就業規則とは? 企業が作成する義務や記載する項目・流れについて紹介
就業規則とは、労働時間や休日、賃金などの労働条件や、就業にあたって労働者が守るべき服務規律などを定めたルールブックのことです。
従業員と会社の利益を守り、社会的責任を果たすという意味でも、企業は就業規則について正しく理解し、決められたルールに従って就業規則を作成する必要があります。
本記事では、就業規則の概要や記載する項目、作成の流れをわかりやすく解説します。
就業規則とは
就業規則には、作成や届出に明確なルールが定められています。
ここでは、就業規則の概要や法的効力といった基礎知識を紹介します。
就業規則とは、法律に基づいて定められた会社のルール
就業規則とは、労働者の労働時間や休日、賃金などの労働条件、退職、解雇や懲戒、就業にあたって、労働者が守るべき服務規律などを定めたルールブックです。
労働基準法では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁(労働基準監督署)に届け出なければならない。」と規定されています。
法律で定められた作成・届出義務であり、違反した場合には30万円以下の罰金が科されます。
就業規則が持つ法的効力の優先順位
就業規則には法的な効力があり、法令や労働協約に反してはなりません。
法令・労働協約・就業規則・労働契約の順に優先順位が高くなっています。
法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約
例えば、労働基準法では、有給休暇は付与条件を満たせば定められた日数が付与されますが、就業規則でそれ未満の付与日数を規定することは認められません。
それに対して、就業規則で労働基準法を上回る有給休暇付与日数を規定した場合は有効となります。
就業規則に関する3つの義務
条件に当てはまる企業は、就業規則を作成して届出を行い、従業員に周知する義務があります。
ここでは、就業規則に関する3つの義務について解説します。
1. 常時10名以上の従業員が在籍する企業の「作成義務」
労働基準法では、「常時10人以上」の労働者を使用する使用者に、「就業規則を作成して行政官庁(労働基準監督署)に届け出ること」を義務付けています。
この「常時10人以上」という基準は、「事業場単位」で雇用している労働者が常態として10人以上いるかどうかで判断します。
労働者の正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態や勤務時間の長短などには関係なく、常時雇用していることが条件です。
期間の定めのある労働者を一時的に雇用した結果として10人を超えたものの、契約期間が満了した後に再度10人未満に戻ってしまうような場合などは、「常時10人以上」には該当しません。
2. 作成した就業規則を労働基準監督署へ届け出る「届出義務」
作成した就業規則は、所轄の労働基準監督署への届出義務があります。
届出の際には、次の書類を準備してください。
◆就業規則
就業規則は、会社(事業場)ごとに作成した規程です。
◆就業規則(変更)届
作成または変更した就業規則を届け出る際に必要な書式です。厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーの様式例を参考に作成してください。事業所名称・事業所所在地・使用者氏名などの必要項目が漏れないように注意しましょう。
◆意見書
就業規則の作成・変更を行う際は、従業員代表の意見を聞き、その証明として意見書を届け出る必要があります。書式は厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーの様式例を参考に作成してください。
3. 周知義務
就業規則には、労働基準法で定められている周知義務もあります。
作成または変更した就業規則の内容については、届出の際に労働者代表に意見を求めますが、すべての従業員に周知しなければ無効になります。
就業規則を従業員へ周知するには、次のような方法があります。
- 事業場で従業員の見やすい場所に常時掲示するか、備え付けて閲覧できるようにする
- 従業員に書面で交付する
- 磁気ディスクなどの磁気媒体やそれに準ずるものに記録し、事業場で常時確認できる電子機器を設置する
職場の状況に応じて、さまざまな方法で周知する必要がありますので注意しましょう。
企業が就業規則を作成する目的
ここでは、企業が就業規則を作成する目的を見ていきましょう。就業規則を定めることは、従業員と会社の双方を守ることにつながります。
1. 利益を守る
次のような内容を就業規則に明示しておくことにより、企業の秩序が守られます。
- 社内の機密情報の外部漏洩の禁止
- ハラスメントに該当する言動の禁止
- 規律や命令違反による解雇基準
このような取り組みを継続して行うことにより、企業の信用度が向上し、利益を守ることへつながるでしょう。
