労働分配率とは? 求め方や高い・低いの考え方を把握しよう
毎月支払われる給与や賞与をはじめとした人件費は、経費の中でも大きな割合を占めてるかと思います。
そこで、人件費が適切な基準になっているかを判断する指標として「労働分配率」を見る必要があります。
経営を円滑に進めるにあたって、適正な人件費の水準になっているかを判断するのに重要な指標と言えるでしょう。
この記事では、労働分配率の求め方や、業種ごとの割合の適正値・考え方をわかりやすく解説します。従業員の人件費を見直す際に、ぜひお役立てください。
労働分配率とは
労働分配率とは、企業が生み出す付加価値に占める人件費の割合のことです。
簡単に説明すると、企業の利益に対する人件費の割合のことで、労働分配率を適正な水準に保つことは、企業経営において重要な意味を持ちます。
人件費の割合が高ければその分、付加価値が低くなるため、生産性が低いという評価になります。
一方、人件費の割合が低い場合は、生産性が高いと評価されますが、利益に対して給与水準が低いという見方もできます。
付加価値とは
付加価値とは、企業が商品やサービスを販売することで新たに生み出した価値のことです。小売業における売上総利益(売上高から売上原価を差し引いたもの)と考えるとわかりやすいでしょう。
付加価値を見れば、それぞれの事業が企業に対して、どの程度の価値を提供しているのかがわかります。
付加価値の額を示す「付加価値額」には、次の2つの計算方法があります。
- 控除法:付加価値額 = 売上高 - 外部購入価額
- 加算法:付加価値額 = 当期純利益 + 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子
控除法(中小企業庁方式)では、売上から原価(外部購入価額)を差し引いて付加価値額を求めます。材料費・外注工賃・水道光熱費などが外部購入価額に該当します。
加算法では、「製造の過程で生み出された価値を積み上げる」という考え方をもとに付加価値額を計算します。当期純利益に人件費や賃貸料などの経費を足して、付加価値額を求めます。
人件費とは
人件費には、次のようなものが含まれます。毎月の給与や賞与以外にも項目があるため、正しく把握しておきましょう。
勘定科目 |
内容 |
---|---|
給与手当 |
従業員に支払う給与、家族手当、住宅手当、残業代など |
賞与 |
ボーナス、決算賞与、奨励金など |
役員報酬 |
取締役や監査役に支払う報酬 |
旅費交通費 |
交通費、出張費など |
福利厚生費 |
従業員の冠婚葬祭の慶弔金、社員旅行代、社宅費用、慶弔見舞金など |
法定福利費 |
社会保険料、雇用保険料、労災保険料など |
退職金 |
従業員の退職金、役員退職慰労金など |
【計算式】労働分配率の求め方
労働分配率の計算式は次の通りです。
労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値額 × 100
人件費が増えれば労働分配率も上がります。人件費が同じであれば、企業が生み出す付加価値額が増え、労働分配率は下がり、逆に付加価値額が下がれば労働分配率は上がることになります。
労働分配率の適正値
労働分配率は適正値を保つことが重要です。ここでは、労働分配率の適正値について解説します。
労働分配率の目安
労働分配率の目安は50〜60%で、50%を下回ると良好、70%を上回ると経営が厳しくなるといわれています。
サービス業や運送業など、売上に対する人件費が高い業種の場合は労働分配率が高くなりやすいため、同業他社の平均値を把握することが重要です。
また、創業直後で利益が少ない企業の場合も、労働分配率が高めになります。
労働分配率の平均値
中小企業庁が公表している2022年版 中小企業白書によると、労働分配率の平均値は、大企業で約50%、中小企業の場合は70〜80%となっています。
自社の数値が平均値と比べて大きく乖離していないかどうかを確認しておきましょう。
業種別に見る労働分配率
経済産業省の発表によると、2020年度の業種別労働分配率は次のようになっています。
業種 |
2020年度 |
---|---|
製造業 |
51.0% |
卸売業 |
49.7% |
小売業 |
49.5% |
仮に労働分配率が下がっている場合、状況を業種別に見ると次のような分析が可能です。
製造業
製造業は国際競争が激しい産業のひとつであり、国内外の企業間での競争が厳しい産業です。国際競争に対応するために、労働コストの削減として賃金の抑制を図る場合があります。
特に、低賃金国からの輸入品の増加や海外への生産の移転が、労働分配率の低下につながりやすいといえます。
卸売業
卸売業は、デジタル化やオンライン化の進展により、物流や在庫管理などの効率化が進んでいます。
これにより、従来の従業員の業務が減少し、従業員数の減少につながっていることが考えられます。
小売業
小売業では、オンラインショッピングの普及やレジの自動化など、生産構造の変化が労働分配率の低下をもたらすことがあります。
また、非正規雇用の従業員の増加により、賃金水準が下がり、労働分配率の低下に影響することも考えられるでしょう。
労働分配率が低下する要因
2020年前後には、次のような要因が労働分配率に影響している可能性があります。
コロナ禍による人件費抑制
コロナ禍によって一部の企業では労働時間の短縮や柔軟化が行われました。企業によっては、従業員を解雇することで人件費を抑制したケースもあります。
その結果、経済状況が回復してもコロナの警戒心が解けずに人件費の抑制が続いており、労働分配率の低下につながっていることが考えられます。
非正規雇用の増加
非正規社員の賃金は、正社員に比べて低い傾向にあります。
非正規社員を雇用した結果、労働分配率が低下することがあるでしょう。
生産性の向上
