就業規則の作り方 労働契約終了のルールは明確に
採用とは労働契約を結ぶこと、退職や解雇とは労働契約を終了することです。
解雇を含み、退職に関する事項は就業規則に必ず定めを置かなければなりません。
労働契約の終了時には、特にトラブルが起こりがちです。しっかりとルールを定め、労働者に周知しておきましょう。
今回は、労働契約の終了について解説します。
労働契約とは
企業はその経営目的を達成するため、労働者を採用して事業活動を行います。採用に際しては労働契約が締結されますが、労働契約の成立には必ずしも契約書の作成が必要なわけではありません。労働契約法には、合意原則が定められています。
【労働契約法第6条】
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
「労働者が使用者に使用されて労働し」とは、労働者が使用者の指揮命令下で働くということです。労働者が自己の労働力の処分を使用者に委ね、その対価として使用者が労働者に賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することで労働契約が成立します。
労働契約の終了
いったん合意により成立した労働契約もいずれ終了する時期がやってきます。労働者からみれば労働契約の終了は生活の糧を失うことですから、その終了事由を明確に定めておく必要があります。一般に、労働契約の終了事由は次の通りです。
【労働契約の終了事由】
① 任意退職
② 合意解約(退職勧奨)
③ 定年退職
④ 有期労働契約期間の満了
⑤ 解雇
任意退職など
任意退職とは、労働者からの意思表示による退職をいいます。通常、自己都合退職とよばれます。期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申出ることができます。1か月後や2か月後など、会社と労働者で退職日の合意があればその日に、会社との合意がない場合は、退職の申出をした日から2週間を経過したときに退職となります。
【民法627条第1項】
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
【就業規則の規定例】
第〇条(退職)
1 労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
① 本人の都合により退職を願い出て、会社が承認したとき
② 本人の都合により退職を願い出て、会社の承認がないまま2週間を経過したとき
③ 期間を定めて雇用されている場合、その期間が満了したとき
④ 死亡したとき
⑤ 第〇条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
2 労働者が退職し、または解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金または退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。
契約期間に定めがあれば契約期間の満了により労働契約は終了し、労働者の死亡時も労働契約は終了します。また、休職制度を設けている会社では、⑤のように休職期間満了時の退職を定めておくことが一般的です。
なお、退職の申出について、「労働者が自己の都合により退職しようとするときは、原則として〇か月前までに、会社に申し出なければならない。」という規定を設けることがありますが、先にみた通り、会社の承認が無くても2週間経てば労働契約は終了します。あくまでも訓示的な規定にとどまりますから、急な退職で引継ぎが不十分にならないよう、〇か月前の意思表示に協力してもらうことが重要です。
合意解約(退職勧奨)とは
合意解約(退職勧奨)とは、会社が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと退職を勧めることをいいます。労働者の自由意思による合意がなければ労働契約の終了とはならないため、解雇とは異なります。ただし、労働者の自由な意思決定を妨げる強引な退職勧奨は、違法な権利侵害に当たるとされる場合がありますので注意してください。
定年退職の定め
会社が定年を設ける場合、法律上、60歳以上としなければなりません。よって、多くの会社では定年を60歳としています。ただし、定年を65歳未満に定めている場合、高年齢者雇用確保措置のいずれかを講ずる必要があります。
【高年齢者雇用確保措置】
① 65歳までの定年引上げ
② 定年制の廃止
③ 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入
【就業規則の規定例】
第〇条(定年退職)
1 労働者の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由または退職事由に該当しない労働者については、満65歳に達した日の属する月の末日まで継続雇用する。
なお、令和3年4月1日からは、70歳までの高年齢者就業確保措置のいずれかを講ずる努力義務が事業主に課されています。
【70歳までの高年齢者就業確保措置】
① 70歳までの定年引上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
解雇とは
使用者からの申出による一方的な労働契約の終了を解雇といいます。しかし、解雇は労働者の生活の糧を突然奪うことですから、いつでも自由に行えるわけではありません。労働者を解雇するには、社会の常識に照らして誰もが納得できる理由が必要です。
【労働契約法第16条】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
また、労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇や、労働者の性別を理由とする解雇など、一定の場合については法律で解雇が禁止されています。
さて、解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。
【就業規則の規定例】
第〇条(解雇)
労働者が次の各号のいずれかに該当するときは解雇とする。
① 勤務状況が著しく不良で改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないと認められたとき
② 勤務成績や業務能率が著しく不良で向上の見込みがなく、他の職務にも転換できないとき
③ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないと認められたとき
④ 規律性、協調性、責任感を欠き、他の労働者の業務遂行に悪影響を及ぼすと認められたとき
⑤ 試用期間における作業能率や勤務態度が著しく不良で、本採用することが不適当であると認められたとき
⑥ 第〇条に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき
⑦ 特定の地位、職種または一定の能力を有することを条件に雇い入れたものの、その能力または適格性に欠けると認められたとき
⑧ 事業の縮小その他会社にやむを得ない事情がある場合で、かつ、他の職務にも転換できないとき
⑨ 天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の継続が困難になったとき
⑩ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき
解雇を行う場合、労働基準法で定められている手続き要件も満たさなければなりません。
【就業規則の規定例】
第〇条(解雇予告)
1 労働者を解雇する場合は、30日前に予告をするか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、解雇予告手当を支払った日数だけ、予告の日数を短縮することができる。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する場合は適用しない。
① 日々雇い入れられる労働者を解雇する場合(ただし、1か月を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
② 2か月以内の期間を定めて使用する労働者を解雇する場合(ただし、その期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
③ 試用期間中の労働者を解雇する場合(ただし、14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
④ 本人の責めに帰すべき事由により解雇するときであって、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合
⑤ 天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となったために解雇するときであって、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合
厚生労働省「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」から、民事上の個別労働紛争に関する相談件数(計278,778件)をみてみると、自己都合退職39,498件(11.4%)、普通解雇29,054件(8.4%)、退職勧奨25,560件(7.4%)、雇い止め15,056件(4.3%)などとなっています。労働契約終了時のトラブルを防ぎ円満な退職とするため、労働契約終了時のルールを明確に定め、適切に運用しましょう。