企業型DC(企業型確定拠出年金)とは? その仕組みと導入するメリット・デメリットを押さえよう
少子高齢化の進行により公的年金制度の限界が懸念されている今、企業年金のあり方に注目が集まっています。そうした状況下で、「企業型DC」を導入する企業が増えています。
企業型DCは、企業が従業員に一定額の掛け金を積み立て、その掛け金をもとに従業員各自で資産形成をしてもらう制度です。企業型DCの概要や、導入のメリット・デメリットなどについて解説します。
企業型DC(企業型確定拠出年金)とは?
「企業型DC」とは、「企業型確定拠出年金」のことです。
企業は毎月、掛金を従業員の口座に積み立て(拠出)をします。従業員(加入者)はその掛金を使って、自ら年金資産の運用を行うのです。運用する金融商品は従業員が自由に選び、どれにいくら配分するかも自己責任です。
企業型DCには、従業員が自動的に加入する場合と、企業型DCに加入できるかどうかを自由に選択できる場合があります。後者の場合は「選択型企業DC」と呼びます。
参考:一般社団法人 投資信託協会「企業型DC(企業型確定拠出年金)ってなあに?-制度の概要-」
制度が普及する背景
政府の資料によると、2022年3月末時点で企業型DCを導入している企業は、全国約4.2万社。導入している事業所の数は、右肩上がりになっています。その理由としては、大きく以下の2点が考えられます。
- 掛け金が企業の損金扱いにできる
- 退職給付(退職金)の費用を平準化できる(積立額の変動がない)
企業型DCを始めとした確定拠出年金は、運用方法によってリターンに大きな差が生じ、場合によっては損をすることもあります。半面、予想外のリターンを得られる可能性もあり、それが醍醐味と捉える従業員もいるのでしょう。
企業にとっても、従業員の年金額を保証するのは大きなリスクです。リスク回避の観点からも歓迎する企業が多く、導入に至っていると考えられます。また、企業型DCを導入する分、退職給付債務の計上の必要がなくなり、整然とした貸借対照表が作れる点も利点です。
ただし、万が一自社の従業員が不祥事を起こして退職した場合、個人で積み立てている退職金相当額を損失補填に充てることはできません。あまりない事態ではあるものの、有事の際の対処には苦慮する可能性もあります。
参考:厚生労働省「企業型年金実施事業所数の推移」
iDeCoとの違い
名前が似た制度に、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」があります。企業型DCとの大きな違いは、積み立てを行うのが個人と企業どちらであるのかという点です。
企業型DCは、企業が従業員のために掛け金を積み立てるものであり、企業の福利厚生の1つと捉えられます。一方、iDeCoは、各自が個人で積み立てる年金のことであり、いわゆる自助努力の制度であると言えるでしょう。
また、運用商品の選定方法も異なります。企業型DCは企業から委託された運営管理機関が選定した金融商品のなかからしか選べません。しかしiDeCoは加入者個人が、金融機関が展開している金融商品から選べます。
企業型DCの仕組み
ここからは、企業型DCの仕組みについて詳しく解説します。
1.拠出
企業型DCは、企業が選任した運営管理機関に依頼して行うことが一般的です。
企業型DCの拠出(積み立て)は、企業が運営管理機関に各従業員の掛け金を入金して行います。掛け金は企業側の全額負担となり、従業員が自費で積み立てることはありません。
掛け金は、従業員ごとに作られた企業型DC専用の口座に振り込まれ、運営管理機関側で管理されます。
2.運用
運用は、従業員自ら、企業が指定した金融商品のなかから選んで行います。運用する商品は複数選択でき、運用する割合も自由に調整可能です。また、どちらも途中で変更ができます。
運用状況は、従業員側はWebサイトや紙のレポート、コールセンターなどで確認が可能です。しかし企業側は、従業員がどんな金融商品を選び、どう運用しているかは確認できません。
3.給付
運用した年金は、原則従業員が60歳になってから受け取れるようになります。
受け取り方には年金として受け取るか一時金として受け取るかの2つがあり、こちらも従業員が自由に選択できます。また、企業によっては年金と一時金を併用できるケースもあるようです。
年金として受け取る場合は、積立金を分割して受け取ります。一時金として受け取る場合は、積立金を一括で受け取れます。併用する場合は、積立金の一部を一時金として、残りを年金として受け取ることが可能です。
なお、年金として受け取る場合は、方法にもよりますが5~20年間かけて受け取らなくてはなりません。
企業型DCを導入するメリットとは?
