Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 第11回「表見代理に関する規定の改正①」
Q1:Yは、知人Aから営業成績が伸びずに悩んでいると相談を受けました。Yは、業界で著名なXにAを紹介し、Aがビジネスマンとして成長した人物であるとXに思わせ、Xから業界内でAを引き立ててもらって、Aの営業成績が上がるようにしてもらおうと考えました。 そこで、Yは、XにAを紹介する際、「Aは仕事もてきぱきできるから、この店の仕入れは全部Aに任せているんです」と述べました。もっとも、Yは実際にはAに対して仕入れの代理権は与えていませんでした。 しかし後日、Aが、Yの代理人といって、Xのもとに商品を買い入れに来ました。Xは、Aが仕入れの代理権をもっていると考えて商品を売りました。 その代金をXはYに請求できるでしょうか。 |
A1:改正民法によれば、表見代理に当たり、XはYの責任を追及することができますが、Xが、Aが代理権を与えられていない無権代理人であるということを知り、または過失によって知らなかったときは、Yはその行為について責任を負いません。 |
1.改正のポイント
令和2(2020)年4月1日から債権法を改正する改正民法が施行されています。
前回の「利益相反行為に関する規定の改正」に引き続き、本稿では表見代理に関する規定の改正について取り上げます。
2.改正点の解説
表見代理のうち、民法109条と民法110条のいわゆる重畳適用に関する明文の規定を設ける改正が行われました。
すなわち、民法109条に2項が新設され、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば、民法109条1項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負うことになりました。
3.無権代理とは?
表見代理を考えるにあたり、まず無権代理とは何かをみておきます。無権代理とは、代理権がないにもかかわらず代理人と称する者が契約を締結する等の代理行為をすることをいいます(民法113条)。
代理権がないので、無権代理では本人に効果が帰属しないのが原則です。
無権代理人については、代理権の証明と本人の追認ができなかったときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負うことになります(民法117条1項)。
4.表見代理とは?
無権代理となる場合の中で、代理人と称する者と本人の間に一定の特殊な関係がある場合には、無権代理行為を有効な代理行為として扱い、本人にその効果を生じさせることがあります。
これを表見代理といいます。民法は、3種類を規定していますが、今回は2つを説明し、残りの1つは次回に説明します。
表見代理のうち、①代理権授与の表示による表見代理とは、本人が他人に対して、ある者に代理権を与えた旨を表示しましたが、実際はこれを与えなかったにもかかわらず、この者が表示された事項について代理人であるとして代理行為をした場合のことをいいます(民法109条1項)。
次に、②権限外の行為の表見代理とは、代理人が与えられていた代理権の範囲を超えて代理行為をした場合のことをいいます(民法110条)。
①の例として考えられるのは、借主Bが貸主Cから借金をするについてDに借主である自己についての代理権を授与したという通知をしながらこれを与えなかったような場合に、DがBの代理人と称してCから金銭を借り受けたというのが具体例です。
他人に代理権を与えた旨の表示方法としては、口頭でも、書面でもよいと考えられています。
②の例として考えられるのは、EがFに対して、自己の土地に抵当権を設定する代理権を与えていたところ、Fがこの土地をGに売却してしまったというような場合等です。
5.Q1の検討
Q1は、前述4①代理権授与の表示による表見代理に当たります。本人Yは、他人(第三者)Xに対し、Aに仕入れの代理権を与えた旨の表示をしており、Aがその代理権の範囲内でXから商品の買い入れをしたのですから、Yは、その行為について責任を負うことになります(民法109条1項本文)。
そのため、Yが代理権を授与したことを主張するXは、Yの責任を追及することができます。
ただし、Xが、Aが代理権を与えられていない無権代理人であるということを知り、または過失によって知らなかったときは、Yはその行為について責任を負いません(同項但書)。
悪意または過失ある相手方については、信頼を保護する必要はないからです。そのため、Yが責任を免れるためには、Aに代理権を与えていないという事実を、Xが知っていたか、少なくとも知ることができたことを証明する必要があります。
このようにQ1については、改正前後で大きな変更はないということができます。
Q2:Aが、Yの代理人といって、店舗を移転するので別の建物を借りる契約をXと結んだ場合に、XはYに賃貸借契約の履行を請求できるでしょうか。 |
A2:改正民法によれば、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば、民法109条1項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負うことになります。 |
6.Q2の検討
Q2は、Aが店舗の賃貸借契約をXと結んだという事例ですから、Yが表示した代理権の範囲を超えています。
改正前民法では、代理権授与の範囲を超える場合には、前述4①代理権授与の表示による表見代理(民法109条1項)には該当せず、前述4②権限外の行為の表見代理(民法110条)についても、表見代理の成立のためには基本代理権の授与が必要であることから、後者にも該当しないことになります。
これに対して、判例(最判昭和45年7月28日民集24巻7号1203頁)は、改正前民法109条と110条を重畳適用して、Yの責任を認めました。
これは判例理論として認められたものですが、民法には直接規定されていなかったため、民法の条文を読んだだけではこのような理論がなぜ認められるのかは一般市民にとってわかりにくい状態でした。
そこで、改正民法で民法109条2項を新設する改正を行ったのです。この規定によれば、このケースでは、Xを保護すべきかどうかは、Aに代理権があると信ずべき「正当な理由」がXにあるか否かが決め手となります。
「正当な理由」の有無はXが証明責任を負いますが、当該事案の一切の事情を総合的に判断して裁判所が認定することになります。
もっとも、店舗の賃貸借契約ではYの店舗に継続的に賃料が発生するものです。
そうであるとすれば、Aの行為が代理権の範囲内の行為であり、代理権があると信ずべき正当な理由がXにあるとまではいえないものと考えられます。
<執筆の参考にしたサイト>
【書式のテンプレートをお探しなら】