[契約書の書き方]第15回 雇用契約書②
今回からは、雇用契約書の具体的な条項を例示して解説を行います。
契約書に記載すべき事項が、契約期間の定めのない正社員か、契約期間の定めのある有期雇用社員かによって異なる場合には、それぞれの条項例を示して解説します。
前文
株式会社○○(以下「甲」という。)と、□□(以下「乙」という。)とは、以下のとおり雇用契約を締結した。本契約書に定めのない事項については、甲の就業規則の定めるところによる。
契約書の前文においては、本コラムで取り上げた他の契約書と同じく、契約当事者を特定することが重要です。
また、職場規律や労働条件に関しては、原則として就業規則の効力がその事業場の全ての労働者に及びますので、本条項例では、契約書に規定しない事項は就業規則によることを確認する一文を入れています。
契約期間
正社員の場合
第1条(契約期間)
1 契約期間は、○年○月○日から、期間を定めないものとする。
2 前項の期間のうち、最初の3か月間は試用期間とする。
正社員として採用する場合、期間の定めのない契約(後に解説する定年まで)となりますので、これを第1項に定めています。
最初に試用期間を設ける場合には、第2項のように、その期間を明記します。就業規則には、会社が本採用を拒否する場合の具体的事由を列挙しておくことが重要ですが、第14回コラムの「内定取消し、試用期間満了時の本採用拒否」の項で解説したとおり、就業規則で定めた事由に形式的に該当するだけで本採用拒否が法的に認められるというものではないため(例えば、勤務態度や職務遂行能力など事実の評価が問題となる場合)、注意が必要です。
筆者の実務経験では、解雇が比較的自由に認められる欧米諸国の外国人が中小企業を経営しているケースでは、日本人の経営者と比較して、解雇に関する法的意識の差が大きい場合があります。このような場合、一旦正社員として採用すると解雇に厳しい規制が生じる日本の法制度を経営者に予め理解してもらうことが、採用後の労使間のトラブルを回避するために重要となります。
有期雇用の場合
1 契約期間は、○年○月○日から、×年×月×日までとする。
2 契約期間が満了する日までに乙の申込みがあったときは、雇用契約を更新する
場合がある。
ただし、契約更新は、通算して5年までとする。
3 前項の契約更新は、甲が次の各号の判断基準によって判断する。
⑴ 契約期間満了時の業務量
⑵ 乙の職務遂行能力、勤務成績、勤務態度、健康状態
⑶ 甲の経営状況
※更新しない場合
第1条(契約期間)
1 契約期間は、○年○月○日から、×年×月×日までとする。
2 前項の期間が満了した時、雇用契約は終了する。
有期雇用契約においては、まず契約期間(始期と終期)を明確に定めることが必要です(上記第1項)。
次に、契約更新の有無と判断基準を定める必要があります(上記第2項及び第3項)。ここで使用者側が検討しなければならない事項としては、第一に、更新する場合は雇止めを規制する労働契約法19条が適用され得るということです。すなわち、繰り返して更新されたことにより実質的に無期契約と同視できる場合(同条1号)または労働者に雇用継続への合理的期待が認められる場合(同条2号)、使用者が労働者の契約締結の申込みを拒絶することについての客観的合理的理由と社会的相当性が認められないときは、使用者が従前の有期労働契約と同一の労働条件でその申込みを承諾したものとみなされます。
この客観的合理的理由と社会的相当性は、上記規定例の第3項の判断基準に形式的に該当するかどうかではなく、具体的な雇用関係の実態に照らして実質的に判断されます。
第二に、通算5年を超える契約期間となった場合には、労働契約法18条により、無期契約への転換が認められ得るということにも留意すべきです。
同条の無期転換制度は、平成25年(2013年)4月1日より施行され、それ以後の日が初日である有期労働契約に適用されるため、平成30年(2018年)4月1日以降は、労働者が無期転換申込権を行使することが可能となっています。
この無期転換申込権を発生させないようにするためには、就業規則や雇用契約書において、契約期間が通算して5年を超えないように、更新の上限規制を設けておくことが必要です(上記規定例の第2項ただし書)。
就業場所
第2条(就業場所)
就業場所は、本社(○○県○○市○○)とする。ただし、勤務地を限定するものではなく、配置転換、出向等により変更する場合がある。
就業場所については、雇用契約締結時の勤務地を規定します。
使用者には、就業規則等により、労働者に対して配転命令を出す権利が認められますが、労働者との間で勤務地を限定する合意をした場合には、配転命令権が認められません。就業場所の記載が勤務地限定の合意を意味するものでない場合には、誤解を招かないよう、上記規定例のただし書のような文言を入れておくべきです。
テレワークの場合
第2条(就業場所)
1 就業場所は、本社(○○県○○市○○)とする。ただし、勤務地を限定するものではなく、配置転換、出向等により変更する場合がある。
2 前項の規定にかかわらず、甲は、乙に対し、乙の自宅又は甲が指定若しくは許可した場所において勤務することを命じることができる。
令和2年(2020年)以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、労働者が自宅や本来の就業場所以外の場所でパソコン等の情報通信技術を利用して業務に従事するテレワークの導入が進んでいます。上記規定例の第2項は、テレワークを認める場合の就業場所に関する規定です。
テレワークを導入する場合、会社の秘密情報の漏えいやインターネット上のセキュリティ、通信費の負担、労働時間の管理方法、人事評価の方法など、様々な問題が想定されます。これらの問題について規律するため、テレワーク勤務規程といった形で就業規則を整備する必要があります。
テレワークの導入に関わる留意点や就業規則(テレワーク勤務規程)の例については、厚生労働省が「テレワーク総合ポータルサイト」を設けており、参考になります。
当初、テレワークで会社に現実に出勤しない従業員の労働時間の管理をどのようにするかが問題となりましたが、通常の労働時間制を維持しつつ、電子メールやインターネット上の労務管理システムを利用して、従業員の始業時刻・終業時刻や業務状況を把握するという方法が普及してきているように思います。また、次回解説するフレックスタイム制(労働基準法32条の3)や事業場外みなし労働時間制(同法38条の2)を活用して、労働時間を柔軟に調整することも考えられます。
業務内容
第3条(業務内容)
業務内容は、営業及びこれに付随する業務全般とする。ただし、職種を限定するものではなく、配置転換、出向等により変更する場合がある。
業務内容も、就業場所と同様に、雇用契約締結時の職種を規定します。この場合も、使用者による将来の配転命令権の妨げにならないよう、職種限定の合意をした場合でない限り、上記規定例のただし書のような文言を入れておくべきです。
次回は、労働時間の規定を中心として、具体的な契約条項に関する解説を続けます。
(第15回・以上)