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退職代行サービスを使われたらどう対処する? 対応の流れや注意点を解説

監修者:横浜パートナー法律事務所 弁護士  原田 大士

退職代行サービスを使われたらどう対処する? 対応の流れや注意点を解説

近年利用者が拡大している退職代行サービスについて、ご存じでしょうか。

退職代行とは、労働者の退職手続きを代行することを指します。「直接伝えるのは気まずい」「会社を辞めさせてもらえない」などの理由から、第三者を間に入れて手続きを進めるのが、一般的なサービス利用の背景です。

本記事では、従業員に退職代行サービスを使用された場合の会社の対応や、注意点などについて解説します。


退職代行サービスとは

退職代行サービスは、退職を希望する従業員に代わり、勤務先の会社に対して退職の意思表示を行うサービスです。

代行業者によってその内容は異なりますが、未払いの残業代を請求する業務や有給休暇の取得申請まで含まれる場合もあります。

退職希望者は通常、何らかの事情により、自らの意思を直接会社に伝えることが難しい場合に、このサービスを活用します。

企業側としては、従業員の心情に配慮しつつも、代行に至った経緯を把握するよう、努めることが重要です。


退職代行サービスを使用された企業の対応の流れ

従業員に退職代行サービスを使用された際、人事担当者がとるべき対応は、以下のとおりです。

  1. 代行業者が弁護士資格を有しているのか確認
  2. 本人からの依頼か確認する
  3. 雇用形態を確認する
  4. 退職日や退職届作成依頼の検討
  5. 会社からの回答・貸出品や私物対応

上記の手順を踏まえて、退職手続きを着実に進めます。詳細を順番に見ていきましょう。

代行業者が弁護士資格を有しているのか確認

退職代行業者は、退職に意思を伝えるだけでなく、有給休暇の買取や未払賃金の支払などを通知してくることもあります。しかし、弁護士法72条は非弁行為を禁止しており、一定の司法書士や労働組合などを除いて、交渉行為を行うためには、弁護士資格が必要になります。

資格や代理権のない第三者が代行業者として交渉を行っても、それは違法となり、効力が否定される可能性もあるため、会社としては代行業者がどのような資格を持っているかを確認するようにしましょう。

本人からの依頼か確認する

労働者が、悪意のある第三者やトラブルに巻き込まれている可能性も考えられるため、必ず本人確認が不可欠です。その退職の申入れや連絡が、従業員本人からの依頼かどうかを確かめます。

たとえば、退職を依頼した当人が示す「委任状」のほか、「運転免許証」「社員証」「社会保険証」など本人確認書類のコピーを、代行事業者を通じて提出してもらいます。

これらによって、赤の第三者が代行業者を名乗り、従業員本人を無視して退職手続きを行うような悪質なケースに対策ができます。

従業員本人の意思がはっきりしないような通知であった場合、退職届を会社の様式に沿って再制作してもらうように依頼することも考えられます。

雇用形態を確認する

次に、雇用契約の内容を確認するため、契約書や社内規則を検討し、退職の意思表示に対してどのような対応をとるかを検討します。

従業員は退職する権利を有するため、退職の申し出に対して企業側は正当な理由なく退職を拒否できません。たとえば、民法第627条1項は、以下のように定められています。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

引用:第三編 債権 第二章 契約 第八節 雇用(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)第六百二十七条

ここでの注意点は、「当事者が雇用の期間を定めなかったとき」という前提条件です。

期間の定めのない雇用形態であれば、原則として従業員は希望のタイミングで退職を申し入れることができ、その2週間後には雇用関係が解消します。

一方で、あらかじめ雇用期間が定められている場合は、原則的に契約期間の満了まで退職できません。

しかし、民法第628条では、有期雇用契約の場合でも「やむを得ない事由があるときは、ただちに契約を解除できる」と規定されています。

したがって、有期雇用の場合では、会社は退職代行業者に対し、期間満了まで退職できない旨を回答する余地があるということですが、同時に、パワハラやセクハラなどの「やむを得ない事由」の有無を、確認しなければなりません。

退職日や退職届作成依頼の検討

雇用形態の確認を済ませ、問題がなければ、当人が希望する退職日を確認します。

たとえば、期間の定めのない従業員の退職希望であれば、希望日が退職の申し出から2週間以降であるか確かめます。先述の通り、その期間が一つのリミットになるためです。
ただし、以下の場合は2週間以内であっても退職を認めることができます。

  • 従業員と企業が2週間以内の退職について合意した
  • 雇用契約書の記載内容と実際の業務が全く異なる (労働基準法第15条
  • 病気や怪我、パワハラやセクハラなどやむを得ない理由で業務を続けられない (民法628条

次に、従業員から受けた他の要求や交渉条件について検討します。たとえば、退職日までの有給休暇の消化を申入れされたのであれば、一般的には、残日数を確認したうえ、退職日までの期間に有給休暇を充当することが多いです。

あるいは、退職金や未払賃金の支払いを提示された場合にも、別途法的検討が必要になります。事案ごと個別の判断が必要になるため、社労士だけでなく、法務部や顧問弁護士も交えて、是非を検討することになるでしょう。

会社からの回答・貸出品や私物対応

退職の意思表示の内容や形式を検討したら、社内手続きを始めます。
書類に不備があった場合は、従業員に直接または代行業者を通じて連絡し、必要な情報を取得します。

また、退職の意思表示や退職条件に対する会社としての主張を回答することになります。
ケースによっては退職を希望していたはずの従業員から撤回を要求してくることもあり、そういった混乱を避けるためにも、回答は速やかに行ったほうが良いでしょう。

