社内公募とは? メリット・デメリットや企業が気をつけることについて
社内公募は、従業員のキャリア自律を促進するための人事施策として注目されている制度です。
導入している企業も多いですが、実施するにあたっての注意点・デメリットもあるので注意が必要です。
この記事では、社内公募の概要から、メリット・デメリット、注意点などを解説します。
社内公募とは
社内公募とは、人材を必要とする部署が社内で募集をかけ、応募してきた人の中から選抜する人事異動制度です。
人事異動は会社から命じられるのが一般的ですが、社内公募は従業員が自ら異動を希望するという点で違いがあります。
通常業務を行う人材が不足した場合に実施されるほか、短期的なプロジェクトや、海外での勤務を必要とする業務の人材確保を目的として行われることもあります。
候補者と面接を行い、最終的に異動させる従業員を決定する流れは、通常の人材採用と同じです。
制度が注目される理由
社内公募制度が注目されている理由として、若手社員を中心に仕事に対する価値観が多様化していることや、それに伴って企業のあり方も変化していることが考えられます。
今後、ますます進む少子高齢化による労働人口の減少を見据え、各企業では人材の確保に苦心しています。加えて、学卒者の入社3年以内の離職率は、平成以降変わらず、大卒で3割前後、高卒で4割前後の推移です。
また、内閣府が平成29年に行った「就労等に関する若者の意識調査」によると、転職を否定的に捉える若者が少なくなり、企業の賃金や労働条件、安定性よりも「自分の能力や適性に合わない職場なら転職をする」という考え方が、「転職は絶対すべきでない」という考え方を、はるかに上回っていることがわかっています。
このような状況を踏まえたうえで、優秀な人材の流失を防ぎ、仕事への満足度を高めるためには、若手社員のキャリアアップやスキルアップのための支援制度が必要です。社内公募制度は、その一つとして注目されています。
参考: 学歴別就職後3年以内の離職率の推移
参考:特集 就労等に関する若者の意識|平成30年版子供・若者白書 - 内閣府
混同しやすい制度との違い
社内公募と混同しやすい制度として、以下の2つがあります。
- 自己申告制度
- 社内FA制度
それぞれの違いを見ていきましょう。
自己申告制度
自己申告制度とは、従業員が自身の業務経験やスキル、異動の希望などを人事部に申告する制度のことです。
申告された内容は、人事部が異動案を作成する際などに用いられます。
社内公募との違いは、実際に異動が検討されるとは限らない点です。
社内公募は、特定のポストへ異動を希望したい人を社内から幅広く募り、選考が行われます。合否についても、本人に通知があるのが特徴です。
一方の自己申告制度は、人事異動の参考にするために情報を集めることを目的としています。そのため、実際に異動が検討されたかどうかは、従業員にはわかりません。
社内FA制度
社内FA(フリー・エージェント)制度とは、従業員が自らの経歴や今後異動したい部署などを人事部に申告する制度です。
現部署での勤続年数や評価結果といった、一定の条件を満たした従業員に対してFA権が付与されます。
社内公募は、人材を必要とする部署が主体となって行われますが、FA制度の場合は従業員が主体となり、希望の部署に自ら売り込みをかけて人事異動を勝ち取ります。
自分次第でその後の社内におけるキャリアを、大きく変えられるのがメリットです。
社内公募制度を導入するメリット5つ
ここでは、企業が社内公募制度を導入するメリットを5つ解説します。
- 人材の流出防止につながる
- 採用コストを削減できる
- 職場環境が改善される
- 従業員のモチベーションが向上する
- イノベーションの創出が促進される
それぞれ見ていきましょう。
人材の流出防止につながる
社内公募は、会社による半強制的な人事異動とは異なり、従業員が自らの意志で異動を希望します。
社内で自分の求める労働環境を創出する機会が生まれ、退職することなく希望のキャリアを形成できるため、企業にとっては優秀な人材の流出防止につながるでしょう。
