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第17回 創造性、イノベーションを促進するフリーアドレス

著者:株式会社月刊総務 代表取締役社長  戦略総務研究所 所長  豊田 健一

第17回 創造性、イノベーションを促進するフリーアドレス

どこでも自由に働けるフリーアドレスとは

働き方改革のテーマである生産性の向上。総務としては、これをもう少しブレイクダウンして、効率性の向上と創造性の向上に分解して考えることが大事である。その創造性の向上、つまりは、イノベーションが創発される可能性を高める場作りとしてのフリーアドレスについて、今回は紹介していこう。

フリーアドレスとは、社員が個々の自席を持たず自由に働く席を選択できるオフィスのこと。一人ひとりに与えられていた自分の席がなく、空いている席や自由な場所で働く。このフリーアドレスという言葉、実は日本生まれの言葉である。海外では「ノンテリトリアル・オフィス」(領土を持たないオフィス空間)と言われているが、意味するところは同じで、社員が携帯電話やPCを片手に、自由なデスクで仕事をするスタイルである。

まずはそのメリットとデメリットについて見ていこう。

フリーアドレスのメリット

1 社内コミュニケーションの活性化
毎日座る場所が変わり、部署や部門、立場を越えた交流が可能。イノベーションに必要とされる「他部門の社員との偶発的な出会い」を促進する。
自由に席を選べるので、部署や役職に関係なく、現在の業務やプロジェクトに応じて、近くに座る人を決められる。部署を横断するチームやプロジェクトの編成も容易になり、コラボレーションが促進される。周りに座るメンバーが日替わりなので、新鮮な気持ちで仕事ができるというメリットもある。
自ら目的を持って日々の座席を決め、必要によって周囲とコミュニケーションを取るスタイルなので、社員の主体性、自律性を伸ばすことも期待できる。
2 スペースコストの削減
外回りの営業パーソンが主体のオフィスであれば、人数分の席は必要ない。フリーアドレスによって、オフィス面積を削減できる。空席が少なくなり、稼働率の高いオフィスとなる。座席分をミーティングスペースにしたり、他の用途に活用したりすることもできる。私物を座席に放置しないため、一人当たりのスペースを減らすことができる。
さらに、社員の増減や部署異動時にも、レイアウト変更や電話回線、電源、LAN設備等の移設工事が必要なくなり、その分のコストも削減できる。
3 整理整頓、ペーパーレス化の促進
フリーアドレスでは次に席を使う人のため、毎日の終業後に全ての荷物を片付けなければならない。導入企業の多くは、紙の資料や仕事道具は個人ロッカーに片付ける、というルールにしている。
この個人用ロッカー、さほど大きくないケースが多く、仕事道具や書類を減らさないと収納しきれない。結果、多くの書類を所持できなくなり、書類を少なくする意識が芽生え、ペーパーレス化が進む。

フリーアドレスのデメリット

1 所属部署内のコミュニケーションの希薄化
他部門とのコミュニケーションが活性化されても、部署内のコミュニケーションは以前よりも希薄になる可能性がある。集団意識、組織への帰属意識が希薄になることも考えられる。
2 集中作業が困難に
周囲の環境が随時変わるフリーアドレスでは、集中が妨げられることもある。フリーアドレスは随時人が出入りすることが前提なので、そもそも集中作業には不向きなスタイル。この対策として、個室や囲われた「集中スペース」を用意する企業が増えている。
ある調査によると、日本人の6割は内向型であるとされており、あまりにもオープンすぎる空間や、他者との距離が近すぎることにストレスを感じる人もいるようだ。自社の社員の特性も踏まえた上でフリーアドレス導入と範囲を決めるのが望ましい。
3 席の固定化
社員がメリットを実感しないままだと、席が固定化され、「何のためにフリーアドレスを導入したのか?」という事態になりかねない。「くじ引きなどでその日に座る席を決める」といった必然的に席を変える仕組みが必要となることもある。

フリーアドレスはどのような部署に向いているのか

職種や業務によっても、フリーアドレスの向き、不向きがある。外回りが多い営業や企画部門など、他部署との交流により新たなアイデアが生まれる部署は、フリーアドレスに向いている。一方、管理部門など、固まっていた方が仕事をしやすく、また重要書類を扱う部署などは不向きと言える。

完全なフリーアドレスではない、「グループアドレス」というスタイルもある。部署ごとにエリアを決め、エリア内でフリーアドレスにするスタイルだ。働く場所を選べ、そしてチームとしての一体感も保ちつつ、他部署との交流もできる。マネジメントもしやすいため、最近フリーアドレスを導入する企業は、この「グループアドレス制」を採用することが多いようだ。

フリーアドレスでは、どこでも仕事ができるようにするための環境作りが欠かせない。そのため、以下に記すようなOA機器や設備投資も必要となる。

  • モバイルPC
  • 携帯電話
  • 社内のネットワーク環境整備
  • 社外からのネットワークアクセス整備
  • 無線LAN
  • 会議室のモニター/プロジェクター
  • 社員カード認証式でどこからでも使えるプリンター
  • 私物や仕事道具をしまう個人ロッカー など

フリーアドレスは、自ら席を選び、毎日異なる人とコミュニケーションをするので、社員がそこに意味を見出せないと、かなりストレスフルな環境となる可能性がある。フリーアドレス導入の失敗の多くが「私物が置かれたまま」「特定の席に特定の社員が座る」等々で、「結局固定席になってしまった」ことに起因する。そのため、フリーアドレスを導入する際は、使う側の社員がそのメリットを実感できるかどうか、つまりは物理的なレイアウトではなく、運用面で成功するかどうかが重要な点となる。

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著者プロフィール

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豊田 健一

株式会社月刊総務 代表取締役社長 戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)の副代表理事として、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

毎日投稿 総務のつぶやき 

毎週投稿 ラジオ形式 総務よもやま話

毎月登場 月刊総務ウェビナー

著作

マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター) 

経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター) 

リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)

講演テーマ:総務分野

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戦略総務の実現の仕方・考え方

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