インセンティブとは? 歩合制や手当との違い、導入の注意点など紹介
報酬制度の1つとしてよく使われるインセンティブ。社員の意欲・生産性の向上のために導入したいと考えている人も多いでしょう。
一言にインセンティブといっても、ビジネスにおいては他の報酬制度と明確に違う定義がなされています。また、インセンティブの形は様々で、金銭報酬だけではありません。
本記事では、ビジネスにおけるインセンティブの定義や種類、導入の注意点などを解説します。
インセンティブとは?
「インセンティブ(incentive)」とは、直訳すると「奨励」「報奨」という意味の言葉です。ビジネスにおいては、社員の意欲向上の動機付けや、社員の意欲を刺激するための成功報酬の意味合いで使われます。
インセンティブ制度は、目標を設定し、その達成や成果に対して報酬を払うことで、社員の意欲向上や積極的な行動を促そうというものです。
給与制度におけるインセンティブは、成果を上げた社員に支給する「報奨金」になりますが、金銭以外にも様々なインセンティブの形があります。
インセンティブと似た制度・報酬との違い
インセンティブは、他の制度・報酬とよく混同されます。インセンティブと似た言葉は以下の通りです。
- 歩合制
- 手当
- 賞与(ボーナス)
それぞれにインセンティブとの明確な違いがあるので、詳しく説明していきます。
歩合制とインセンティブの違い
歩合制とインセンティブは、どちらも成果に応じた報酬という点では同じです。
しかし、歩合制は「実績に応じて」発生するのに対し、インセンティブは「ノルマの達成で」発生するという違いがあります。
また、歩合制は成果ごとに一律の割合で支給され、インセンティブでは、ノルマ達成時に、事前に決められていた額や割合の報酬を受け取れます。
歩合制の例:契約1件につき5万円を一律で支給する
インセンティブの例:今月20件の契約を達成した時に、基本給とは別に30万円を支給する
また、完全歩合制に関しては、業務委託契約を結んでいる個人事業主には適用できますが、雇用契約を結んでいる社員には適用できません。
そのため、成功報酬という形で社員の意欲を向上させたい場合は、固定給に上乗せする形で導入しましょう。
手当とインセンティブの違い
手当とは、給与において基本給とは別に支給される賃金です。
インセンティブは、社員個人の実績や成果に応じて支給されるのに対し、手当は、労働法や社内の就業規則に応じて支給されます。
手当には以下のように様々な種類があります。
- 通勤手当や住宅手当など、固定で支給されるもの
- 残業手当や休日手当など、時間によって支給が変わるもの
- 役職手当や資格手当など、社員の職務やスキルに応じて支給されるもの
どれもインセンティブとは違うので注意しておきましょう。
賞与とインセンティブの違い
賞与(ボーナス)とは、固定給とは別に支給される給与のことで、別名「特別手当」とも呼ばれます。
インセンティブは個人の成果を基準に支給額が決まりますが、賞与は会社の業績によって支給額が決まることが多いです。
また、賞与は主に、夏季や冬季といった決まった時期に支給されますが、インセンティブは目標の達成時に発生するので、支給される時期や回数に賞与ほどの決まりはありません。
インセンティブはお金だけじゃない?
インセンティブというと、多くの人が金銭での報酬を思い浮かべるのではないでしょうか。
確かにインセンティブは金銭によるものが一般的ですが、実は色々な形のインセンティブがあります。
ここではインセンティブの種類と、それぞれの特徴・効果を解説していきます。
金銭・物品によるインセンティブ
インセンティブの代表的なものが金銭と物品です。
金銭・物品によるインセンティブは「物質的インセンティブ」と称されます。物質的インセンティブは、社員の経済的な欲求を刺激する効果があります。
以下では、金銭と物品それぞれの特徴について解説します。
金銭でのインセンティブ
金銭によるインセンティブは、給料やボーナスに上乗せされる形で支給するのが一般的です。
例えば「売上目標を達成したら、その売上の〇%を給料に上乗せする」など、基本給とは別にインセンティブを支給します。
「報奨金」「出来高給」「業績手当」など、インセンティブの呼び方は企業によって変わります。
また、企業や部署によって、インセンティブ制度の基準・ルールは様々です。
物品でのインセンティブ
物質的インセンティブでは、現金ではなく物品で支給するケースもあります。
頑張った社員に対するプレゼントと考えても良いかもしれません。
- 洗濯機や冷蔵庫といった家電
- お肉やお酒といったグルメギフト
- 時計や財布といった雑貨
- 商品券や旅行券といったチケット
このように物品といっても種類は様々です。
また、会社ならではのインセンティブもあります。自社の株や商品・サービスを支給すれば、より会社と社員の親密度を高める効果があるかもしれません。
金銭・物品以外のインセンティブ
インセンティブは金銭・物品だけではありません。
社員のやる気や行動を促すうえで、物欲ではなく、社会的欲求や承認欲求、自己実現欲求を刺激するのも有効です。
ここでは、金銭や物品以外のインセンティブについて、いくつか紹介していきます。
