会社の固定電話を廃止するには? メリット・デメリットから移行手順まで解説

スマートフォンやチャットツール、IP電話などの普及により、固定電話を廃止する企業も少なくありません。また、働き方改革やDXの推進、維持コストの削減の観点から、固定電話の廃止を検討する企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、固定電話を廃止する理由やメリット・デメリット、具体的な方法などを詳しく解説します。
なぜ今、会社の固定電話を廃止するのか?
今、固定電話の廃止が増えている背景として挙げられるのは、主に以下の3つです。
- テレワークなどの多様な働き方が普及した
- 通信コストや管理コストを削減する必要がある
- 電話対応の業務効率化が求められている
ここでは、上記の理由について詳しく見ていきましょう。
テレワークなどの多様な働き方が普及した
コロナ禍を機に急速に普及したテレワークにより、オフィス外で働く従業員が増えました。そのなかで従来の固定電話では、担当者への電話取次ぎや対応が困難になったことが理由の1つです。
例えば、在宅勤務やサテライトオフィス勤務では、会社にかかってきた電話をリアルタイムで担当者につなぐことが困難です。電話を受けた従業員が在宅勤務者の個人携帯番号を伝えるケースも見られますが、個人情報保護の観点でリスクが高く、企業として望ましくありません。
また、従業員が私用スマートフォンで業務連絡を行うことには、公私の線引きが曖昧になることや通信費の負担といった課題もあります。
通信コストや管理コストを削減する必要がある
固定電話を運用し続けるには、基本料金や通話料のほか、ビジネスフォンのリース代やPBX(電話交換機)の保守・工事費など、多くのランニングコストがかかります。
特に複数の拠点を持つ企業では、拠点ごとにPBXを設置・維持する必要があり、年間数百万円規模のコストが発生するケースも珍しくありません。
PBXの老朽化に伴う入れ替えには、機器代だけで数百万円から数千万円、さらに工事費や設定費用も必要となり、企業にとって大きな負担です。また、電話設備の管理には専門知識を持つ人材が必要で、人件費も無視できません。
電話対応の業務効率化が求められている
担当者への電話取次ぎは、受電者の業務を中断させる非効率な業務の代表例です。例えば、1件の取次ぎに5分かかる場合、1日20件で100分、月間に換算すると30時間以上が電話対応だけに費やされている計算になります。
さらに、担当者が不在であれば、伝言メモの記入や折り返し依頼、再度の対応といった作業が積み重なり、電話番の従業員の負担も増してしまいます。
会社の固定電話を廃止するメリット
次に、会社で固定電話を廃止するメリットは、以下のとおりです。
- 通信コストと管理の手間を削減できる
- 場所に縛られずに電話対応ができる
- BCP(事業継続計画)対策を強化できる
ここでは、上記のメリットについて詳しく解説します。
通信コストと管理の手間を削減できる
固定電話の基本料金や高額なPBX機器のリース・保守費用が不要になるため、月々の通信関連コストを大幅に削減できます。一般的な中小企業の場合、固定電話関連の費用は月額10万円以上かかることも珍しくありません。
しかし、クラウドPBXの導入により、物理機器が不要となるため、初期費用や維持管理コストを大幅に削減できます。また、インターネット回線さえあれば導入可能で、拠点間通話が無料になるプランも多く、社内コミュニケーションの効率化にもつながります。
場所に縛られずに電話対応ができる
クラウドPBXを活用すれば、従業員のスマートフォンやPCから、会社の代表番号を利用した通話が可能になり、場所に縛られずに電話対応が行えます。テレワークや外出先からでも代表番号での発信・着信ができるという点で、大きなメリットです。
在宅勤務中の従業員も、まるで会社にいるかのように内線番号で呼び出すことができ、電話取次ぎのためだけに出社する必要がありません。外出中の営業担当者も会社の番号で発信できるため、顧客に安心感を与えながら、どこからでも迅速な対応が可能です。
顧客からの問い合わせに対して、担当者が即座に対応できるようになることで、ビジネスチャンスの損失を防ぎ、顧客満足度の向上も期待できます。
BCP(事業継続計画)対策を強化できる
災害やパンデミックなどでオフィスが使えない場合でも、クラウドPBXを使えば、自宅や避難先から電話業務を継続できます。東日本大震災や近年の豪雨災害の経験から、BCP対策を重要視する企業が増えてきました。
固定電話は機器がオフィスに固定されているため、物理的な破損や浸水といったリスクが避けられません。一方で、クラウド型の電話システムはサーバー上で管理されるため、万が一の際にも、速やかに業務再開できる体制を整えやすくなります。
