事業場外みなし労働時間制とは? 適用要件やテレワーク・残業代などの扱いを解説!
事業所外で働く人々に対して、事業場外みなし労働時間制という制度があります。
使用者が監督指揮できないと、正確な労働時間の算定が難しいため、所定労働時間分を労働とみなせる制度です。
労働時間の算出時に便利な制度ですが、条件や注意点もありますので、正しい知識を得なければなりません。
この記事では、事業場外みなし労働時間制の概要や適用要件、メリットなどを解説します。
また、この記事の後半部分では、事業場外みなし労働時間制を導入する際のポイントをまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
事業場外みなし労働時間制とは
事業場外みなし労働時間制は、労働者が社外業務が難しい場合において、事前に決めた時間を労働時間とする制度です。例えば、8時間労働の場合、社外活動に関わらず8時間とみなされます。
事業場外みなし労働時間制は、労働時間の計算が簡略化するため、経理などの社員の負担を減らせるでしょう。
使用者による労働時間管理は義務化されていますが、この制度は例外ケースといえます。
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事業場外みなし労働時間制を導入するためには、次の2つの適用要件を満たさなければなりません。
- 労働者がすべて、もしくは一部の労働時間に、事業場外で業務に従事すること
- 労働時間の算出が困難であること
事業場外で仕事していたとしても、労働時間の算出が困難でなければ、制度を導入できない可能性があります。
事業場外で働いても、次のようなケースでは制度が適用されません。
- 複数の労働者が事業場外で働くとき、労働時間の管理者が含まれている場合
- 携帯電話などで使用者が適宜指示を出しており、業務の進捗状況がもわかる場合
- 事業場外で働く日に具体的な指示を事業場で出していて、その労働者が指示に基づいて働き、事業場に戻る場合
また、日報や出退勤のカードの記録などを用いて、労働時間がわかる場合でも、事業場外労働みなし労働時間制を適用できません。
事業場外みなし労働時間制の導入の手続き
事業場外みなし労働時間制を導入する際の、手続きをまとめました。
就業規則の変更
事業場外みなし労働時間制は、事業場外で労働し使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難である場合に、規定された時間労働したものとみなす制度です。
就業規則においても、上記の内容に該当する業務を行っている場合においては、規定した時間労働したものとみなすことを規定し、周知する必要があります。
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労働時間の一部を事業場外で労働した場合においても、労使協定の締結が必要です。さらに、具体的な業務の範囲と対象となる労働者、労働したものとみなす労働時間数などを定める必要があります。
また、労使協定は、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。ただし、協定で定める時間が、法定労働時間以下である場合は、届出は不要となります。
法定労働時間とは、1日8時間1週間40時間以上のことです。
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事業場外みなし労働時間制を導入するメリットとデメリットを紹介します。
ぜひ参考にしてください。
利点・メリット2つ
事業場外みなし労働時間制のメリットは、労働時間と合致した賃金を支払えることと、従業員の業務効率化を狙える点です。
労働時間に合った賃金を支払える
みなし労働時間制においては、所定労働時間の範囲内であれば、その労働時間分の賃金が支払われます。
所定労働時間を超える場合であっても、超える時間数がその業務の遂行に必要とされる時間であれば、その時間を労働したものとして賃金が支払われるのが特徴です。
従業員の業務の効率アップを狙える
事業場外みなし労働時間制では、事業場外で行われる業務があらかじめ決められた時間労働したものとみなされます。
つまり、業務時間が予定よりも早く終わった場合であっても、決められた時間を労働したとされます。
従業員からすると、所定の業務について早く終わらせればその分だけ時間に余裕ができ、同じ賃金が支払われるわけですので、積極的に業務効率を上げようと試みるでしょう。
問題点・デメリット2つ
事業場外みなし労働時間制のデメリットは、サービス残業が発生しやすい点と、要件を適さないまま採用している点です。
サービス残業が生じやすい
事業場外みなし労働時間制は、あらかじめ定めた時間数だけ働いたものとされます。業務が定められた時間に終わらなかったとしても、その定められた時間に業務が終わったものとみなされるのです。
要するに、残業分の賃金が発生しないことになります。
この制度を逆手に取って、事業主が従業員に不当なサービス残業を強いるといった問題が、現在でも多発しています。
要件を適さないまま採用している
事業場外皆労働時間制を採用するための要件は、主に次のようなものがあります。
- 事業主の指揮監督が及ばない
- 労働時間の算定が困難であること
事業場外で業務をしていたとしても、事業主からの指示を受けて行っている場合は、要件を満たさないことになる恐れがあります。
事業場外みなし労働時間制を導入する際のポイント
事業場外みなし労働時間制を導入する際のポイントをまとめました。
それぞれ詳しく解説します。
残業代
所定時間を働いたとみなされる事業場外みなし労働時間制では、原則として残業代を支払わなくてもよいです。従業員が残業した事実を証明しても、残業代の支払いは不要です。
ただし、次のようなケースは例外です、
例えば、8時間の所定労働時間のうち、仕事が終わる平均が10時間の場合は、法定労働時間を超えた2時間分の残業代を、労働者に支払わなければなりません。
また、事業場内の業務と、事業場外みなし労働時間制の対象となる業務を両立している場合も、残業代が生じます。
事業場外みなし労働時間制の部分について労使協定を締結しておくことで、あらかじめ定められた事業場外の労働時間と、事業場内の労働時間を合わせた時間が労働時間とするとされています。
そのため、合計して法定労働時間を超える場合は、事業場内出の業務の時間外労働が発生したものとして、割増賃金の支払いが必要になるでしょう。
(出典:労働基準法 第38条の2第1項)
(出典:昭63.3.14基発150号)
労働時間
事業場外労働みなし労働時間制は、所定労働時間を働いたとみなすのが特徴です。
所定労働時間とは、企業が就業規則などで定めた働く時間のことです。
実際に働いた時間が7時間や9時間であっても、事業場外みなし労働時間制においては、1日8時間働いたとして処理されます。
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労働基準法による「労働時間」の定義とは? 上限やトラブル事例を解説テレワークでの適用
事業場外で働くテレワークでは、労働時間を算出するのが困難かどうかが、事業場外労働みなし労働時間制が適用されるかどうかのポイントです。
しかし、インターネットを用いるデスク業務が多いテレワークでは、次のような理由から制度を導入しにくいでしょう。
- スマートフォンやパソコンなどで、使用者と連絡が取れる状況
- 電話やメールなどで使用者が具体的な指示を送れる
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テレワーク時の労務管理(時間管理)事業場外みなし労働時間制についてのまとめ
事業場外みなし労働時間制は、社外の労働時間管理を免れると思われがちです。しかし、実際は導入のハードルが高く、職種も限定される側面が強いでしょう。
導入後も労働者の管理は怠らず、適用基準の確認や運用計画の検討が重要です。