なお、仕事用のパソコンやスマートフォン、制服などの貸与品があれば、返却を依頼し、私物を返還するか処分するかなどといった点も、調整を行います。
本人が会社まで来ることが困難なときは、退職代行サービス経由や宅配便を活用して返送手続きを進めると良いでしょう。


退職代行サービスを使用された場合の注意点

従業員が退職代行を使用した場合、以下の3点に注意が必要です。

  • 法律を遵守している場合は退職を拒否できない
  • 有給休暇利用の申入れがある場合は消化させる
  • 退職代行サービスを理由に懲戒処分などにはできない

いずれも大切な項目ですので、一つずつ確認しましょう。

法律を遵守している場合は退職を拒否できない

従業員が退職代行サービスを利用して退職の意向を示した場合、先述のとおり、法律を遵守している限り拒否することはできません。

多くの場合、企業側は法的な規定や社内規則を確認したのち、退職を受け入れつつも、交渉や手続きを進めます。

よく、引き継ぎを行っていないことなどを理由に退職を認めたくないという相談を受けることがあります。お立場は大変理解出来るのですが、基本的に退職を拒否する理由にはならないので注意が必要です。

有給休暇利用の申入れがある場合は消化させる

労働基準法では、有給休暇に関する、次のような条文があります。

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

引用:第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇 第三十九条(年次有給休暇)

したがって、原則的に、有給休暇を取得できる権利がある従業員に、希望する休暇を取らせなければ法令違反に該当する可能性があります。法令遵守の一環としても、有給休暇の消化を促すことが必要です。

退職代行サービスを利用して退職までの日を休み続けようとする従業員に対して、困惑を覚えるかもしれませんが、有給取得の申し出自体は法的に保障された権利ですので、誠実な対応を心がけましょう。

退職代行サービスを理由に懲戒処分などにはできない

自分から直接ではなく、退職代行業者を通じて退職の意思を伝えることは、会社に対し不誠実なのではないかと考える人もいるかもしれません。

そこで、企業側が代行サービス利用自体を理由に懲戒処分などによって制裁を与えようとするケースもあるようです。

しかしながら、労働者は退職代行サービスを利用する自由があり、法的にも問題がないため、懲戒処分は無効になる可能性が高いです。

無効な懲戒処分は、訴訟トラブルなどの元となりかねないため、法的な検討と注意が必要です。従業員の権利を尊重しつつ、慎重な手続きを行いましょう。


退職代行サービスを使用されないために企業ができること

ここまで、退職代行サービスを使用された際の対処方法について解説してきました。

しかし、従業員と健全な関係性を築けていれば、このような事態には至らなかったかもしれません。

そこで、退職代行を使用されないために、企業が実施できる対策について紹介します。

従業員の関係やコミュニケーションを深める

従業員と良好な関係を築いていれば、従業員が代行サービスを使って退職を申し出るケースは抑制できると考えられます。

代行業者をあえて利用するということは、企業に対して何らかの不満を持っている場合もあるでしょう。そのため、企業は従業員との信頼関係を構築し、不満の解消に努めることが重要です。

悩みや不安に対応できる窓口を設置するほか、柔軟な配置換えやカウンセリングの提供など、従業員が働きやすい環境を整えることを推奨します。

また、そのようなコミュニケーションの機会を増やす中で、そもそも会社内の退職手続の周知に努めることも、代行利用の抑止につながるでしょう。

コンプライアンス委員会の設置を検討する

退職理由には、セクハラやパワハラをはじめとしたハラスメント行為に加えて、過酷な労働環境などが挙げられます。
退職者を増やさないためにも、企業は「コンプライアンス委員会」の設置を検討することが必要です。

コンプライアンス委員会は従業員の悩みや苦情、問題点などに対応し、公正で快適な環境を維持する役割を果たすでしょう。コンプライアンス委員会が相談窓口となることもあり、弁護士などを参画させることも考えられます。

従業員と企業の双方にとってメリットを生むこととなりますので、設置を視野に入れながら精査することをおすすめします。


退職代行のまとめ

退職代行サービスは、退職を希望する従業員に代わり、勤務先の会社に対して退職の意思表示を行うサービスです。

退職代行業者から意思表示の通知が来た際には、権限や従業員の意思を確認するとともに、退職の効果発生日などのリミットにも気をつけて、スピーディーに法的な検討を行って回答することが重要です。

場合によっては、退職以外の要望や請求を受けることもあるため、法律の専門家などに相談しながら、対応を進めると良いでしょう。

また、予防法務の一環として、上司との関係性や社内のコミュニケーションに問題がないか配慮するなど、代行業者を使ってまでして退職申入れしなければならない環境になることを抑止するよう努めましょう。

また、従業員自体が悩みを相談できるよう、社内にコンプライアンス委員会もしくは相談窓口を設置することも選択肢の一つです。

従業員のみならず、企業側においても有益な結果が期待できるため、検討してみてはいかがでしょうか。


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監修者プロフィール

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原田 大士

横浜パートナー法律事務所 弁護士

東京都出身。弁護士登録後、弁護士法人横浜パートナー法律事務所に入所し、現職(共に神奈川県弁護士会所属)。
中小企業や個人事業主のリーガルサービスを提供するとともに、損害賠償や労働訴訟等の民事事件も取り扱う。
監修書籍 『図解わかる会社法』新星出版社2023年(所属事務所弁護士共同監修)

Webサイト:https://bengoshiharadadaishi.com/

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