評価的インセンティブ
会社というコミュニティを通じて、「認められたい」「評価されたい」という欲求も、社員の働く原動力になっています。
こういったモチベーションを刺激するために、社員の成果に応じて評価を与えるのが、評価的インセンティブです。
評価的インセンティブは、下記のような例が挙げられます。
- 昇進(昇格)での地位(等級)向上
- 他社員の前での表彰
- 感謝や評価をポイントとして贈り合うピアボーナス
評価的インセンティブを行ううえで、公平性は必ず保つようにしましょう。
人的インセンティブ
会社経営において、社員同士の円滑な人間関係構築は欠かせません。人に関係する要素を組み込んだのが、人的インセンティブです。
人的インセンティブは、下記のような例が挙げられます。
- 希望する部署へ異動させる
- 尊敬する上司の下で働いてもらう
- 切磋琢磨できる同僚と同じチームに配属させる
ただし、社内の人間関係は管理や把握が難しく、業務状況によっては充分に人的インセンティブを実施できない場合もあります。
社員の個別のフォローから始め、会社に余裕が出てきた時期を見計らって、本格的に人的インセンティブを導入していくのが良いでしょう。
自己実現的インセンティブ
自己実現的インセンティブとは、社員の夢や目標を会社として後押しするインセンティブです。
社員自身に夢や目標、理想のキャリアなどがある場合に有効です。
自己実現的インセンティブは、下記のような例が挙げられます。
- 研修を充実させる
- 教育や訓練プログラムを実施する
- 社員が希望するプロジェクトや企画に参加させる
自己実現的インセンティブは、マニュアル化が難しく、パターンに応じて柔軟な対応が必要です。
理念的インセンティブ
理念的インセンティブとは、社員に企業理念や会社のビジョンなどを共有し、理解してもらうインセンティブです。
企業理念が社員に浸透し、賛同してもらうことで、会社への貢献度向上や、会社(組織)の結束力の強化が期待できます。
会社が社会にどう貢献しているか、どう貢献していきたいかを明示できると、社員も「自分も誰かのためになっている」というように、やりがいを感じながら仕事に向き合えます。
社内掲示板や勉強会などで、積極的に会社の理念やビジョンを発信していきましょう。
インセンティブ制度を導入するメリット
インセンティブ制度を導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下では、インセンティブの特徴を踏まえて、企業と従業員の両方の立場から、インセンティブ制度のメリットについて紹介していきます。
企業側のメリット
インセンティブ導入における企業側のメリットは、企業としての評価基準を明確に示すことで、社員のモチベーションが向上しやすくなる点です。
「目標を達成して、報酬(評価)を獲得しよう」と、社員一人ひとりのやる気を引き出せるので、結果的に会社全体の生産性向上につながります。
意欲のある社員が増えれば、社員同士で切磋琢磨して、組織の活性化が期待できるでしょう。
また、達成基準の設定により、会社としても、方向性や達成すべき目標がより具体的になります。
従業員側のメリット
インセンティブ導入における従業員側のメリットは、自身の努力次第で高収入を目指せることです。
インセンティブは、年齢や勤続年数は関係なく、実績・成果を重視する制度なので、ノルマを達成すれば、それに応じて報酬を獲得できます。
他にも、評価基準や目標が明示されることで、納得して評価を受けられるのもメリットです。
評価基準や目標を数値で示すことも多く、与えられるインセンティブも金銭や地位など明確なものが多いので、成果に対して正当な評価だと納得できます。
インセンティブ制度を導入するデメリット
インセンティブ制度の導入を検討している方にとって、どんなデメリットがあるかも気になるところです。
ここでは、インセンティブ制度の導入によるデメリットについて、企業と従業員の両方の立場から紹介していきます。
企業側のデメリット
企業側のデメリットとして、インセンティブに対して一部の従業員が不満を持つ可能性があります。
適切にインセンティブを制度化しないと「成果に対して報酬が見合っていない」「評価基準が不公平だ」など、ネガティブな意見や感情が出る恐れもあるでしょう。
また、競争の激化によって、組織内の人間関係が悪化する可能性が挙げられます。
社員同士の適度な競争は、組織の活性化につながりますが、過度な競争は、社内の人間関係やチームワークに悪影響を与えるでしょう。
インセンティブ獲得のために、多くの社員が利己的になってしまうと、情報やノウハウが共有されなくなり、かえって組織の生産性が低下してしまいます。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットは、収入が安定しないことです。
基本的に、インセンティブ制度は、基本給に加算される形で導入されますが、給与の多くをインセンティブが占めていると、収入が不安定になりがちです。
毎月ノルマを達成し続けるのは非常に難しく、体調不良などで、充分にパフォーマンスを発揮できない時期は収入が減ってしまいます。