採用コストを削減できる
一般的な採用コストには、求人広告や人材紹介会社への依頼にかかるコストなどがあります。
社内公募の場合は、社内の人材を活用することができるため、それらのコストが一切かかりません。
職場環境が改善される
社内公募制度では、異動先の部署の雰囲気や上司のマネジメント力など、公募されている部署に関する情報をある程度把握できます。
優秀な人材に応募してもらい、その人材が他部署に流出しないよう、社内公募をきっかけに管理職を中心とした職場環境の改善が進むこともメリットの一つです。
従業員のモチベーションが向上する
会社に命じられる部署異動とは異なり、社内公募は従業員の意志によって実現するものです。
自分で希望した部署で興味のある仕事をすることで、従業員のモチベーション向上やスキルアップにつながります。
イノベーションの創出が促進される
社内公募によって部署間で人材の交流が活性化し、新たなアイデアやイノベーションの創出につながることが期待できます。
社内公募制度を活用する従業員が増えることで人材の活用が促進され、企業全体の生産性向上も期待できるでしょう。
社内公募制度の導入によるデメリット5つ
続いて、社内公募制度の導入によるデメリットも見ていきましょう。
- 人事部の負担が増加する
- 不合格者のモチベーションが低下する
- 組織内の人間関係が悪化する懸念がある
- 異動元部署の生産性が低下する
- 人事戦略の全体最適化が難しくなる
それぞれ解説します。
人事部の負担が増加する
人事部の負担が増加することは、社内公募制度の導入で懸念すべき事項の1つです。
通常、人事異動は中長期的な人事戦略に基づいて定期的に行われますが、社内公募は不定期に発生し、その度に人事部が個別に調整を行う必要があります。
また、それまでにはなかった人材の動きが発生することから、人事評価制度の見直しが必要になるかもしれません。
不合格者のモチベーションが低下する
社内公募は、人材を必要とする部署と希望者のニーズが一致してはじめて実現します。
なかには異動が叶わず、目の前の仕事に対するモチベーションが低下してしまう従業員が出てくるでしょう。
希望が叶わなかった従業員に対して代替案を用意するなど、適切なアフターケアが必要です。
組織内の人間関係が悪化する懸念がある
異動の希望を出すことに対して、現部署の上司や同僚がよく思わないことも考えられます。
社内公募を利用する従業員が、今後のキャリア形成や、スキルアップなどの目的があって制度を利用することを、社内で十分に周知する必要があります。
異動元部署の生産性が低下する
異動によって従業員が抜けた部署に人材が補充されなかった場合、残る従業員の業務負担が増加し、モチベーションや生産性の低下につながる可能性が生じます。
異動が生じることによって残る部署の従業員負担が増えないよう、考慮した社内体制を引くことが大切です。
人事戦略の全体最適化が難しくなる
社内公募制度によって、個人が希望のポストに就けたとしても、それが必ずしも組織全体の最適化につながるとは限りません。
通常の人事異動は人事戦略に基づいて実施されますが、社内公募は特定の部署や従業員の部分最適化に過ぎず、全社的な人事戦略の最適化は難しくなるでしょう。
社内公募制度の流れ
ここでは、社内公募制度の流れを、導入までと導入後に分けて解説します。
導入する流れ
社内公募制度の導入は、目的を明確にすることから始めましょう。
それによって、制度設計の軸が定まりやすくなります。目的が定まったら、「採用コストを〇%削減する」「離職率を〇%に下げる」など、効果測定が可能な目標を設定しましょう。
続いて、具体的な制度設計に移ります。
- 公募の対象となる職種や人数
- 公募期間
- 応募資格・条件
- 応募方法
- 選考手順
- 採用基準
- 問題が発生した場合の対処方法
公募するポストに関する情報は幅広く社内で告知し、応募しやすいフローを構築するとよいでしょう。
