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ガバナンスとは? 意味やコンプライアンスとの違い、強化方法をわかりやすく解説

監修者:弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士  上米良 大輔

ガバナンスとは? 意味やコンプライアンスとの違い、強化方法をわかりやすく解説

企業が抱える情報の多様化や重要性の向上に伴い、「ガバナンス」の強化は必須となっています。

ガバナンスとは社内の不正・不祥事を防ぐために構築する、組織行動を制御するための仕組みです。その取り組み方により、自社の評価が上がる、労働環境が改善される、財務・経営体制が強化されるといったことも期待されるため、取り組んで損はないでしょう。

ガバナンスの必要性や、強化のためにできる方法などを解説します。


ガバナンスとは

ガバナンスとは、社内の不正・不祥事防止のための対策の一つで、情報化が進む今日で重視されるようになってきています。言葉の意味とともに、必要性について知っておきましょう。

ガバナンスの意味

「ガバナンス」とは、直訳すると「統治・統制すること」「支配・管理」といった意味があります。

ビジネスシーンにおいては、社内の不正・不祥事を防ぐために行う、組織行動を制御するための仕組みを指します。

ガバナンスの必要性

ガバナンスの重要性が叫ばれる背景には、企業が抱えている一つひとつの情報の重要性が増したことが考えられます。たとえば、企業が抱えている情報には以下のようなものがあります。

  • 自社の顧客のデータ
  • 自社の財務・人事などの情報
  • 企業秘密
  • 原材料の仕入価格

こうした情報が漏えいしてしまうと、自社の経営に大きな影響を及ぼしかねません。

また、「情報管理が徹底されていない」というイメージが定着してしまい、外部の企業からの信頼が低下する可能性もあります。

そうしたさまざまなリスクに備えるために、ガバナンス強化が求められているのです。

上場企業に求められる「コーポレートガバナンス・コード」

「コーポレートガバナンス」とは、株主や従業員、顧客などの権利を尊重し、そのために公正かつ透明な意思決定をするための仕組みのことです。

そして、上場企業のコーポレートガバナンスにおいて参照すべき原則・指針を示したガイドラインとして定められたのが、「コーポレートガバナンス・コード」です。

コーポレートガバナンス・コードの5つの原則

コーポレートガバナンス・コードは2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で原案を発表し、2018年と2021年に改訂されました。2024年2月現在、以下の5つが基本原則として定められています。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~

企業に求められる対応

コーポレートガバナンス・コードはあくまでも原案であるため、詳細をどう定めるかは各企業に委ねられています。法律とは異なり、企業に守る義務が課されているわけではなく、守らない場合はその理由を説明すればよいのです。

ただし、自社のコーポレートガバナンスの状況を取りまとめた「コーポレートガバナンスに関する報告書」の提出は義務となっています。

また、昨今では上場企業のみならず、中小企業でも活用されるケースがあります。


ガバナンス体制が整うメリット

社内のガバナンス体制が整うことで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 企業価値と信頼性の向上
  • 労働環境の改善
  • 財務・経営体制の強化
  • 長期的な企業成長に直結

それぞれについて、詳しく解説します。

企業価値と信頼性の向上

ガバナンスを強化することはすなわち、自社の経営リスクに真摯に向き合い、その発生防止に努める姿勢を見せることでもあります。

こうしたことから、自社に対する評価や信頼性が高まる可能性があります。ガバナンス強化に努める企業として、知名度や認知度も向上するかもしれません。

労働環境の改善

ガバナンス強化に取り組むことで、自然と自社の労働環境も改善できます。社内での不正・不祥事を防ごうと思うと、たとえば以下のような対策を取ることになります。

  • 不適切な対応・処理ができる、業務上の「抜け穴」をなくす
  • 従業員の監視・管理を徹底し、ハラスメントが起こらないようにする
  • 社内のデータにアクセス権限を設ける