生産性の向上により、企業の収益が増加し、賃金に還元されずに利益として企業にとどまる場合があります。
デジタル化が進み、生産性が向上すると、同じ生産量をより少ない従業員で生み出せるようになります。
その結果、賃金の伸びが生産性の伸びに追いつかず、労働分配率が低下する可能性があるでしょう。
労働分配率の高い・低いの考え方
ここでは、労働分配率が高い場合と低い場合のメリット・デメリットを紹介します。
労働分配率が高いときのメリット
労働分配率が高いことによるメリットとして、従業員の満足度・モチベーション、生活水準の向上があげられます。
賃金が適正に支払われることで、従業員は仕事に対して報いられると感じ、モチベーションが向上するでしょう。
また、従業員がより高い賃金を得ることで、生活費や教育・健康などに資金をあてることができるため、スキルや生産性の向上が期待できます。
労働分配率が高いときのデメリット
労働分配率が高いことによるデメリットには、利益の減少や、資本投資・設備更新が疎かになるなどがあります。
労働分配率が高い状態が続くと、企業の人件費の割合が増加し、利益率が低下する可能性があります。
企業の利益が減少すれば、資金を事業にあてることができず、競合他社に対する不利な状況が生じるため、企業の市場シェアや収益が減少することが懸念されるでしょう。
設備投資や設備更新に資金が回らなくなると、古い機械や設備を使い続けることになるため、生産性や競争力の低下につながります。
労働分配率が低いときのメリット
労働分配率が低いことによるメリットとして、企業の収益向上、経営の効率化、価格競争力の向上があげられます。
労働分配率が低い状態が続くと、人件費が少ない分、企業の収益や利益率が向上し、経営の安定性や競争力が高まる可能性があります。
また、人件費の割合が低いと、設備の更新やDX化など、企業が事業の効率化や生産性の向上に注力することが可能です。
さらに、労働分配率が低い状態が続くと、製品やサービスの価格を競合他社よりも低く設定できます。これにより、顧客からの需要の増加や市場シェアの拡大が期待できるため、企業の価格競争力が向上するでしょう。
労働分配率が低いときのデメリット
労働分配率が低いことによるデメリットは、従業員の満足度や生産性の低下、人材の流出、採用難の増加が考えられます。
労働分配率が低い状態は従業員の賃金が低いことを意味するため、モチベーションや給与に対する満足度が低くなる可能性があります。それに伴って従業員の離職率上昇や、優秀な人材の流出、人材の確保が困難になることが懸念されるでしょう。
労働分配率のバランスは、企業の状態に合わせて適切な割合を保つ必要があるのです。
労働分配率を適正に保つ方法
労働分配率を適正に保つには、次のような方法があります。
生産性を高める
生産性を高めることは、労働分配率を適正に保つうえで重要な要素です。
従業員のスキルアップや業務の効率化、職場環境の改善などにより生産性を向上させ、従業員がより多くの付加価値を生み出す環境を整えましょう。
従業員への適正な賃金の支払い
従業員に十分な賃金を支払うことで、従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させることができます。
市場の賃金水準を調査し、業界や地域の平均と比較することで、自社の賃金設定が適正かどうかを確認しましょう。
労働時間の適正管理
長時間労働の常態化や、労働時間が不適切に管理されている状況は、従業員のワークライフバランスの悪化を招きます。
その結果、従業員の生産性や満足度が低下する可能性があります。
従業員の健康やワークライフバランスを考慮した労働時間の実現を図り、必要に応じて、業務の見直しを行いましょう。それにより、従業員の生産性と満足度を向上させることができます。
また、労働時間を柔軟に調整できる制度を導入することでも、ワークライフバランスを向上させることが可能です。
たとえば、フレックスタイム制やテレワークの導入により、従業員が自分の生活スタイルに合わせて労働時間を調整しやすくなります。
労働分配率と関連する労働生産性
企業の人件費について考える際は、労働分配率とあわせて労働生産性についても考慮する必要があります。
労働生産性とは、従業員1人あたりの付加価値であり、企業に「稼ぐ力」がどの程度あるかを示したものです。計算式は次のようになります。
労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数
労働分配率と労働生産性の関係を表した計算式がこちらです。
労働分配率 × 労働生産性 ÷ 100 = (人件費 ÷ 付加価値 × 100) × (付加価値 ÷ 従業員数) ÷ 100 = 人件費 ÷ 従業員数 = 1人あたり人件費
労働生産性と労働分配率は、いずれも企業の経営状態を判断するうえで重要な指標です。
労働生産性を向上させるには、利益を増やすか人件費を減らすしかありません。しかし、利益(売上)を増やすために、より多くの人件費が必要になることもあります。
労働生産性と労働分配率の一方が極端に低い場合は、問題点がないかどうか検証が必要です。
仮に労働分配率が低い企業の場合は、従業員の給与が低いことで仕事に対するモチベーションが低下している可能性があります。
一方で、労働生産性が低い企業の場合は、従業員の働き方に改善の余地があるかもしれません。
労働分配率についてのまとめ
企業の付加価値における人件費の割合を示した労働分配率は、労働生産性と並んで企業経営において重要な指標です。
職場環境を最適化し、健全な企業経営を持続するためには、労働分配率と労働生産性のバランスを取るのがポイントといえます。
本記事を参考に自社の労働分配率を計算し、人件費や労働環境を見直してみてはいかがでしょうか。
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