異動の希望があっても、上司や同僚に知られたくないなどの理由から、従業員が応募をためらうことも想定されるので、上司を通さずに直接応募できるよう工夫します。
社内公募のプロセスで問題が起きた場合の対処方法も、決めておくとスムーズです。
導入後の流れ
社内公募制度の導入後に公募を行う流れは、次のようになります。
- 対象となるポストの収集
- 公募要項の作成
- 説明会の開催
- 募集要項の開示
- 募集受付
- 選考
- 選考結果の通知
- 引き継ぎなどの調整
- 異動
まずは、社内公募の対象となるポストを収集します。人材を必要とする部署が、募集するポストを人事部に申告する流れが一般的です。
人事部は、その情報をもとに公募要項を作成します。応募資格や応募方法、選考プロセス、応募締切などをわかりやすくまとめましょう。
公募要項がまとまったら、全社員を対象に社内公募制度の説明会を開き、理解を得ることが必要です。
そのうえで、人事部から各部署に情報を開示する形で、社内公募を開始します。
社内公募では、志望動機や、異動先で活かせるスキル・経験などを応募者が入力するためのフォーマットを用意しておくと、選考がスムーズです。問い合わせ先もあわせて記載しましょう。
選考のフェーズでは、まず応募者が募集要件に合っているかどうかを審査し、要件に合致した応募者に対して面接を行います。面接は、人事担当者もしくは募集するポストの部署の管理職が担当することが多いでしょう。
面接が完了したら、応募者に対して選考結果を通知します。異動決定者には、異動までのフローもあわせて通知するとスムーズです。
その後、引き継ぎや異動先の部署との調整を行い、異動する流れになります。
社内公募制度の導入で企業が気をつけること
ここでは、社内公募制度の導入で、企業が気をつけることを解説します。
社内への周知を徹底する
社内公募は、従業員の理解を得ることでうまく機能するようになります。
制度の導入前に説明会を開くなどして、社内への周知を徹底することを心がけましょう。
理解が得られないと、社内公募を利用した従業員が、今の部署に不満を持って異動を希望していると捉えられる可能性があります。
制度をポジティブに受け入れてもらえるよう、工夫することが重要です。
制度のルールを設定する
社内公募に応募できる従業員の条件は、明確に定めましょう。
必要とするスキルや在籍年数、職位などを絞ることで、人材を必要とする部署のニーズに合った従業員が見つかりやすくなります。
また、現在の部署に対する不満から、社内公募を利用した安易な異動につながらないようにするためにも、応募条件の詳細を決めておくことは必要です。
応募者情報の遵守
応募者情報の扱いには、細心の注意を払いましょう。
現部署の上司や同僚に、社内公募に応募していることがわかってしまうと、その後の人間関係に悪影響が生じる可能性があります。
特に、選外になった従業員は引き続き同じ部署で仕事をすることになり、気まずい思いをする可能性があります。
仕事に支障が出ることも考えられるため、応募者に関する情報は、選考に関わる人以外に漏れないように厳重に管理する必要があります。
フォローアップを欠かさない
社内公募によって従業員が異動したあとは、フォローアップを欠かさないようにしましょう。
本人や異動先の上司とのコミュニケーションを通じて、新しい環境に馴染めるようサポートします。
また、選外になった従業員に対しても、選考後にフィードバックやキャリア相談に応じるなどして、モチベーションが低下しないようフォローすることも必要でしょう。
社内公募についてのまとめ
社内公募制度は、人材を必要とする部署が社内で募集をかけ、応募してきた人の中から選抜する人事異動制度です。
従業員が希望に合ったポジションに就くことでモチベーションが上がり、離職率の低下が期待できるだけでなく、企業全体の活性化にもつながります。
一方で、制度の導入によって人事部の負担が増え、進め方によっては社内の人間関係が悪化する可能性があるなど、デメリットも存在します。
導入の仕方や制度運用の方法に十分注意しながら活用しましょう。