業の主な情報を一覧化し、概略でまとめたものです。
経営指標に関するデータを、企業の概況と合わせて参照することにより、単なる数字上のデータとしてだけではなく、企業の歴史的背景や文化に基づいて、その経営指標に至るまでの道筋を理解できるようになっています。
【企業の概況に登載される主な情報】
- 経営指標の推移
売上高、売上収益、総資産額、自己資本比率、キャッシュ・フローの情報など - 企業沿革
会社のプロフィールや今日までの歩み - 事業内容
企業が営む事業の内容 - 関係会社の状況
議決権の所有割合などのグループ関係性や、グループ内で展開している事業 - 従業員の状況
セグメント別の従業員数のほか、平均勤続年数や平均年間給与など
事業の状況
事業の状況は、セグメント別の売上高や経営成績のほか、経営者による決算書の分析が登載された事項です。
決算書だけでは目に見えない、経営方針や経営環境などに対処すべき課題や、発生が懸念される事業のリスク、会社を取り巻く外部環境についてもレポートされています。
また、研究開発に関するレポートでは、企業がセグメントごとに、どのような研究開発の活動に取り組んでいるのか、内容や予算などの詳細を把握できます。
この事項を参照した投資家が、企業の問題解決における取り組み方を知れるため、その企業の将来の成長性を測れるようになるでしょう。
【事業の状況に登載される主な情報】
- 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
事業の内容や事業の目的の中長期的な考え方などをレポートした事項 - 事業のリスク
災害や経営上のリスクなど、経営成績に影響を及ぼすことが懸念されるリスクをレポートした事項 - 経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析
経営者の視点による、自社の財政状態などの解釈をレポートした事項 - 経営上の重要な契約
他の企業と重要な契約を取り交わした場合に、その内容をレポートする事項 - 経営方針や経営環境および対処すべき課題
企業が認識している経営上の課題と、解決に取り組む対策についてレポートした事項 - 研究開発活動
セグメントごとの主な研究開発の活動内容と、投資した研究開発費をレポートした事項
設備の状況
「設備の状況」は、企業の各セグメントにおいて、行った設備投資の内容を登載した事項です。
設備投資には、建物や機械設備などの目に見える「有形固定資産」と、ソフトウェアや商標権などの目に見えない「無形固定資産」の2種類が存在します。
これらの設備投資に力を入れている企業は、将来の成長に向けて準備を進めている企業である、と捉えられるでしょう。
また、設備投資に関する予算について、その企業の資金調達の能力を知れるため、企業の収益力や将来の安全性の見込みにも役立つ事項なのです。
【設備の状況に登載される主な情報】
- 設備投資の概略
設備投資に関する金額について、セグメントごとにレポートした事項 - 主な設備の状況
企業の所有する主な設備について、帳簿価額などをレポートした事項 - 設備の開設、撤去などの計画
企業が計画している、設備の開設や撤去などの計画についてレポートした事項
提出会社の状況
「提出会社の状況」は企業の総株式数、大株主の所有割合や議決権総数、自己株式の取得や処分、株価の推移など、企業の株式に関する情報などをレポートした事項です。
剰余金の配当に関する情報も、併せてこの事項でレポートされています。
この事項を参照することで、企業価値算定に役立つ情報や、配当政策から見る利益の還元方法、株主に対する姿勢など、投資家にとって有用な情報を把握できるのです。
【提出会社の状況に登載される主な情報】
- 株式の状況
株式の総数や新株予約権・ストックオプションの状況、大株主の所有割合や議決権の情報などをレポートした事項 - 自己株式の取得の状況
自己株式の取得や処分などの情報を登載した事項 - 配当政策
株主に対する剰余金の配当について、配当の方法と割合をレポートした事項 - コーポレート・ガバナンスの状況
企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)への取り組みについてレポートした事項
経理の状況
「経理の状況」は、財務諸表、連結財務諸表を含む決算書を公開した事項です。
この事項を参照することにより、企業グループ全体を通した財政状態や経営成績、およびキャッシュ・フローの状況を捉えられます。
【経理の状況に登載される主な情報】
- 財務諸表
有価証券報告書を差し出す企業の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの書類 - 連結財務諸表
支配・従属関係となっている2社以上の企業を、ひとつの企業とみなして作成した財務諸表。それぞれの企業の財務諸表を単純に合算させるだけではなく、連結決算の手続きに基づく処理を適用した上で、連結して作成されている
有価証券報告書と類似している書類に注意
有価証券報告書は、主に投資家や株主に対してのレポートを目的として作成されますが、ほかにも金融商品取引法に準じて作成が義務化され、公開されている書類が複数存在します。
それらの書類からも、一定の情報の入手が可能ですが、有価証券報告書と比較すると、以下の特性の違いや、入手できる情報の質に違いがある点に注意しなければなりません。
有価証券届出書
有価証券の売り出し、または公募を行う際に、金融商品取引法に準じて、発行者が内閣総理大臣に差し出さなければならない書類です。
発行価額の総額が1億円以上の場合や、50人以上の投資家を勧誘する場合など、一定の基準に該当する際に、書類の差し出しが欠かせません。
有価証券届出書には、発行する社債の内容などの証券情報や財務諸表、事業内容、事業のリスクなど情報を登載する必要があります。有価証券届出書についても、EDINETでの閲読が可能です。
有価証券の発行や売り出しの際に、有価証券届出書の交付を行い、発行や売り出しの後は、各事業年度ごとに有価証券報告書を差し出すことになります。
有価証券通知書
新たに有価証券を発行する場合や、すでに発行済みの有価証券を売り出す場合に、勧誘を行う相手方の人数と発行価額の総額が一定の基準を満たす際に、金融商品取引法に準じて、差し出しが義務化されている書類です。
有価証券届出書と同様の内容が登載されていますが、発行価額の総額が1億人以上の場合に、有価証券届出書の差し出しが義務化されているのに対して、有価証券通知書は発行価額の総額が1,000万円超から1億円未満である場合に義務が課せられます。
有価証券届出書と同様に、発行と売り出しの後は、各事業年度ごとに有価証券報告書を差し出すことに、変わりはありません。
決算短信
決算短信は、証券取引所の規定において、決算日から遅くても45日以内に公開される情報です。
貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの、企業の決算に関する情報をメインにまとめられ、有価証券報告書と同様に、投資家に向けて情報を公開します。
有価証券報告書との違いは、その情報の詳細さです。決算短信は決算直後に企業の状況をレポートし、投資家の判断に役立てることを目的として、作成および公開されます。そのため、有価証券報告書に比べ、情報量は少なくなっています。
将来の見込みに関しても、監査などで情報が精査されていないため、あくまで見込みに留まる点に注意しましょう。
まとめ
有価証券報告書は、財務諸表などの決算報告の書類だけではわからない、企業の強みや将来性を投資家に伝えるための、自社の舵取りを担う重要な報告書です。
差し出しの義務の要件や、有価証券報告書に登載すべき事項をしっかりと把握し、企業の概況や事業の状況など、自社の取り組みや経営上の課題についても、深く理解できるように準備しておきましょう。
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