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Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 第12回「表見代理に関する規定の改正②」

著者: 日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員  大久保 拓也

Q&Aで学ぶ民法(債権法)改正 第12回「表見代理に関する規定の改正②」

Q:Y社に勤務するAは不動産の賃貸借について代理権限を有していました。XはAの紹介でY社との間で甲不動産の賃貸借契約を締結しています。

あるときAがXを訪れ、「ここだけの話しですが、Y保有の駅前の乙不動産を売りに出そうとしています」と乙不動産の売却をXに持ちかけました。駅前の土地を探していたXはこれを信用して、Aに売買契約締結を依頼しました。

しかし、その後AはXのところに顔を出しません。

XがYに問い合わせると、Yは乙不動産を売却する予定はなく、またAは先月退職しているとして履行に応じません。XはYに売買契約の履行を求めることはできるでしょうか。

A:改正民法によれば、Xが代理権の消滅について善意・無過失であり、同時にAに代理権があると信ずべき「正当な理由」がXにあるか否かによって決まることになります。

1.改正のポイント

令和2(2020)年4月1日から債権法を改正する改正民法が施行されています。

前回の「表見代理に関する規定の改正①」に引き続き、本稿では表見代理に関する規定の改正について取り上げます。


2.改正点の解説

表見代理のうち、民法110条と民法112条のいわゆる重畳適用に関する明文の規定を設ける改正、つまり「代理権の消滅後」における「権限外の行為」について規定を明確化する改正が行われました。

すなわち、民法112条に2項が新設され、他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば民法112条1項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負うことになりました。


3.無権代理とは?

表見代理を考えるにあたり、無権代理についておさらいしておきましょう。

無権代理とは、代理権がないにもかかわらず代理人と称する者が契約を締結する等の代理行為をすることをいいます(民法113条)。

代理権がないので、無権代理では本人に効果が帰属しないのが原則です。

無権代理人については、代理権の証明と本人の追認ができなかったときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負うことになります(民法117条1項)。


4.表見代理とは?

無権代理となる場合の中で、代理人と称する者と本人の間に一定の特殊な関係がある場合には、無権代理行為を有効な代理行為として扱い、本人にその効果を生じさせることがあります。

これを表見代理といいます。民法は、3種類を規定しています。

①代理権授与の表示による表見代理(民法109条)については、前回取り扱ったので、今回はそれ以外について説明します。

まず、②権限外の行為の表見代理とは、代理人が与えられていた代理権の範囲を超えて代理行為をした場合のことをいいます(民法110条)。

次に、③代理権消滅後の表見代理とは、代理権が消滅し、もはや代理人ではなくなった者が、従来の代理権が存在するような前提で代理行為をした場合のことをいいます(民法112条1項)。

②の例として考えられるのは、BがCに対して、自己の土地に抵当権を設定する代理権を与えていたところ、Cがこの土地をDに売却してしまったというような場合等です。

③の例として考えられるのは、Eはその販売する商品の代金を集金する代理人としてFを雇っていましたが、FはEに解雇されてしまいました。

しかし解雇後にFはなお代理権があるかのように装って代理人として集金をした場合がこれに当たります。


5.設問Qの検討

他人に代理権を与えた者(本人)は、代理権の消滅後にその他人(無権代理人)が第三者(相手方)との間でした行為について責任を負うというのが、前述4③代理権消滅後の表見代理です。

第三者が善意・無過失であれば、本人は、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負担することになります(民法112条1項)。

これは、他人に代理権を与えた本人は、自ら代理人を選任して代理権を与えたのであり、他方で代理権の消滅は相手方にはわからないことが多いため、代理権消滅後の元代理人の代理行為をした相手方を保護する必要があるというものです。

この制度の対象は代理権の範囲内で行われた場合であり、権限外の行為(前述4②の民法110条)については該当しません。

もっとも、判例(大判大正7年6月13日民録24輯1263頁、最判昭和45年12月24日民集24巻13号2230頁等)は、改正前民法110条と112条を重畳適用して、本人の責任を認めることとしています。

これは判例理論として認められたものですが、民法には直接規定されていませんでした。

そこで、改正民法は、民法112条に2項を新設し、他人(A)に代理権を与えた者(Y)は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者(X)との間で行為をしたとすれば代理権消滅後の表見代理(民法112条1項)に当たる場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負うと定めました。

設問Qにおいて、Xの請求権を認めるべきかどうかは、Xが代理権の消滅について善意・無過失であり、同時にAに代理権があると信ずべき「正当な理由」がXにあるか否かによることとなります。確かに、Xは退職の事実を伝えられていませんので、善意・無過失といえるかもしれません。

しかし、XはAの紹介でY社との間で甲不動産の賃貸借契約を締結していることから、Aには賃貸借契約の締結について代理権があることは認識しているものの、不動産の売買契約の代理権まであったと信ずるべき「正当な理由」があったと評価することはどうなるでしょうか。

これまでの取引例等も考慮して判断されることになるでしょうが、この点の立証をXができなければ請求は認められないことになるでしょう。


<執筆の参考にしたサイト>

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について


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著者プロフィール

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大久保 拓也

日本大学法学部教授、ミロク情報サービス客員研究員

日本大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。ミロク情報サービス客員研究員として商法・会社法・民法等の研究報告を行う。令和元年改正会社法の審議において、参議院法務委員会で参考人として意見を述べた。日本空法学会理事、日本登記法学会監事も務める。
著書に『法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド〔令和元年施行対応版〕』(共著・ぎょうせい)、『実務が変わる!令和改正会社法のまるごと解説』(共著・ぎょうせい)等多数。

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