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[コンプライアンス] 第6話:下請法に注意せよ

[コンプライアンス] 第6話:下請法に注意せよ

この記事の著者
永世綜合法律事務所  弁護士 

第6話:下請法に注意せよ

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

社長、ちょっと確認したいことがあるのですがよろしいでしょうか。

ベンチャー企業の社長

ええもちろんです、先生、何かありましたか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

御社の総務部の方から、下請けとの契約書をちょっと見てほしいと言われてリーガルチェックをしているのですが、いくつか気になった点があったので、確認しようかと思いましてお電話いたしました。総務部に聞いたところ、社長に直接聞いてほしいとお願いされたもので・・・

ベンチャー企業の社長

もちろん構いませんよ。それでどうしましたか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

まず、この契約書ですと、下請代金の入金時期が明らかにされていませんね。これだと下請業者側からすると、どの段階で下請代金が受領できるのかが不明確なので、きちっと示す必要があります。

ベンチャー企業の社長

今まで完成品を当社で検査して、検査後約1週間程度で下請業者には振り込んでいるから大丈夫だと思いますよ。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

これまではそれで通ってきたかもしれませんが、実は法律で支払時期を明確にするようにと求められているのです。やはり親と子の関係にあると、子は親に支払時期を明確にせよ、なんてことは言えませんよね。ですから、給付を受領した日か、または、下請業者が役務の提供をした日から60日以内のできる限り短い期間内で定めなければいけないと決められています。これは下請代金支払遅延等防止法の2条の2という条文で定められています(以下「下請法」という。)。

(下請代金の支払期日)

第二条の二 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
2 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。

ベンチャー企業の社長

本当だ。全く知りませんでした。では、私が以前勤めていた会社が使っていたように、「検査をして検査合格をしてから1ヶ月以内に支払う」という風に修正したいと思います。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

それもだめなんです。先程の条文をよむと、「給付を受領した日から」となっていますよね。検査や検査合格を条件にしてはいけないのです。その点を明確にするために「検査をするかどうかを問わず」とも明確にされています。なぜなら、検査を条件とすると、親事業者が意図的に検査を遅らせたりすることで、支払時期をいくらでも延ばすことができてしまいます。そのような親事業者の有する優越的な地位を背景として不当な対応ができないようにするのが、この法律の目的ですから、給付を受領した日から60日以内と決められているのです。しかも、60日ギリギリならいいのかといえばそうではなく、「できる限り短い期間内において」と更に厳しくなっていますので注意してください。御社の場合は、現在の契約書ですと支払期日が決められていないから、2項前段により、親事業者が下請事業者から給付を受領した日が支払期日になってしまうので、受領したら即支払うことが必要になってしまうのです。

ベンチャー企業の社長

え!それは大変だ!すぐに総務部に修正するように命じておきます。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

ちなみに、「給付を受領した日」というのは、現実に物を受け取った日のことをいうのであって、所有権を移転した日と必ずしも重なるわけではありません。所有権はまだ移転していないから、受領には当たらない、という弁解は通らないので注意してください。

ベンチャー企業の社長

たとえば、当社の顧客へ直接納品させるような場合は、「給付を受領した日」はいつになるのですか。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

その場合は、納品先が受け取った日が、「給付を受領した日」となります。ですから、納品されたかどうかをきちんと納品先には親事業者も確認して、その日を記録しておく事が必要です。ところで、契約書面は作成されているようですので大丈夫だとは思いますが、親事業者の下請業者に対する書面の交付義務も定められていますので(下請法3条)、こちらも守ってくださいね。この書面の交付義務に違反してしまうと、親事業者の代表者らが50万円以下の罰金となる場合があります(下請法10条1号)。

(書面の交付等)

第三条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
2 親事業者は、・・・略・・・

(罰則)

第十条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項の規定による書面を交付しなかつたとき。
二 第五条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

遅延利息の支払い義務も厳しく定められていますよ。遅延利息は、親事業者が支払期日に支払わなかった場合に支払うものなので、下請事業者からすればできるだけ高い利率がよく、親事業者からすれば低い利率がいいわけです。そうすると自然と力関係からして、親事業者の希望する低い利率で下請事業者は合意せざるを得なくなってくるでしょう。下請法4条の2における「公正取引委員会規則で定める率」は14.6%と定められています(下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則[1])。この利率よりも低い利率で当事者間で合意していても、14.6%が適用されてしまいますので、下請けへの支払いは遅延しないようにしてくださいね。

(遅延利息)

第四条の二 親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して六十日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

ベンチャー企業の社長

このような下請法違反があった場合はどうなるのですか?

法律事務所BIZの熊谷弁護士
弁護士

下請法9条に規定がありますが、取引を公正ならしめる必要があるときは、公正取引委員会は、親事業者や下請事業者に対して、取引に関する報告をさせたり、事業所への立入りをして帳簿書類等の検査をしたりする調査権限があります。この調査を拒んだりすると50万円以下の罰金になる(下請法11条、12条)ので、調査票が届いた場合は会社としては慎重な対応が必要になります。

(報告及び検査)

第九条 公正取引委員会は、親事業者の下請事業者に対する製造委託等に関する取引(以下単に「取引」という。)を公正ならしめるため必要があると認めるときは、親事業者若しくは下請事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に親事業者若しくは下請事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 ・・・以下略・・・

第十一条 第九条第一項から第三項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、五十万円以下の罰金に処する。

第十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。

ベンチャー企業の社長

ありがとうございます。調査票が来た際には、また先生にご相談させていただきます。

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著者プロフィール

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早乙女 宜宏

永世綜合法律事務所 弁護士

早稲田大学法学部卒業後、日本大学大学院法務研究科卒業。
顧問先等の企業法務に関する相談を多く受ける一方で、日本大学大学院法務研究科にて、刑事系科目(刑法・刑事訴訟法)の教鞭をとる。その他、警察大学校等の公的機関で講義をするなど教育業務も多い。また、スマートフォン向け六法アプリ、And六法の開発も行う。

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