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懲戒解雇とは? 当てはまる要件・基準・事例を簡単に解説

監修者:弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士  上米良 大輔

懲戒解雇とは? 当てはまる要件・基準・事例を簡単に解説

企業から従業員の行動に対してペナルティを与えることを「懲戒処分」といい、「懲戒解雇」は、懲戒処分のなかでも最も重い処分です。

重大な犯罪行為や経歴詐欺、ハラスメントなどが懲戒処分に相当する事象にあたる可能性がありますが、企業は懲戒解雇をするための証拠や根拠をしっかりと示す必要があります。

本記事では、懲戒解雇の要件や懲戒解雇に相当する事例、手続きの流れなどをわかりやすく解説します。


懲戒解雇とは?

懲戒解雇とは、企業から従業員に対して懲戒処分としてなされる解雇のことで、懲戒処分のなかで最も重い処分です。

通常の解雇と異なり、通常は解雇予告を行うことなく即時に解雇がなされるほか、一部またはすべての退職金が支払われないのが通常です。

懲戒処分であり、かつ、解雇でもあるため、懲戒処分に関するルール(労働契約法15条など)と、解雇に関するルール(同法16条など)が、どちらも適用されるというのが一般的な考えです。


懲戒解雇が認められる要件と基準

懲戒解雇には、要件と基準が定められています。内容を詳しく見ていきましょう。

正当性の原則

企業が従業員を懲戒する際は、企業が有する懲戒権を濫用するなど、公の秩序を定めたルールに反することはできません。

ここにいう「懲戒権を濫用する」とは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない(労働契約法15条)」処分を行うことをいいます。

このうち、懲戒理由に客観性および合理性が要求されていることを「正当性の原則」と呼ぶこともあるようですが、必ずしも一般的な言い方ではありません。

平等待遇の原則

平等待遇の原則とは、同等の非違行為については同等の懲戒処分がなされるべきであるという原則をいいます。懲戒処分の有効性を判断する要素の1つとして、この原則があります。

懲戒処分は企業秩序の維持のために行われるものであり、合理的な理由もなく特定の従業員を狙い撃ちにしてなされるべきものではありません。

このことから、平等の原則が当然に求められているといえます。

不遡及の原則

不遡及(ふそきゅう)の原則とは、懲戒規定を、作成・変更した時点より前に発生した事案にさかのぼり適用させてはならないことをいいます。

例えば、2022年9月1日に懲戒規定を作った場合に、同年7月に従業員が行った規定違反行為に懲戒処分はできません。

懲戒処分は制裁の意味を持つ点で、罪を犯したときに課される刑罰と似ています。

そのため、刑罰を科す際の一定のルールが懲戒処分にも適用されるとされています。そのルールの1つが、不遡及の原則です。

二重処罰の禁止の原則

二重処罰の禁止の原則とは、同じ懲戒事由について繰り返し懲戒処分を行うことが禁止されることをいいます。

不遡及の原則と同様、懲戒処分に適用される、刑罰を科す際のルールのひとつです。

なお、1つの事由に対して「けん責し、減給もする」など、懲戒処分を同時に2つ行う場合、どちらかの処分が制裁としてではなく、適格性や能力の低下・欠如を理由とした、人事上の措置としてなされたと客観的に認められるときは、この原則に反しないとされています。

適正手続の原則

懲戒処分を行うにあたっては、適正な手続きを踏む必要があります。適正手続の原則とは、このことを指す言葉と考えられます。

懲戒処分は従業員に対して不利益を与える行為なので、本人に弁明の機会を与えることが必要であるとされています。

また、労働協約や就業規則に、懲戒処分にあたって労働組合との協議や懲戒委員会の開催などの手続きを経ることが定められている場合は、その手続きを経なければ、同処分は基本的に無効です。