企業型DCを導入することには、企業側・従業員側ともにメリットがあります。今回は、企業側のメリットに絞って解説します。
積立不足に陥らない
まず、積立不足に陥らない点は大きなメリットです。
企業は、従業員に将来的に渡す退職給付の財源を、年金資産や余剰金などで積み立てておく必要があります。裏を返せば、経営が悪化すると積立や運用ができず、必要な積立額を下回ってしまうこともあるのです。
しかし、企業型DCでは企業が掛け金を拠出した段階で発生する負担額が確定するため、積立不足に陥らなくなっています。必要になる費用の見通しも、立てやすくなるでしょう。
退職給付債務が発生しない
企業型DCは、上記のような退職給付会計の対象外となります。拠出する掛け金がすなわち、将来の退職給付の費用であると見なされるためです。
掛け金さえ支払えれば、以降追加で退職給付債務が発生することはありません。
掛け金は損金算入できる
拠出した掛け金は、給与扱いにはなりません。そのため全額、損金算入が可能です。結果的に、法人税の節税につながります。
ただし、役員のみで構成される会社の場合はこの限りではありません。企業型DCの掛け金は従業員に支払う場合のみ損金扱いにでき、役員退職金の準備資金としては損金経理できる方法がないためです。
企業型DCを導入するデメリットやリスクとは?
企業型DCは投資の1つであるため、特有のデメリットやリスクもはらんでいます。こうした点も踏まえたうえで、企業型DCを導入するか検討してみてください。
掛け金の拠出が毎月必要になる
企業型DCに加入する従業員全員分の掛け金を、毎月拠出する必要があります。
企業型DCには拠出限度額が定められており、従業員1人につき月額27,500円または55,000円のいずれかとなります。金額は採用している制度の内容によって変わりますが、いずれにせよ加入する人数が多いほど、会社の負担は大きくなるでしょう。
ただし、「選択制企業型DC」を導入している場合は、この限りではありません。前述のとおり、選択制企業型DCは従業員側が加入の要否を自由に選択できる形式の企業型DCです。加入する場合は給与の一部を掛け金として拠出するため、企業側の負担が減ることもあるのです。
運営管理機関への手数料の支払いがある
企業型DCの運営は、外部の運営管理機関に依頼する場合がほとんどです。そのため、依頼する機関に支払う手数料も毎月発生します。社内で運営する場合もありますが、このときも金融機関に委託することが大半です。そのため、掛け金以外にもある程度の費用を確保する必要があるでしょう。
加えて従業員の加入・脱退などの手続きは、社内で行わなくてはなりません。その分の事務的な負担についても、知っておく必要があります。
継続的な投資教育の実施が努力義務とされている
企業型DCを導入する企業は、従業員への投資教育の継続的な実施が努力義務とされています。
企業型DCは、掛け金こそ企業側が用意するものの、実際に運用するのは従業員側です。運用状況次第では、かえって従業員の資産が減少してしまったり、元本割れを起こしてしまったりする可能性もあります。
こうしたことから、従業員が投資の基礎知識を学べる場を設けることが求められているのです。ただし必ずしも自社で行う必要はなく、運営管理機関が実施している講座を受講させても構いません。
企業型DCについてまとめ
企業型DCとは、勤務先の企業が掛金を拠出し、従業員自身で資産運用を行う制度です。導入する企業側にさまざまなメリットがありますが、投資の一種である以上はリスクも生じるものです。また、従業員への投資教育も必要になるため、導入する場合は社内体制の整備も必要でしょう。
事前にメリット・デメリットを理解したうえで、活用を検討してみてください。
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