こうした対策を取ることは、業務フローを見直して「ムリ・ムダ」を減らすことにもつながります。
その結果、従業員がさらに働きやすい環境に近づき、従業員の愛社精神も醸成されるかもしれません。

財務・経営体制の強化

ガバナンス強化に取り組んでいる企業に対して、信頼を寄せるステークホルダーも多いものです。その結果、積極的な出資を受けられたり、融資を受けやすくなったりすることもあるでしょう。

また、ガバナンス強化の一環で財務状況の可視化をすれば、それだけで顧客からの信頼性も高まるものです。新規の取引先との契約を交わす場合も、円滑に進むことが期待できます。

長期的な企業成長に直結

ガバナンス強化をすることで組織が活性化すれば、自社の収益力・成長力・競争力もアップします。「見込みのある企業だ」とみなされ、金融機関や投資家からの支援も受けやすくなるでしょう。

特に収益力が高まることで雇用が安定し、従業員一人一人が能力を発揮しやすくなります。
その結果、生産性も向上し、また収益力や成長力・競争力も上がるという、よい循環が生まれるでしょう。


ガバナンスが弱いと起こり得るリスク

もし自社のガバナンスが十分でない場合、大きく次の2つのリスクにさらされることになります。

  • 様々な不祥事の発生
  • グローバル化の遅滞

こうした事態が起こると、信頼回復や軌道修正に多大な時間と手間がかかります。発生を未然に防ぐためにも、これらの事態から生じるリスクを詳しく知っておきましょう。

様々な不祥事の発生

ガバナンスが十分でないと、自社が法令違反をしてしまう、従業員が不正行為に手を染めるといった様々な不祥事が起こる可能性が高まります。

その結果、罰金を支払うことになったり、訴訟を起こされたりする頻度が増えるかもしれません。

経営不振に陥ってしまえば、最悪の場合は倒産するリスクもはらみます。

たとえ1回の罰金刑や訴訟の内容が些末なものであっても、対外的な評価は低下します。本来であれば得られたはずのビジネスチャンスも、逃してしまうかもしれません。

グローバル化の遅滞

海外市場に進出したいと考える場合の、足かせにもなる可能性があります。

国内市場の飽和や経済成長の低迷から、海外市場に目を向ける企業も多いでしょう。しかし、海外市場は国内市場を上回る成長を見せており、各企業の価値観や文化も日本とは大きく異なります。

ガバナンスが不十分なままでは、健全かつ透明な企業経営ができず、ほかの企業と競争することもままならないケースもあります。結果的に、海外進出をした意義が見いだせなくなるかもしれません。


ガバナンスと混同しやすい言葉の意味と違い

「ガバナンス」には、以下のように字面や響きが似た言葉も多々あります。

  • コンプライアンス
  • リスクマネジメント
  • 内部統制
  • ガバメント

ガバナンスと関連するものもあれば、意味が全く異なるものもあるため、混同しないよう注意してください。

コンプライアンス

「コンプライアンス」とは、直訳すると「法令遵守」です。企業が法令や社会規範、企業倫理などを守ることを指します。

コンプライアンスとガバナンスとは、企業の管理体制であるガバナンスを強化・整備することでコンプライアンスが強化される、という関係に立ちます。ガバナンスとコンプライアンスは、関連性の高いものだといえるでしょう。

リスクマネジメント

「リスクマネジメント」は、企業活動に伴って発生するさまざまなリスクを最小限に抑えるための、企業運営の方法です。リスクマネジメントの例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 新規の取引先の反社チェックを行う
  • 取引先に合わせた与信限度額を設定する
  • 地震・火災などによるオフィスの倒壊に備えた対策を講じる

リスクマネジメントを行うことはガバナンス強化に資するといえます。

内部統制

内部統制とは、不祥事を防ぎ、業務を遂行するために整える社内体制やルールなどのことです。会社法上、以下の6つのシステムからなるとされています。

  1. コンプライアンス体制
  2. 取締役などの職務の執行に関する情報の保存と管理の体制
  3. リスクマネジメント体制
  4. 取締役などの職務の執行が効率的に行われることを確保する体制
  5. グループ会社の業務の適正確保に関する体制
  6. 監査機関の職務の執行に関する体制(監査機関のない会社については、取締役から株主への報告体制)