2. 従業員とのトラブルを未然に防ぐ
労使間にトラブルが起きた場合、就業規則が存在しなければ、たとえ従業員に非があっても企業が不利になり得ます。
例えば、転勤命令を拒否する従業員への対応が必要な場合、就業規則に「転勤命令の拒否に対する対応」が規定されていれば、企業は具体的な対応を検討できます。
労使間のトラブルを速やかに解決するためにも、就業規則は欠かせないものです。
3. 企業としての社会的責任を果たす
企業は、ハラスメントや育児介護休業など、各種事案について法律上の措置を講じなければなりません。
例えば、企業はセクシャルハラスメント防止のために、法律上の措置を実行することが義務付けられています。
服務規律でセクシャルハラスメントを禁止する旨や、服務規律に違反した従業員を懲戒対象とするなどの規定を就業規則に記します。このような取り組みが、企業としての社会的責任を果たすことにつながるのです。
企業に就業規則がないことで生じるリスク
就業規則の作成義務がある企業が作成を怠っていた場合は、労働基準法違反で罰金(30万円以下)を科せられる可能性があります。
また、就業規則が作成できていたとしても、出勤停止や減給などの具体的な規定がなければ、懲戒処分を行うことができません。
雇用関係助成金を受給できない可能性があることも、企業に就業規則がないことで生じるリスクといえます。助成金の受給要件には、就業規則の作成・届出が含まれていることが多くあるからです。
就業規則に記載する項目の具体例
ここでは、就業規則に記載する項目の具体例を紹介します。就業規則に記載する項目は必須のものと、任意のものに大別できます。
記載が必須となる項目
就業規則の記載項目の中で、記載が必須となる項目を「絶対的必要記載事項」といいます。
絶対的必要記載事項は、労働者と企業の間において、最低限の共通認識を持っておくことが求められる事項であり、漏れなく記載する必要があります。
絶対的必要記載事項には、次のようなものがあります。
①労働時間関係
- 始業及び終業の時刻
- 休憩時間
- 休日、休暇(年次有給休暇、産前産後休暇など)
- 労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては、就業時転換に関する事項
②賃金関係
- 賃金の決定方法、計算方法、支払方法に関する事項
- 賃金の締切日、支払日に関する事項
- 昇給に関する事項
③退職関係
退職に関する事項(解雇事由を含む)
会社に制度を定める際に記載必須となる項目
就業規則の記載項目の中で、制度を定める際には記載が必須となる項目を「相対的必要記載事項」といいます。
相対的必要記載事項には、次のような項目があります。
①退職手当関係
- 適用範囲
- 決定方法、計算方法
- 支払方法、支払時期
②臨時の賃金・最低賃金額関係
- 臨時の賃金など(退職手当を除く)
- 最低賃金額
③費用負担関係
作業用品や衣服、食費などのうち労働者に負担させることに関する事項
④安全衛生関係
安全及び衛生に関する事項
⑤職業訓練関係
職業訓練に関する事項
⑥災害補償・業務外の傷病扶助関係
災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
⑦表彰・制裁関係
表彰、制裁の種類及び程度
⑧その他
従業員すべてに適用されるルールに関する事項
記載が任意となる項目
会社としてルールを決めたとしても、就業規則に必ずしも規定する必要がない項目ですが、任意で記載することが可能です。
記載が任意となる項目の例は次の通りです。
- 就業規則の規定の主旨
- 会社の理念
- 事業年度
- 役員の人数
- 就業規則の用語の定義
就業規則の作成から届出までの流れ
就業規則の作成から届出までの流れは、次の通りです。
就業規則案の作成
内容に漏れがないよう、就業規則案を作成します。
厚生労働省のモデル就業規則や就業規則作成支援ツールなども参考にしましょう。社会保険労務士に依頼する方法もあります。
参考:厚生労働省「モデル就業規則」「就業規則作成支援ツール」
労働者代表の意見聴取
就業規則案が作成できたら、労働者の代表から意見を聞き、「意見書」にまとめてもらいます。
労働基準監督署への届出
作成した次の3点の書類を、所轄の労働基準監督署に提出します。
- 就業規則
- 就業規則(変更)届
- 意見書
就業規則の従業員への周知
労働基準監督署への届出が終わったら、就業規則の内容を従業員に周知します。
就業規則についてのまとめ
就業規則の概要や記載する項目、作成の流れをわかりやすく解説しました。
常時10人以上の労働者を使用する場合は就業規則の作成が義務となり、作成を怠っていた場合は、労働基準法違反で罰金を科せられる可能性があります。
また、従業員と会社の双方を守るためにも、労働条件をまとめた就業規則の作成は重要な意味を持ちます。
就業規則を作成するうえでわからないことがある場合は、そのままにせず、専門家への相談も検討しましょう。