会社の固定電話を廃止するデメリット
固定電話の廃止には多くのメリットがありますが、一方で、企業活動に影響を与える可能性のあるデメリットも存在します。ここでは、会社の固定電話を廃止する際に注意すべき課題を解説します。
社会的な信用が低下する恐れがある
固定電話、特に「03」「06」といった市外局番を持つ番号は、企業の信頼性の証となります。特に老舗企業やBtoB取引の多い業界では、固定電話番号の有無が取引の信頼性に影響するケースもあるのです。
法人の銀行口座開設時や、建設業許可などの一部の許認可申請の際に、固定電話番号の提示を求められるケースがいまだに存在します。ただし、クラウドPBX導入時に、既存の固定電話番号(市外局番)をそのまま継続して使用できるサービスも増えており、信用面への影響を最小限に抑えることも可能です
代替となる緊急連絡手段が必要になる
クラウドPBXやIP電話は、インターネット回線や電力が必要な通信手段のため、停電やネットワーク障害時には使用できないリスクがあります。このため、災害や緊急時に備えた連絡手段を別途確保することが不可欠です。
例えば、最低限のアナログ回線を残す、全従業員に社用スマートフォンを配布する、モバイル回線によるバックアップ回線を用意するといったBCP(事業継続計画)対策が求められます。
また、一部のIP電話サービスでは110番や119番などの緊急通報に非対応の場合もあるため、導入前に必ず仕様を確認しましょう。通信インフラをクラウド化する際には、万が一の状況でも業務が完全に止まらない体制を整えておくことが重要です。
会社の固定電話を廃止する方法
固定電話を廃止して、クラウドPBXやIP電話に切り替える際には、業務への影響を最小限に抑えるために、段階的かつ丁寧な移行プロセスが重要です。ここでは、固定電話の廃止に向けた具体的なステップを4つのフェーズに分けて解説します。
1.現状の電話業務における課題を洗い出す
まずは、自社の電話業務の実態を可視化することから始めましょう。
1日の受電件数、主な問い合わせ内容、電話対応にかかる時間などを具体的に分析し、現状の課題を明確化することが重要です。1〜2週間を目安に、「誰が・いつ・どんな電話を受けているか」を記録し、無駄やボトルネックを明確にしましょう。
例えば「営業部宛の取次ぎが全体の40%を占めている」「午前10時〜11時に着信が集中している」など、具体的な傾向をデータとして把握できます。この分析結果が、今後導入する代替ツールの選定基準となります。
2.自社に合った代替サービスを選定する
次に、洗い出した課題を解決できる、クラウドPBXやIP電話などの代替ツールを比較検討します。例えば既存番号を引き継ぎたいならクラウドPBX、導入コストを最小限に抑えたいならIP電話が有力候補です。
選定時は、以下の観点を明確にしておくとスムーズです。
- 必要な機能(IVR、通話録音、CRM連携など)
- 同時通話数や通話品質
- セキュリティや運用サポート体制
- スマートフォンとの連携可否
候補が絞られたら、無料トライアル期間を活用して実際の使用感を試し、現場の従業員からフィードバックを収集しましょう。
3.社内外の関係者へ、十分に周知する
電話番号や連絡方法の変更は取引先や顧客に大きな影響を与えるため、最低でも2~3ヶ月前から計画的に告知してください。公式ウェブサイトでの告知、取引先へのメール一斉送信、請求書や納品書への案内文の同封など、複数の方法で周知を徹底します。
特に重要な取引先には、担当者が個別に訪問または電話で説明し、新しい連絡方法について丁寧に案内することが望ましいでしょう。社内向けには、新システムの操作説明会を複数回開催し、マニュアルの配布や動画教材の提供など、さまざまな方法で教育を行います。
4.電話回線を解約して、新ツールを導入する
新しいサービスが問題なく稼働し、全従業員が操作に慣れたことを十分に確認してから、既存の電話回線の解約手続きを行いましょう。最低でも1ヶ月程度は新旧システムを並行稼働させ、不具合や問題がないかを慎重に確認します。
NTTなどの通信事業者への解約申請は、契約内容によって1〜3ヶ月前に行う必要があり、契約期間によっては違約金が発生する場合もあります。番号ポータビリティを利用する場合は、新サービスの開通と旧回線の解約のタイミングが重要になるため、両社と綿密に連携しましょう。
固定電話廃止後の代替案
固定電話を廃止する場合、代わりとなる連絡手段を用意しなければいけません。固定電話の代わりとなるツールは、以下のとおりです。
- クラウドPBX
- IP電話(050番号)