個人責任の原則

個人責任の原則とは、懲戒処分において責任を負うのは個人であり、複数名が連帯して責任を負うものではないことを指していると考えられます。

この「個人責任の原則」は、「懲戒処分が有効となるための条件である」と一般にいわれているわけではありません。

しかし、先に述べたように、懲戒処分は制裁罰という点で刑事罰と似ているところがあり、刑事罰は個人が負うことが前提になっています。

したがって、ここでいう「個人責任の原則」が、前提として存在するといえるでしょう。


懲戒解雇に該当する事象を紹介

懲戒解雇に該当する事象には、重大な犯罪行為や無断欠勤などがあり、その度合いによっても対象になるかどうかが異なります。

重大な犯罪行為

重大な犯罪行為は違法性が高く、企業秩序を乱すことが明らかな行為なので、懲戒処分として最も重い懲戒解雇の対象として懲戒事由に定められているのが一般的です。

懲戒処分の有効性は、「客観的合理的理由」と「社会通念上相当性」という判断基準を用いて、非違行為の内容や悪質さの程度と、処分の重さのバランスを考慮して決められます。

重大な犯罪行為は、悪質さの度合いが高いため、懲戒処分として最も重い懲戒解雇でも有効と判断されやすいといえます。


無断欠勤

無断欠勤は、就業に関するルールに反する行為です。

このうち懲戒の対象となるのは、その態様が労働義務を果たしていないレベルを超えて、企業秩序を乱していると認められる場合に限られます。

過去の裁判例でも、遅刻や欠勤を繰り返し、上司が指示や注意をしているにも関わらず、態度を改めなかった場合に、懲戒解雇が有効と判断されています。

一方で、精神疾患の疑いがある従業員の欠勤の場合は、企業として適切な対応を行わなければ懲戒処分をしても無効とされています。

経歴詐称

経歴は企業秩序の維持に関わる重要な事項なので、これを詐称することは懲戒事由となり得ます。

ただし、その対象は、学歴や職歴、犯罪歴など、企業による能力や人物評価を妨げるもので、継続的な雇用関係における信頼関係を損なうような重要な経歴の詐称に限られます。

過去に経歴詐称を理由に懲戒解雇が認められたものとしては、職歴や犯罪歴の詐称があります。

経歴詐称一般にすべて懲戒解雇が認められるとはいえない点に注意が必要です。

ハラスメント

セクシャルハラスメントなどのハラスメントは、企業秩序を乱すことが明らかなので、懲戒処分の対象となることが多いといえます。

過去の裁判例では、悪質なセクシュアルハラスメントについて、懲戒解雇が有効であると認められたケースがあります。

他方で、悪質性の度合いによっては、懲戒解雇は重すぎるとして無効であると判断される可能性があります。

ハラスメントの態様などから、適切な懲戒処分の内容を決める必要があります。

業務命令の拒否

企業の有効な業務命令に従業員が従わなかった場合は、懲戒の対象となり得ます。

とりわけ、配転命令は企業の人事の根幹となる重要なものなので、これへの拒否行為には懲戒解雇も可能とされています。

業務に関する指示・命令を従業員が無断で拒否したり、会社の事業活動を害する行動をやめるよう命じても、頑なに拒否したりしている場合、懲戒処分が有効となりやすいです。

もっとも、これによる企業秩序違反の程度が重大でないのに、懲戒解雇にすることはできません。


懲戒解雇する場合に押さえておきたい有無確認事項

懲戒解雇には、証拠や根拠が必要です。

ここでは、懲戒解雇する場合に押さえておきたい有無確認事項を見ていきましょう。

会社側で証拠となる物証が残っているか

懲戒解雇の根拠となる事実関係がどのようなもので、そのような事実があったことを裏付ける客観的な資料が残っているかどうか確認する必要があります。

懲戒解雇は、従業員が了解しているかどうかに関わらず行うものなので、仮にその理由について争われたときに、きちんと説明できる資料があるか確かめておきましょう。

懲戒解雇をする根拠規定がはっきりしているか

就業規則や労働協約などに記載されている懲戒事由のうち、どれに基づいて懲戒解雇をするのか、根拠規定を確認する必要があります。