ガバナンスは、主に株主やステークホルダーの利益を守ることを目的に行います。

一方、内部統制は主に従業員を対象にしたものです。しかし内部統制を整備することは、結果的に社内の不祥事を防ぐことにつながります。

そのため内部統制も、ガバナンスの1つの要素だと考えられます。

ガバメント

「ガバメント(government)」とは、「政治・政府」といった意味の英単語です。言語としては関連する関係にあり、一見すると「ガバナンス(governance)」と似た言葉のようですが、法律上の意味としては特に関連性はありません。誤用しないよう、注意してください。


ガバナンス強化への取り組み方

自社のガバナンス強化に努めたい場合、方法としては大きく以下の3つが考えられます。

  • 内部統制の構築と強化
  • 監査体制の整備
  • コーポレートガバナンスの浸透

内部統制の構築と強化

まずは自社の内部統制を強化するとよいでしょう。

内部統制を強化することは、ガバナンス強化にもつながります。そもそも内部統制が十分ではないと感じる場合は、まずその構築から取りかかることをおすすめします。

ただし内部統制は構築・強化するだけでは、効果が見込めません。経営者や従業員が一丸となって、法令や社内ルールなどの遵守に努める必要があります。そのためにも、内部統制の内容は積極的に社内に共有し、全従業員に浸透させましょう。

監査体制の整備

ガバナンス強化のためにより経営の透明性を向上させるならば、社外の専門人材を自社の社外監査役または社外取締役とすることも良いでしょう。

外部の人材を配置することで、自社の従業員だけでは発見・改善ができない不透明なルールや業務プロセスにも対処できるようになります。

どんな人材が社外監査役・社外取締役に適しているかは、以下の記事で詳しく解説しています。

コーポレートガバナンスの浸透

自社のコーポレートガバナンスを、社内全体に浸透させることも不可欠です。

コーポレートガバナンスは、株主や顧客のみならず、従業員の権利を尊重するためにも必要なものです。

従業員一人一人が「自分にも関係のあることだ」と理解して日々の業務中に意識できれば、業務プロセスの改善が望めるでしょう。

ただし、内容を上層部から一方的に伝えるだけでは不十分です。なぜ現在のコーポレートガバナンスになっているのか、それがガバナンス強化にどう繋がるのかなどとともに伝え、従業員が理解しやすいよう努めてください。


ガバナンスについてまとめ

社内で多数の情報を収集・管理するシーンが増えていることもあり、ガバナンス強化の重要性は増す一方です。

ガバナンス強化のためにさまざまな施策を行うことで業務効率が上がる、自社の評判がよくなる、株価が上がるといった効果にも期待できるため、ぜひ積極的に取り組みましょう。

ただしガバナンスは上層部だけで決定して従業員に一方的に伝えるだけでは、思うように浸透しないものです。

なぜその内容になったのか、どう重要なのかなども併せて周知し、従業員一丸となってガバナンス強化に取り組める土壌を醸成しましょう。


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監修者プロフィール

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上米良 大輔

弁護士法人山本特許法律事務所 パートナー弁護士

2009年弁護士登録。大阪市内の法律事務所を経て、2012年にオムロン株式会社に社内弁護士第1号として入社、以降約7年にわたり企業内弁護士として、国内外の案件を広く担当した。特にうち5年は健康医療機器事業を行うオムロンヘルスケア株式会社に出向し、薬事・ヘルスケア規制分野の業務も多数経験した。

2019年、海外の知的財産権対応を強みとする山本特許法律事務所入所、2021年、弁護士法人化と共にパートナー就任。知的財産権案件、薬事規制案件を中心に、国内外の案件を広く取り扱う。

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