- ビジネスチャット
ここでは、上記のツールについて、それぞれの特徴とメリットを詳しく解説します。
クラウドPBX
クラウドPBXでは、既存の会社の電話番号をそのままスマートフォンやPCで受発信できます。社会的信用を維持しつつ、テレワークに対応したい企業に最適です。インターネット上のサーバーでPBX機能を提供するため、高額な設備投資が不要で、月額数千円から利用を開始できます。
IVR(自動音声応答)、全通話録音、CRM連携、Web会議機能など、ビジネスに役立つ豊富な機能が標準またはオプションで利用可能です。サービス提供事業者が多く料金プランも多様なため、自社の規模や必要な機能を見極めて選びましょう。
IP電話(050番号)
IP電話は、050から始まる電話番号を取得するサービスです。導入コストや月額料金が安く、個人事業主や小規模企業でも手軽に始められます。通信事業者が提供する専用アプリをスマートフォンにインストールするだけで、即座に電話番号を利用開始できるサービスも多いです。
月額基本料は数百円程度、通話料も固定電話より安価なため、通信コストを大幅に削減したい企業には魅力的でしょう。 ただし、停電時やインターネット障害時には利用できず、市外局番と比べて社会的信用度が低いとされる場合があります。
ビジネスチャット
社内コミュニケーションをテキストベースに移行することで、電話取次ぎ業務そのものをなくせます。チャットツールの代表例は、SlackやMicrosoft Teamsなどです。
これらのチャットツールには、リアルタイムでのメッセージ交換、ファイル共有、画面共有、Web会議機能など、便利な機能が多く備わっています。
ただし、社外との連絡には不向きな場合もあるため、顧客対応用にクラウドPBXなどの電話サービスと併用することが一般的です。
会社の固定電話を廃止する際の注意点
最後に、固定電話を廃止する際には、以下の注意点を押さえておきましょう。
- 取引先には十分な期間を取ってアナウンスする
- 既存の電話番号が引き継げるかを確認する
- 導入ツールのセキュリティ対策を万全にする
ここでは、上記の注意点について詳しく解説します。
取引先には十分な期間を取ってアナウンスする
連絡先の変更は取引先の業務にも影響を与えるため、最低でも1~3ヶ月前には書面やメールなどで正式に通知すべきです。通知には、変更日、新しい連絡先、変更理由、問い合わせ窓口などを明記しましょう。
この際、会社のウェブサイトや従業員の名刺、会社案内、カタログなども速やかに情報を更新し、古い情報が残らないように徹底します。特に重要な取引先へは、営業担当者が個別に訪問して、または電話で説明し、丁寧に理解を求めることで、良好な関係を維持できます。
既存の電話番号が引き継げるかを確認する
番号ポータビリティ(LNP)を利用すれば既存番号を引き継げますが、番号の種類や契約状況によっては移行できない場合があります。NTTのアナログ回線で発番した番号は比較的に引き継ぎやすいのですが、光電話や他社サービスで取得した番号は制限があることが多いです。
また、ISDN回線の番号や、ひかり電話で新規に取得した番号など、技術的な理由で移行できないケースも存在します。代替サービスの契約前に、現在利用中の番号が引き継ぎ可能かを、新旧両方のサービス提供会社に必ず確認しましょう。
導入ツールのセキュリティ対策を万全にする
クラウドサービスを利用する際は、不正アクセスや情報漏洩を防ぐため、セキュリティ機能が充実したサービスを選ぶ必要があります。通信の暗号化、アクセス元IPアドレスの制限、二要素認証、ログの取得と監視などの機能が備わっているかを確認しましょう。
また、サービス提供会社のセキュリティ認証(ISO27001、プライバシーマークなど)の取得状況も、信頼性を判断する指標です。従業員へのセキュリティ教育も併せて実施し、安全なパスワード管理、公共Wi-Fi利用時の注意点、フィッシング詐欺への対策などを十分に周知してください。
会社の固定電話廃止で、業務効率化と柔軟な働き方を実現しよう
近年、働き方改革への対応やコスト削減、電話対応の効率化などの観点から、固定電話を廃止する企業が増えてきました。会社の固定電話を廃止することで、場所にとらわれずに電話対応ができ、通信コストと管理の手間も大きく削減できるでしょう。
ただし、電話番号がなくなることで企業の社会的信用が低下する可能性や、代替の連絡手段が必要になるなどのデメリットも存在します。
この点、クラウドPBXやIP電話なら、初期費用と維持費が安価でおすすめです。固定電話廃止の際には、取引先や社内に十分な期間をもってアナウンスし、万全なセキュリティ対策を講じたうえで、新規ツールを導入しましょう。