他にも、インセンティブによるノルマや目標が、プレッシャーに感じてしまう場合があることです。
インセンティブ制度は、労働意欲の向上に効果的ですが、評価基準や目標が明確な分、かえって負荷になりかねません。
「成果を出さなければならない」と精神的に自身を追いつめてしまう可能性もあります。
インセンティブを導入する流れと注意点
ここでは、インセンティブを導入する流れと注意点について解説します。
目標を設定する
インセンティブを導入するにあたって、まずは社員に目指してもらいたい目標を設定しましょう。
その際に、会社として何を達成したいか、何を実現したいかを明確にしておくことが重要です。
会社自体のビジョンや方向性が曖昧なまま、社員のインセンティブの目標を決めてしまうと、導入後に社員も目的意識が持てず、組織のまとまりが悪くなる可能性があります。
また、インセンティブの目標は、全ての社員にとって公平でなければなりません。例えば、契約件数や売上額というように、数字を用いると公平性を保ちやすいです。
種類を検討する
目標が決定したら、その目標に合わせて、適切なインセンティブの種類を検討しましょう。
物質的インセンティブの場合、金銭・物品という明確な報酬のため、社員の労働意欲の向上に効果的です。
しかし、報酬獲得のために社員が利己的になったり、報酬が明確な分、社員に必要以上の精神的負荷がかかったりする可能性があります。
非物質的インセンティブの場合、精神・社会的側面からのアプローチで、社員のモチベーションを向上させることができるでしょう。
一方で、物質的インセンティブに比べて、目標や評価基準を明確・公平にしにくいため、社員が不満を感じる可能性があります。
目的や会社の状況に合わせてインセンティブの種類を選択しましょう。
付与する条件を決定する
インセンティブの種類が決まったら、付与する条件を決めましょう。会社として実現したい目標に、インセンティブ付与の条件がリンクすることが重要です。
例えば、会社の経済圏を広げたいという目標を前提に、社員には新規契約数を条件にするなどが挙げられます。
インセンティブ付与の条件は、現実的な難易度にしましょう。会社としては、社員に高い目標を達成してほしいと思うかもしれません。
ですが、あまりにも高すぎる難易度の条件は、むしろ社員の意欲を低下させてしまいます。
具体的な内容を決定する
最後に、インセンティブについてより詳細な内容を決めましょう。
どの範囲でインセンティブ制度を適用させるか、成果に対して、何をいくら付与するかを、インセンティブの種類に応じて具体的に決めていきます。
その際には、導入にかかるコストと見込まれる効果が適切か、シミュレーションをしましょう。
例えば、インセンティブに関する社内アンケートを行うことで、どの部署や社員層で効果が高そうか、どんなインセンティブに強い興味を示しているかなどの、具体的な情報が集められます。
インセンティブの導入事例
実際に、インセンティブを導入した事例にどのようなものがあるか、気になる人もいるでしょう。
ここでは、インセンティブを導入して成功した、株式会社メルカリとディップ株式会社の2つの事例について紹介します。
株式会社メルカリの例
フリマアプリで有名な「株式会社メルカリ」では、ピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」を導入しています。
メルチップは、社内スタッフ同士で、感謝や賞賛のメッセージとともに、一定金額のインセンティブを贈り合えるシステムです。
社員同士のコミュニケーションにインセンティブを組み込んだ、いわば、金銭的インセンティブと評価的インセンティブの複合型になります。
評価的インセンティブの可視化しにくい点を、金銭(メルチップ)という目に見える形で付与することで、解決した事例です。メルチップの導入によって、社員同士のコミュニケーションが活発になり、組織としての結束力も強まりました。
ディップ株式会社の例
求人サイトで有名な「ディップ株式会社」では、コンサルティング営業職に対して、インセンティブ制度を導入しています。
毎月、社員個人だけでなく組織にも目標を設定して、その達成状況に応じて、給与とは別に報奨金を支給しています。
全営業職の98%がインセンティブを獲得しており、1人当たりの年間獲得平均は約25万円です。(2020年度実績)
また、この金銭的インセンティブに加えて、定期的な表彰制度や、報奨旅行としてハワイ旅行の授与なども実施しています。
報奨金が営業職全体に広がっていることと、様々なインセンティブの充実が、社員のモチベーションを向上させている事例です。
まとめ
本記事では、インセンティブの種類やメリット・デメリット、導入の流れと注意点などを解説しました。
インセンティブは大きく、物質的インセンティブと非物質的インセンティブの2つに分けられ、その中にも様々な種類のインセンティブがあります。
インセンティブは、従業員のモチベーションと生産性を向上させるのに、非常に有効的な制度です。
インセンティブの種類とその特徴を理解し、適切な目標と条件を設定したうえで、インセンティブ制度を導入しましょう。