第6回 働き方改革を進める、成功事例の横展開
成功パターンの払拭
働き方改革とは、文字通り働き方を変えること。いままで意識することなく普通に仕事をしていたそのスタイルを変えること。そのスタイルの中には、いままでの成功パターンでもあるはず。この意識していない、過去の成功パターンを変えることが働き方改革の最大の課題でもある。
よって、働き方を変えることはもとより、その根底にある考え方も変えてもらう必要がある。考え方を変えない限り、働き方は変わらない。そのためにまずは、いままでの仕事のスタイルを自覚してもらう、意識してもらうことから始めるのだ。
意識せずに行動していること、例えば空気を吸うことは、「自分はいま、空気を吸っているのだ」と意識しない限り、気付くことはない。働き方も同様。自分がどのような働き方をしているかを意識してもらう、自覚してもらう機会を提供するのだ。
その次に、望ましい働き方、これからこのように変えていきたいという働き方を示す。従来の働き方と比較して、その目的とメリットを示す。しかし、ただ示すだけでは変化を好まない人は行動変革をしてくれないものだ。
そこで、継続的に働き方改革の必要性と社内の成功事例を紹介しつつ、実際に働き方を変えている人を褒める、表彰することが必要となる。逆に、変わらないことに対してペナルティを科すことも必要かもしれない。目的は、望ましい働き方が無意識にできるようにすることなのだ。
社内の成功事例の効果
成功事例の紹介は社内コミュニケーションメディアにて掲載していく。社内の公式メディアに取り上げられることで、当然それは称賛される働き方として認知される。また、一部の成功事例であるにも関わらず大きく取り上げることで、その他の多くの部署でも同じような動きが生まれている、多くの部署で働き方が変化し始めている、というインパクトも与えることができる。
従業員の中にはこのような動きを感じ始めて、「自らも変わらないといけない、でもどうしたら良いか分からない」、そのような思いを持っている人もいるはず。そのような人には具体的な事例を示してあげることで働き方を変える後押しとなり、必要性を感じ取り具体的な行動イメージが見えれば動き始めてくれる。
従業員の中には、変化への抵抗を示す人もいるものだ。そこで、社内の成功事例を数多く取り上げることで、それが効果を生んでいると分かれば、徐々に働き方改革への抵抗感も和らぎ、逆に「自らも変わらないと、社内の流れに取り残されてしまう」という危惧を感じ始めるだろう。
当事者意識の喚起
やったほうが良い働き方改革から、しなければならない働き方改革へと意識を変えるためにはどのように仕掛けていけば良いのか。そのためには、当事者意識、わが身に置き換えて考えるような仕掛けが必要だ。
当事者意識の喚起のポイントは、自分との関係性。自分との関係性が認知されないと、「それで?」ということになる。一般論、抽象論で終わってしまうと、自分事化することが難しい。
まずは、従来型の働き方がなぜ問題なのか、その点を明確にする。無意識で行っているいままでの働き方を自覚してもらう。時代の流れや要請、環境変化により、その働き方ではこのような問題が発生してしまう、そのように明示するのだ。
いままでの働き方を続けることによるデメリット、弊害について、個々人の働き方、自社の事業との関係で説明する。このままでは決して良い結果とはならない。このままでは衰退してしまう。そのような暗い将来像を具体的なイメージが持てるように示す。
しかし望ましい働き方に変えることで、そのデメリットは回避され、売上拡大に結び付く、生産性が向上する、あるいはイノベーションが生まれやすくなる可能性が高まるなど、これについても個々人の働き方、自社の事業に結び付けて、明るい将来像を示していく。
自社も、事業も、組織も人も、全てに利益をもたらすことをイメージさせてあげることにより、自分事化、当事者意識を持って考えてもらえるようになっていく。そして「こうしなさい」という威圧的な言い方ではなく、「このような明るい未来を目指しませんか」といった投げかけ、問いかけで表現する。一度個々人で考えるように、従業員にボールを投げるのだ。
成功事例の横展開
これから働き方改革を実施する場合、社内に成功事例は存在しない。また、このような全社の取り組みについては、全社一斉に実施することは非常にリスクが伴う。そのため、企業の中にはプロトタイプ的に一部署で試験導入をするケースもある。
小さい単位で始めて、そこの成功事例を啓蒙コンテンツとして横展開していく。この成功事例として必要なのが、実践した人の「思い」。もっと言えば、咀嚼の過程。働き方改革を自分なりにどのように理解し、その意義を認め、そしてどのように実践に結び付けたかのストーリーだ。
しかし、「思い」だけや、その人固有の事情ばかり掲載してしまうと、「あの人」だからできたのだ、という感想を持たれてしまう。思いを掲載することで共感を引き起こしつつ、具体的な実践方法については、そのエッセンスを抜き出し、誰でもが実践できるように掲載することが大事である。「これなら私にもできそうだ」という感想を持ってもらうのだ。
そして大事なのは、結果としてどのような良い点があったのかを具体的に示すこと。こうすればこうなる、という結び付きを従業員にイメージさせてあげる。個人として、組織として、事業として、どのように良い点が生じるのかを掲載することで、人が好まない「変化」の後押しをしてあげるのだ。