先に述べた通り、懲戒が制裁として刑事罰と同様の性質を有することから、懲戒が有効であるためには、懲戒の根拠となる懲戒事由が定められていなければなりません。

過去に似たようなケースでの懲戒解雇があったか

先に述べた、「同等の非違行為については同等の懲戒処分がなされるべきである」という、平等待遇の原則の観点から必要となるチェックポイントです。


懲戒解雇の手続きの流れ

ここからは、懲戒解雇の手続きの流れを解説します。

1. 調査

問題となっている行為について調査を行い、就業規則や労働協約に定められている懲戒解雇の対象事項に該当するか検討します。なお、解雇予告なく懲戒解雇してよいか、退職金の支給をどうするかについても検討します。

2. 必要な手続の確認

懲戒解雇をするうえで必要となる手続内容を、就業規則や労働協約から確認します。労働組合との協議や、社内の懲戒委員会などの組織を開催することなどが、手続きとして定められている場合があります。

必要な手続きがあることがわかったら、それを実施します。手続内容が定まっていなくても、懲戒処分が従業員にとって不利益となることから、少なくとも本人に弁明の機会は与える必要があります。

3. 解雇通知書の作成と本人への告知

解雇通知書を作成し、本人に交付して懲戒解雇になることを伝えます。

懲戒解雇の対象となった行為や、どの懲戒事由に該当したのかを、従業員が見てわかる程度に具体的に記載するのが望ましいといえます。

4. 懲戒解雇を社内公表

社内に従業員を懲戒解雇した旨を公表します。

社内掲示板に張り出すなどが一般的な方法ですが、氏名の公表は名誉棄損に該当する可能性があるため、伏せた形で公表する企業が多いです。


実際にあった懲戒解雇の具体例

最後に、実際にあった懲戒解雇の具体例を2つ紹介します。

領収書を改ざんして10万円を着服

スーパーを経営する会社に勤める従業員が、関連する出向先の会社において領収証を改ざんして10万円を着服したことから、懲戒解雇とされました。

裁判所において懲戒解雇が有効かどうか争われましたが、スーパー経営の会社において着服をすることが背信性の高い行為であることや、対象の従業員が西日本統括本部業務部次長という要職に就いていたことから、懲戒解雇は有効であると判断されました。

会社の機密情報の漏えい

会社の機密情報を持ち出して競合する会社に就職し、データを漏えいした行為について懲戒解雇がなされました。

裁判所において懲戒解雇の有効性が争われましたが、極めて背信性が高い行為であるとして懲戒解雇は有効とされました。


懲戒解雇のまとめ

懲戒解雇の要件や懲戒解雇に相当する事例、手続きの流れなどをわかりやすく解説しました。

懲戒解雇は一般的な解雇と異なり、本人への事前告知は行われません。そのため、企業側は従業員の行為が懲戒解雇に相当するものなのかどうか慎重に見極め、従業員に提示できる証拠や根拠を書面で準備する必要があります。

トラブルを防ぐため、懲戒解雇のルールや手続きの流れをしっかり守りましょう。


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監修者プロフィール

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上米良 大輔

弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士

2009年弁護士登録。大阪市内の法律事務所を経て、2012年にオムロン株式会社に社内弁護士第1号として入社、以降約7年にわたり企業内弁護士として、国内外の案件を広く担当した。特にうち5年は健康医療機器事業を行うオムロンヘルスケア株式会社に出向し、薬事・ヘルスケア規制分野の業務も多数経験した。

2019年、海外の知的財産権対応を強みとする山本特許法律事務所入所、2021年、弁護士法人化と共にパートナー就任。知的財産権案件、薬事規制案件を中心に、国内外の案件を広く取り扱う。

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